特になんにもない一日
アイス食べながら書きました。
エリスがミシャに弟子入りした翌日。
エリスはまだ冒険者登録をしていなかったらしいので、ギルドに向かい登録をした。
その足でミシャとエリスと俺の3人は適当な依頼に出発した。
「『フレイムエアカッター』!」
ミシャの放った炎を纏う風の刃が魔物根こそぎ切り裂き燃やし尽くす。
それをエリスが恍惚とした表情で見ている。こいつ大丈夫か?
「やっぱり、凄いです!ミシャさん!!2種類の魔法を混合して使うなんて」
「いやそんなことないよ」
頭をかいて照れるミシャ。
俺はその2人と様子を少し離れた岩の上に座って眺める。
「あたしとマコトは少し特殊だからね」
「そうなんですか……私にも魔術が使えれば!」
エリスは悔しそうに歯噛みした。
「ちーとの神様が力を貸してくれればなぁ……」
ミシャがなんとなくぼやく。
いくらチートの神様でもそんな傲慢な女には力を貸さないだろう。
「ちーとの……神様ですか?」
「うん。あたしもマコトもその神様の加護を受けてるの。そうだ!神様にお願いすればなんとかなるかも!」
うん?
「ちーとの神様、お願いします!エリスさんに力を貸してください!!……ほらエリスさんもお願いして!」
「は、はい!ち―との神様!どうか私に力を!!」
美少女と美女が空を見上げ両手を上げながら叫んでいる。
なんだこの異様な光景は?
「そんなことしたってだめだと思う……ん?」
アスールが青く光り始めた。
待て待て、おかしいだろ……
「「お願いします!」」
さらに光が強くなる。
「あぁ……そんな……チート神様があんな女に手を貸そうとしてらっしゃるのか?そんな馬鹿な!?」
俺の意思はもう関係ないんですか!?
「「ちーとの神様!お願いします!!」」
2人の願いを叶えるように、アスールから放たれた光はエリスを包み込んだ。
なんてことだ!ちくしょう、裏切られた気分だ!!
「やった成功した!」
「成功?これは……うわぁっ!?」
エリスがもがき苦しみだす。
「頑張ってエリスさん!その試練を乗り越えれば、あなたにも加護が!!」
「わ、っかりました……」
なんだか少ししょぼんな気分だが、まぁ美女がもだえるさまでも見て機嫌なおすか……
1分後。
「どうエリスさん?」
「凄い……全身に力が漲るようです!!」
「うん。よかった!マコト、マナグラス貸して!」
「……あいよ」
ミシャは俺からマナグラスを受け取り、エリスに渡す。
「これをかけて何色の靄が見えるか教えて」
「えっと……緑と黄です」
「じゃあこれでエリスさんは風と土の魔術が使えるようになったはず。マコト、魔術書貸して!」
魔術書を貸してやると2人で食い入るように見始めた。
なんか蚊帳の外だな。
「ミシャ。俺は先に戻ってるから、エリスにいろいろ教えてやりな」
「わかった。じゃあエリスさん、さっそく訓練始めようか?」
「はい!お願いします!!」
大丈夫そうだな、帰ろう。
そのままザインまで戻った。
季節は夏。ザインの街中を歩いていても、みんな薄着になっている。
俺はウィングドラゴンの服を着ているので1年中快適なんだが。
「でもアイス食べたいな……」
こっち来てから甘いものをあまり食べてない。
俺は意外と甘党なんだ。
そのままザイン大通りを適当に一周したが、
「売ってない……」
(もしかしてこの世界にアイスはないのか?)
(そうなんじゃない?)
(なんで冷蔵庫とか冷凍庫みたいなマジックアイテムがあるのにアイスがない?)
(はっそうがないんでしょ)
(なるほど。どうしよう……そう考えたらむしょうに食べたくなってきた……)
(じゃあ、じぶんでつくれば?)
(ナイスアイディア)
食材屋に寄って、果汁の多そうなフルーツ、瓶詰めの生クリーム、砂糖、バニラビーンズっぽいものと適当な鉄の入れ物をいくつか買ってワノクニ亭に戻る。
「ただいま~。女将さん台所貸して!」
「おやおやいきなりなんだい?その荷物は?」
「ちょっとアイス作ろうと思って」
「あいす?」
「とりあえず実物つくってみるから、台所貸して」
「……わかった。ついておいで」
そのまま女将さんと一緒に台所に向かった。
果物を切って果汁を入れ物に入れる。
生クリームに砂糖と砕いたバニラビーンズを入れて、適当にかき混ぜ、味を確かめる。
「うん。いい感じ。じゃあ入れ物に移して……女将さん少し離れてて」
興味深そうに見ていた女将さんを少し下がらせる。
「『コールド』」
水の魔法で瞬時に凍らせる。
鉄の入れ物の蓋を開ける。
「できてる!女将さん、スプーンとお皿頂戴!」
女将さんからもらったスプーンでアイスをすくい、お皿に盛って味見をする。
「う~んこれこれ!これが食べたかった!!」
「マコトさん、私も食べてみていいかい?」
「どうぞ~」
「どれ……美味しい!冷たくて美味しいよマコトさん!!」
「でしょ?いや~作った甲斐があったな」
感動していると……女将さんがなにか考えはじめた。
「ねぇマコトさん。これをうちの食事処で出してもいいかい?」
「別にいいよ」
「本当かい!?」
女将さんは嬉しそうだ。
「マコトさん。ほかにはなにか変わったものはないのかい?」
ほかに今作れそうなものは……あれは卵か?じゃあ……
「女将さんプリン……プディングって知ってるかい?」
「知らないねぇ……」
「じゃあそれも作ってみよう」
残った生クリームと溶いた卵を合わせ砂糖を加える。
それを茶碗に入れ、蒸篭で蒸す。
蒸している間に、鍋に砂糖と水を入れて煮詰め、少し焦がしてカラメルソースを作っておく。
蒸しあがったものを魔法で冷やし、カラメルソースをかける。
「完成!女将さん、食べてみて」
「茶碗蒸しみたいなもんかい?どれどれ……」
「どう?」
「うん。これも美味しい!」
「よかった。じゃあこれも自由にお店で出していいよ」
「いやぁ~ありがとね、マコトさん。これで繁盛間違いなしだよ!」
「まぁ女将さんにはお世話になってるし、これくらいのことならいくらでも」
「本当にありがとうね。あ、そうだ!さっき冒険者ギルドの使いの人が来て、マコトさんにギルドに来て欲しいって言ってたよ」
なんの用だろうか?
「わかった。じゃあさっそく言ってくるよ」
「気をつけてね」
あ、そうだ。どうせギルド行くなら、イリヤにアイスとプリン持っていこう。
保冷用の箱にアイスとプリンとカラメルソースを入れてギルドに向かった。
ギルドの受付でイリヤに声をかける。
「イリヤ、なんか俺が呼ばれてるって聞いて来たんだけど」
「あ、お待ちしてましたマコトさん!」
うん。今日もナイススマイル。
「それで用件は?」
「はい。ガンツ様からマコトさんに依頼の指名がありました」
ご指名ありがとうございま~す。
「依頼内容は?」
「直接お話したいので、ザイン城まで来て欲しいとのことです」
「了解。いつザイン城に向かえばいい?」
「3週間後だそうです」
急ぐ必要はないみたいだな。じゃあ……
箱からプリンを取り出して上にバニラアイスを乗せてカラメルソースをかけ、スプーンを添えて渡す。
「なんですか、これ?」
「まぁ食べてみてよ」
イリヤはスプーンでプリンとアイスをすくい、おそるおそる口に運ぶ。
「ん……美味しい……凄い美味しいです!これマコトさんが作ったんですか!?」
花が咲いたように笑う。そう、その顔が見たかった!
「そうだよ」
「凄いです!あぁ美味しい……」
そのままぺロリと食べてしまった。
「気に入ったならよかった。また食べたいなら、ワノクニ亭の食事処に行けば食べられるから」
「はい!絶対行きます!」
反応は上々のようだ、女将さんも喜ぶだろう。
「じゃあ俺は行くよ」
「はい、ありがとうございました!また今度!」
イリヤに手を振ってワノクニ亭に戻った。
「ただいま~!!」
「戻ったぞ」
「おう、お帰りミシャ、エリス」
部屋でぼんやりしてたら2人が戻ってきた。
「特訓はどうだった?」
「いや、エリス凄かったよ!魔法もかなり覚えたし、体術も上手」
「いえ、それほどでもないです……」
エリスが照れている。そういう顔を俺にも向けてくれないものか……
「とりあえず頑張ったみたいだな。そんなおまえたちに俺からささやかな贈り物がある。少し待ってろ」
部屋を出て、1階の台所からバニラアイス乗っけプリンカラメルソースを二つ持ってくる。
「俺が作ったんだ。食べてみな」
「私のだけに毒を盛ってあるわけじゃないよな?」
エリスが疑わしげに俺を見てくる。
「そんなわけあるはずないだろ?そんなこと言ってないで早く食べろ。溶けちまうぞ」
「じゃあ、いただきます!」
ミシャが一口食べる。
「ん!?美味し~い!!」
その言葉を聞いて、やっとエリスも一口食べた。
「なかなかやるじゃないか!褒めてやる」
尊大な物言いだが、褒め言葉として受け取っておく。
「ねぇマコト。これなんていう食べ物?」
「上に乗ってる白いのがバニラアイス。下の黄色いのがプリン。かかってる茶色い液体はカラメルソースだ」
「聞いたことがないな」
エリスが首をかしげる。
「まぁ俺の創作菓子だからな」
ということにしておく。
「マコトってこんなのも作れるんだ!凄いね!!」
相変わらずミシャは素直でいい。
それに比べ……
「誰にでも作れそうですけどね」
エリスは捻くれてるなぁ……
でもまぁ……いつのまにか全部食べ終わってるし、気に入ったみたいだな。
とエリスのほうを生暖かい目で見ていると……
「なんだ、ヘラヘラして。気持ち悪いぞ?」
「んだとコラッ!?」
「事実を言ったまでだ」
「あん!?」
「なんだ?」
「いい加減にしなさい。2人とも」
ミシャに冷たい目で睨まれながら低い声で叱られた。
「「ごめんなさい」」
エリスと2人で素直に謝る。
なんか最近ミシャに妙な迫力が出てきた気がする。
「まったく……そうだ。エリスの装備作りたいからウィングドラゴンの素材使っていい?」
「おう、いいぞ。ギルドに行ってゼクトに確認とってきな」
「わかった。そのままおじいちゃんの店にも寄ってくるね。エリスさん一緒に行こう!」
「はい!」
「夕飯までには帰ってこいよ」
「は~い。じゃあ行ってきます!」
「行ってくる」
2人は部屋を出ていった。
「俺たちも夕食まで散歩でもするか。よし、でかけるぞアスール」
「ごー!だね!」
今日はなんか一日中ブラブラしてばっかだな。
次回、女が二人荒ぶります。