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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第五章「思いの果て」
53/75

Act.52「前進」

二人きりの別荘には、微かに波の音が響いていた。

カヨとの全てを語った俺を、沙織は呆然と見つめていた。

永遠のような静寂を破り、彼女は躊躇いがちに口を開いた。


「・・・・・・どうし・・て・・・・」


俺は静かに答えた。


「・・・・感染症だよ」


「・・・・・・感染・・症?」


淡々と言葉を続ける。


「ああ。白血病患者はさ、普通なら何でもない菌でも、増殖して、命に関わる事があるんだよ」


あれは、症状が落ち着いて一般病棟に移した矢先の出来事だった。

カヨを死に至らしめた菌は、常に人の身体に存在する無害な菌だった。

だけど、白血病にかかった患者には、通常は無害なそれさえ、有害となる。

常に存在する物だからこそ、無菌室でさえその増殖は防げない。

たとえ無菌室から出なくても、結果は多分同じだったろう。


「お兄ちゃん・・・・」


そっと、抱き寄せられた。


「泣かないで・・・・」


言われて初めて、自分が泣いている事に気付いた。


「・・・・・・・ごめんね。辛い事、思い出させて」


パタリ。

抱きしめられた背中に、滴が落ちた。


「・・・・・・ごめん。ごめんね・・・・」


パタパタと熱い滴を感じ、俺は優しく頭を撫でた。


「謝るな。俺が勝手に話しただけだ」


「でも・・・・」


瞬間、唇を塞いだ。


「んっ・・・・ふっ・・・・」


熱を帯びた声が漏れた。

そのまま歯列を割って中に入り、まだ微かにシャンパンの香りが残る口内を隅々まで蹂躙する。


「んんっ!ふっ・・・・んっ・・・・・!」


吐息が、身体が、熱を増していく。

甘い痺れに身を委ねる。熱を追いかけ、味わう事だけに集中する。

体中で彼女を感じる事で、俺は余計な思考を振り払った。


カヨはもういない。俺が今守りたいのは――――。


胸ポケットからそっと取り出した物を、スッと彼女の指に嵌め、唇を離した。


「・・・・・お兄ちゃん、これ・・・・」


指に光るソレを見て、彼女が驚きの表情を浮かべた。


「良かった。サイズ、合ってたみたいだな」


「そうじゃなくて!これ・・・・」


驚きの表情を浮かべる彼女に、俺はにっこりと微笑んだ。


「婚約指輪。外すなよ?お前が俺の物になるって印なんだから」


彼女の目元がじわりとにじみ、ボロボロと滴が零れた。


「ばか。泣くなよ。それとも、嬉しくないのか?」


彼女はふるふると首を振り、それからゆっくりと口を開いた。


「・・・・・・あたしで、いいの?」


顎を掴み、強引に唇を塞いだ。


「・・・・・んっ・・・ふっ・・・・」


歯列を割り、中へと侵入する。そのまま舌を絡めとり、ねっとりと味わう。


「ふっ・・・・・んんっ・・・・!」


熱い吐息が絡み合い、俺はようやくその唇を解放した。


「本気じゃなきゃ、こんな事しない。お前は嫌か?選べ。今なら引き返してやってもいい」


口の端をあげた俺に、彼女は小さく呟いた。


「・・・・・・嫌じゃ・・ない・・・・」


その答えを聞いた途端、俺は彼女の足をすくい、抱きかかえた。


「きゃっ!お兄ちゃん!?」


「ジタバタするな。返事した以上、今更ダメだとは言わせない。このまま、もらう」


ボッと顔を赤くした彼女をそのままお姫様だっこでベッドルームへ運び込んだ。


「きゃっ!」


スプリングが効いたベッドに受け止められ、小さく悲鳴をあげた彼女の上にかぶさり、すぐさま唇を塞いだ。


「・・・・んっ・・・・ふっ・・・・!」


吐息も身体も、もう十分すぎるくらい熱い。

離した唇から、つぅっとひと筋の糸がつたった。

紅く艶めかしいその唇に、俺はもう、歯止めが効かないほどの熱に支配されるのを感じた。


「・・・・悪い。手加減、してやれそうもない」


「やっ・・・・おにいちゃん!?」


逃げようと動いた彼女の手首を片手で押え付け、再び唇を塞いだ。

戻る気はもう、なかった―――。

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