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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第四章「見えない明日」
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Act.50「別れ」

※病気・医療・ドナーに関する描写は現実と異なる場合がございます。

恐れ入りますが、予めご了承の上お読み頂けますよう宜しくお願い致します。

電話を切った俺はすぐに着替え、部屋の外へと飛び出した!

車に乗り込み、力の限りアクセルを踏む!!


ギュルン!キキキキキ!!


交通量の少ない深夜の道路を、目一杯スピードをあげて走り抜ける!


「カヨ!!」


病院に着いた瞬間、俺は乱暴に車の扉を閉め、力の限り走った!

早く!早く行かなければ!!

焦る気持ちばかりが先だっていた。


夜間外来の玄関に辿り着いた俺は、ぜぇぜぇと息を切らしながら、受付のインターホンのボタンを押した。


ポーン。


無機質な音が響き、やがてザザッという音と共に声が響いた。


『どうしました?』


「連絡受けて来ました!笹宮です!カヨは!杉崎加代子は!?」


ガチャリと音がして扉が開けられ、カヨの担当ナース、今井さんが顔を出した。


「笹宮さん!早くこちらへ!!」


いつもは走るなと怒る今井さんが、今日はバタバタと率先して院内を駆け抜けていく。

俺はスリッパの慌ただしい音を響かせながら、夜の静かな病院内をひた走った。


「早く!急がないと、もう・・・・」


案内された部屋で俺は消毒を受けてマスクを身につけ、急いで中に入った。


「カヨ!!」


周りを囲む医師と看護師を押しのけて駆け寄った。

白いベッドの上、酸素マスクを付けたカヨは、苦しそうな顔でこちらを見た。


「・・・・イ・・・チ・・・・」


弱々しい、声だった。


「カヨ!!」


「・・・・ごめん・・・ね・・・。桜・・見れそうも・・ない・・・・」


「何言ってんだよ!しっかりしろカヨ!頼むから!!」


手を握り、必死で呼びかける俺に、カヨは弱々しく微笑んだ。


「・・・・イチ、幸せ・・に・・・なっ・・て・・・・空で・・・見て・・る・・・・」


「やめろよ!約束しただろ!?なあ!!」


ガクリ―――――。


首がたれ、握っていた手が、落ちた。


「・・・・・カ・・・ヨ・・・・・?なあ、カヨ!!」


ピーっと耳障りな音が響いた。


「・・・・・・カヨ?カヨ!?」


「どいて下さい!!」


すがりつくように肩をゆする俺を、医師が無理矢理引きはがした。

医師が何かをわめき、看護師がバタバタと動く。


「――――――っ!?」


カヨの身体が跳ね、医師がなおもわめいた。


―――――なんだよ、コレ・・・・。


視界が揺れる中、俺は必死で前へ踏み出した。


「カヨッ!!カヨぉぉおおおお!!」


今井さんが俺の腕を掴んだ。


「笹宮さん!ダメです、今は――――」


「離せっ!!カヨ!カヨぉぉおお!!」


直後、喧騒が消え、ピーーッと耳障りな音が響いた。


――――・・・・・です。


呟くように、医師が言った。

その言葉に、俺は耳を疑った。


「う・・・そ・・・だろ?・・・・なあ、カヨ・・・・」


ふらふらと傍らに行き、しゃがみこんだ。


「・・・・カ・・・・ヨ・・・・、嘘・・・だよな・・・・お前が・・・そんな・・・・」


頬に、触れた。


「ほら先生!あったかいんですよ?ねえ!カヨは・・・・・・」


言葉にならない俺に、医師は静かに首を振った。


「う・・・・あ・・・・そ・・・・そん・・・な・・・・うそ・・だ・・・・なあ、カヨ?」


手を握った。温かかった。


「・・・・カヨ、なあ、起きろよ、お前がいいって言ってた式場、今日、下見して来たんだぞ?ドレスも、お前が好きそうなの、いっぱいあって・・・・」


ぴくりとも、動かない。


「・・・・なあ、カヨ、起きろよ、目ぇ、開けろよ・・・・カヨ、なあ!!」


すがりつくいたその時、ふいに肩を掴まれた。

振り向くと、そこに今井さんが立っていた。


「・・・・笹宮さん、もう・・・終わったんです。休ませて・・・あげて下さい」


向けられたまっすぐな瞳に浮かんだ、深い、悲しみの色――――。


「・・・う・・・あ・・・・」


瞬間、俺はその場に崩れ落ち、ひざをついていた。


「あ・・・・あ・・・・あぁああああああ!!!!」


視界を、闇が覆った。




2009年4月28日午前3時42分。

カヨは、死んだ――――。

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