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レインキス  作者: 七瀬 夏葵
第三章「軋む歯車」
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Act.24「白い絶望」

結局彼女は何も話してはくれず、俺は彼女がいつものように笑って世間話に興じるのを見て、大した事じゃなかったんだな、なんて、暗に思っていた。

それが大きな間違いだったと思い知らされたのは、それから数日経った、どしゃぶりの雨の日の事だった。


Rururururu・・・・・。


部屋の電話の音で、俺は目を覚ました。

時計を見ると午前1時。

やがて留守番電話の機械的なメッセージが流れ出し、ピーッという発信音の後に声が聞こえて来た。


『こちら藤乃宮市立病院です。笹宮さんのお宅でしょうか。さきほど樹本沙織さんがこちらに緊急搬送されました。ご本人の緊急連絡先にこちらの番号があったのでご連絡させて頂きました。これをお聞きになりましたら、すぐにこちらまで折り返しご連絡下さい。番号は・・・・・』


そこまで聞いて、俺は慌てて飛び起きて受話器を取った。


「もしもし!沙織が、アイツがどうしたんですか!?」


電話の向こうの相手は、急に俺が出た事に一瞬驚いたようだったが、間違いなく俺本人だと分かると、すぐに冷静に話しだした。


『樹本さんはさきほどこちらに緊急搬送されて来て、今、意識不明です。こちらに来られるようであれば、いらしてから詳しくご説明致します』


「分かりました!すぐそちらへ向かいます!!」


電話を切った俺はすぐさま着替えを済ませ、大急ぎで病院へと向かった。


(沙織!無事でいてくれ!!)


祈るような気持ちで車を飛ばし、深夜の街を駆け抜けた。

やがて目的の病院へと辿り着いた俺は、大雨の中、濡れるのも構わずバチャバチャと水たまりを跳ねさせながら走り、夜間の緊急外来入口へと急ぎ向かった。


「すいません!樹本沙織の搬送連絡を受けて来ました、笹宮です!沙織は、彼女は無事なんですか!?」


夜間受付のインターホンに向かい、叫ぶように言った。


『今鍵を開けます。お待ち下さい』


ガチャリ、と音がするなり、俺はドアノブを掴んで中へと滑り込んだ。

そのままバタバタと中へ駆け込んだ俺を、目の前の看護師が呼び止めた。


「ちょっと!院内は土足厳禁ですよ!」


俺はもどかしい思いで靴をスリッパに履き替えながら叫んだ。


「沙織は!?樹本沙織はどうなったんですか!?」


噛みつきそうな勢いで聞く俺に、看護師は至って冷静に答えた。


「落ち着いて下さい。命に別状はありません。処置室にご案内しますから、着いて来て下さい」


俺は看護師の案内に従って院内の廊下奥へと進んだ。

夜の病院は静まり返っており、俺達の足音だけが廊下に響き渡っていた。

やがて看護師は『処置室』と書かれた扉の前で止まり、廊下に設置された長椅子を指し示して言った。


「そこにかけてお待ち下さい。今、先生をお呼びしますから」


看護師は扉の中へ消え、残された俺はとてもその長椅子座って待つ気にはなれず、落ち着かない気持ちで目の前の扉を見つめていた。


(どうして彼女が!?本当に彼女なのか!?)


そんな疑問が湧き、何かの間違いならいいのにと思わずにはいられなかった。

やがて部屋の中から白衣を来た医師が出て来て、俺はバッと駆け寄った。


「あの!沙織はっ、彼女は無事なんですかっ!?」


飛び付かんばかりの俺の勢いに、医師は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに冷静な顔で口を開いた。


「あなたは樹本さんの御身内ですか?」


「いえ、俺は彼女の婚約者です」


とっさに嘘を吐いた。こういう時、ただの恋人では本当の事を話して貰えはしないという事を“一年前のあの時”に経験していたから。


「そうですか・・・・」


医師は何かを考えるように目を伏せ黙り込んだ。


「先生!彼女は無事なんですか!?教えて下さい!!」


再び尋ねた俺に、医師は顔をあげ、口を開いた


「安心して下さい。命に別状はありません」


それを聞き、ようやくホッと息を吐き、幾分落ち着きを取り戻して医師に尋ねた。


「あの、一体彼女に何があったんですか?」


「・・・・樹本さんは、薬物とアルコールの過剰摂取、それに、手首を切って出血多量の意識不明状態で搬送されて来ました」


冷たさが全身を支配した。

つまり、彼女は・・・・・・。


薄暗い廊下の白さがやけに目に着く。

痛いくらいの静寂の中、俺は茫然と、そこに立ち尽くしていた。

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