Act.17「雨の檻」
ふいに雨が降り出した。
俺達は雨を避ける為、ひとまず近くの立体駐車場へと駆け込んだ。
休みの日の早朝だけあって車もほとんどなく、俺達以外誰もいなかった。
辺りはシンと静まり返り、激しく降りだした雨の音が、うるさいくらい響いている。
「しばらくここで雨宿りしよう」
彼女は無言で頷いた。
「・・・・なあ、お前、何でさっき俺を見て逃げたんだ?」
彼女はうつむき、しばらく黙り込んだままだったが、やがて静かに口を開いた。
「・・・・怖いから」
「は?怖いって、俺が?」
驚く俺に、彼女はハッとしたように顔をあげ叫んだ。
「違うの!お兄ちゃんが怖いわけじゃないの」
「じゃあ、何が怖いんだ?」
「ん・・・・・」
彼女はふぅーっと大きな溜め息を吐いた。
「なんか、訳があるんだろ?良かったら話してみろ、な」
その目に酷くためらうような色が浮かび、彼女は自嘲気味に笑った。
「・・・・ん。ちょっとね、色々あって」
それは、あまりに痛々しい、今にも泣きだしそうな笑顔だった。
それを見た次の瞬間、俺は思わず、彼女を抱きしめていた。
「お、お兄ちゃん!?」
彼女の驚いた声が、無人の静かな立体駐車場に響いた。
「いいから、このまま聞け」
抱きしめる腕に力を込めた。
「お前が何を怖がってるのかわからないけど、俺は、お前を傷付けたりしない。だから、大丈夫だ。安心して、そばにいていいんだよ」
言い聞かせるように言った。
それはむしろ、俺の為だったのかもしれない。
俺は、怖かった。
この手を離せば消えてしまうんじゃないか。
そんなふうに思うほど、目の前の彼女は儚げで、弱々しかった。
彼女の小さな身体が、震えた。
「だめ・・・・。だめなんだよ、だって、あたしは・・・・」
小さく言い、離れようとした彼女を、俺は強引に引き寄せた。
「――――――!!」
離したくない。
塞いだ唇が、俺の身体を熱くしていく。
外には雨の檻。
引き返す気はもう、なかった。