Act.16「守りたい」
朝日が目にしみる。
散々飲み明かした俺と山田さんは、その後二人で朝まで徹夜カラオケコースで延々歌いまくった。
現在時刻AM5:30。もうすぐ始発が出る時間である。
「じゃあイチ、俺、始発で帰るけどよ。どうだ、これから家に来ないか?アイツもたまにはお前の顔が見たいって言ってたし」
笑顔の山田さんを前に、俺はちょっとだけ考えた。
山田さんの奥さんとは、俺も会社の寮の役員をやってた同士の関係上で親交があるから、まあ、家にお邪魔する事自体はやぶさかじゃない。
しかし、それにしても一晩中旦那さんを付き合せた上に、朝から新婚家庭にお邪魔するのはさすがに失礼ってものだろう。
「あー・・・・、嬉しいんですけど、やっぱり今日は遠慮しときます。予定もあるんで」
「そうか?じゃあ、またな!」
山田さんは手を振って元気に改札の向こうへ消えて行った。
同じ徹夜明けなのにえらい元気な人だ。
俺は、山田さんを見送ってから一人寂しく歩き始めた。
その時だった。
「ん、あれは・・・・」
交差点の向こう側に、自転車で信号待ちをしている人物が目に入った。
俺が見ると、向こうも俺に気付いたようで、ハッとしたように俺を見たかと思うと、パッと自転車にまたがり、通りの向こう側へと走り出してしまった。
瞬間、信号が青に変わり、俺は弾かれたように走り出した。
「おい!ちょっと待てよ!!」
必死で叫んだが、前を走る自転車の主は一向に止まる気配が無い。
俺は、目の前の自転車まで何とか追いつこうと必死で走った!
「こら待て!何で逃げるんだよ!?」
走りながら叫んだが、自転車の速度は一向に弱まる気配がない。
「待てって言ってるだろーがぁっ!!」
俺は更に加速し、思いっきり走った!
その時だった。
「うわっ!!」
捨てられていたペットボトルに引っかかり、足がもつれた。
まずい!と思った次の瞬間、俺の身体はコンクリートに打ちつけられていた。
「いってぇ・・・・」
どうにか受け身を取ったものの、あちこちを派手にすりむいたらしく、ズキズキと痛む。
直後、キキッと音がして、バタバタとこちらへ駆けて来る音がした。
「だ、大丈夫!?」
倒れている俺を、さっきまで自転車で爆走していた人物が心配そうに覗きこんだ。
「はは、何とかね。それよりお前、何逃げてんだよ?お陰でこんな怪我する羽目になったじゃないか」
「ごめん・・・・」
申し訳なさそうに謝られ、俺はふぅーっと大袈裟に溜め息を吐いて言った。
「いいよ。許す。お兄ちゃんはそんなに心狭くないからな」
すると彼女は、泣きそうな顔で笑った。
「ありがとう・・・・お兄・・ちゃん・・・・」
その時、思った。
・・・・守りたい。
俺は、コイツを・・・・・
それは、心から溢れる、素直な気持ちだった。
理由なんかどうだっていい。
目の前にいるコイツを、守りたい――――。
昨夜のモヤモヤした気持ちはもう、何処にもなかった。




