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僕と彼女の猟奇的な日常 ――怪物が現れるようになった日常で、歪んだ俺の性格が武器になる? なぜか海外からも依頼が来るようになった――  作者: nnnkkk
第二章 続 僕と彼女の猟奇的な日常

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第五話 要請


人の声。車の走行音。信号待ちのざわめき。

その中でも、着信音だけは妙にはっきり聞こえた。


茂は足を止めず、スマホを取り出す。


【K市害獣警報センター】


小さく息を吐いた。


「はい」


声に感情はなかった。

『K市害獣警報センターです』


「どうも」


足は止めない。

前方の人影。交差点までの距離。周囲の速度。電話中でも、意識の半分はそちらに残っていた。


『少し、相談なんですが』


――またか。


制度上は曖昧な言い回しだった。

だが、この電話では何度も聞いている。


正式な要請ではない。

だから拒否もできる。


ただし、相手が何を求めているかは最初から決まっていた。


――面倒な案件。


茂は反応しない。

驚きも、確認もない。ただ、相手の続きを待つ。


この言い方をされた時点で、簡単な話ではない。

それも、もう知っている。


『中型が出ています』

予想の範囲内だった。


『場所が……少し厄介で』

その濁し方だけで、面倒な場所だと分かった。


「……屋内ですか」


『はい』


『保育園です。現在、登録側も動いていますが……』

『火器の運用が難しい環境で』


園児と職員。誤射のリスク。跳弾。二次被害。

火器を使える状況ではない。


『状況次第では、近接対応が必要になる可能性が高いと判断しています』


センター自身の判断ではない。現場が、近接で動ける人間を求めている。

誰を指しているのかも、考えるまでもなかった。


『出動、お願いできますか』


依頼口調。

だが、断ることもできる。

ただ、その前提で掛けてきた電話ではない。


茂の頭には、すでに数字が並び始めていた。


混戦。補正の凍結。負傷した場合の損失。回収控除。拘束時間。

それらを差し引いて、いくら残るか。


「現場見て決めます」


反射的に出た、いつもの返事だった。そこに感情はない。


『……助かります』


声に、わずかな安堵が混じった。


「はい」


スマホをポケットへ戻し、歩き続ける。速度は変わらない。


――稼げる現場なら受ける。







センターからの通話が終わってから、数分後だった。


端末が短く震えた。現場情報のメールだった。

茂は足を止め、画面を開く。


案件番号。

位置情報。

補足条件。


一通り目を通し、小さく息を吸った。頭の中で条件を組み直す。


そのまま向きを変え、歩き出した。

足取りは変わらない。


焦ったところで、できることが増えるわけではない。







最後の交差点を曲がった瞬間だった。

視界の奥で光が滲む。


赤色灯。

青色灯。


規則的な点滅が、街の景色に不自然な色を重ねている。距離が縮まるにつれて、異様さの正体が明確になる。


多い。

保育園は、すでに完全に囲まれていた。


警察車両。

救急車。

消防車。


その外側には、橙色のベストや迷彩服を着た猟友会の人間たち。

銃を手に、静かに展開している。


それでも――誰一人として、銃口を建物へ向けてはいなかった。


近隣住民は規制線の外に押し出され、ざわめきが続いている。


無線が鳴る。


「接触なし」

「視認不可」

「内部動静不明」


それだけで状況は理解できる。


――撃てない現場。


保育園の建物は、異様なほど静かだった。


人の気配はある。

だが、窓にも出入口にも動きはない。


無線が短く鳴る。

「内部で物音」


誰も応じない。


直後、建物の奥で音が弾けた。


重い衝突音。

遅れて何かが倒れ、ガラスの割れるような硬い音が続いた。


誰かが息を止めた。

視線が一斉に建物へ吸い寄せられる。


悲鳴ではない。

叫びでもない。


短い音。

何かが潰れたような音。


そして――静寂。


無線が鳴る。


「内部、音途絶」


誰も建物へ近づかない。

その場にいる全員が動きを止めていた。



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