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僕と彼女の猟奇的な日常 ――怪物が現れるようになった日常で、歪んだ俺の性格が武器になる? なぜか海外からも依頼が来るようになった――  作者: nnnkkk
第一章 僕と彼女の猟奇的な日常

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第37話 映ること、残ること

ご覧いただきありがとうございます。本日は1話投稿です!

店長はカウンターの奥で買い取った品を並べ直していた。


腕時計、古い端末、電動工具。

メーカーも世代も揃っていない。


値札の付いていない物が無言で順番を待っている。

売り場に出る前の判断待ちの山だった。


茂は伝票を棚に戻しながらその中の一つに目を留めた。


スポーツグラス。

黒一色のフレームで余計な装飾はない。

派手さはなく、主張もしない。


レンズの外側に、小さな突起が埋め込まれているのが見えた。

角度を変えると、光を反射して一瞬だけ存在を主張する。


「それって」

茂が指さすと店長はちらりと見ただけで言った。


「型落ちだ、サポートも切れてる」


茂は手に取った。

軽い。だが、安っぽさはない。

フレームの継ぎ目も、ヒンジの動きも雑じゃなかった。


掛けてみる。

視界はほとんど変わらない。色味の補正も、強調もない。

ただ、邪魔にならない。


「AI入ってます?」


「ああ。補正と表示だけだ」

「喋りもしねえし、指示も出さねえ」


余計な機能はない。

それを欠点だと思う客が多いことも、茂には想像がついた。


茂は外し、畳んで手の中で重さを確かめた。

ポケットに入れても嵩張らない。

常に身につけていても邪魔にはならない。


「いくらですか」


店長は少し考え、肩をすくめた。


「買取は七千円だ。売値は今考えてる」

「状態は悪くねえが、欲しがる客がいねえ」


理由は明確だった。

娯楽にも最新機器にもならない。

仕事用としては中途半端で一般向けには地味すぎる。


茂は財布を出した。


「一万で」


店長は茂を見てすぐに視線を品物へ戻した。


「……いいだろ」

「それで持ってけ」


金を置き、グラスを受け取る。

視界補助の性能は今試さない。


必要なのは、

映ること。

残ること。

あとから消されないこと。


それだけだった。


レジの音が鳴り、店内はいつもの昼に戻った。







雑居ビルを出ると昼の空気がそのまま押し寄せてきた。

茂は歩きながらスポーツグラスを掛け直す。


軽い。

視界を塞がない。

フレームの存在感はほとんど消えている。


指でフレームの外側を叩く。

レンズの隅に薄く情報が立ち上がった。

録画、時刻、簡素なステータスだけ。


余計な表示はない。

それがかえっていい。


歩きながら首を振る。

輪郭が遅れずについてくる感覚。

補助は強くないが、邪魔もしない。


――悪くない。


交差点に差しかかったときだった。


鈍い衝撃音。

続いて金属が歪む低い音。


視線を向けると、路肩で何かが跳ねた。


小型か。

視界補助がわずかに効いた。

跳ねられたそれの動きが遅く見える。

無駄なブレが抑えられ、位置がはっきりする。


路肩に倒れた。身体が断続的に引きつる。

立ち上がれる状態じゃない


古いRAV4が止まっていた。

緑と銀のツートン。

前には後付けのパイプバンパー。

使い込まれているが歪みは少ない。


登録だな。たぶん。

車体の補強、動きに迷いがない。



助手席のドアが開いた。

降りてきたのは登録駆除従事者。

慣れた動作で後部座席から長いバールのような物を掴む。


刃はない。

だが曲がった先端に重さが見える。


躊躇なく近づき、三度振り下ろした。

それで音が止まった。


茂は歩調を緩めずその一連を見ていた。

レンズの隅で、RECインジケータが静かに点灯している。


――視界補助、あった方がいい。


そう思いながらそのまま通り過ぎた。








アパートの階段を上がり、部屋の鍵を開ける。

靴を脱ぎドアを閉めたところで、茂は一度だけ立ち止まった。


部屋は静かだった。

空気も温度も、さっきまでの昼の続き。

ソファに腰を下ろせば、そのまま動かなくてもいい。


――今日は、出ない。


そう決めてもよかった。

理由はいくらでもある。

だが決め切る前に音が鳴った。


スマホの警報。短く鋭い振動。


画面を開く。


推定中型。

発生地点は住宅地スーパー付近。


距離表示は思ったより近い。


茂は無意識に情報を流し読みした。


住宅地。

スーパー。

時間帯はまだ昼。


――囮が多い。


頭の中で条件が並ぶ。

人の動線、逃げ遅れる可能性。

パニック。

そして、介入。


迷いが一瞬だけ差し込む。


いけるか?


槍のケースを掴む。

中身の重さを確認するように、持ち替える。


腰のベルトに、スプレーのホルスターを通す。

位置を調整し、手探りで抜けるかを確かめる。


迷いはもうなかった。


ドアを開ける。

外の空気が一気に流れ込む。


茂はそのまま勢いよくアパートを飛び出した。



走る。


アパートを出た瞬間から茂は速度を上げた。

最初の角を曲がるまでに呼吸が整う。


一瞬原付があればと考えがよぎる。



――いらない?


脚が前に出る。

舗装の感触が、足裏に素直に返ってくる。

以前より、明らかに身体が軽い。

踏み込んだ分だけ、前へ進む。


速い。

はっきりと分かる。


肺は苦しくない。

心拍も、まだ余裕がある。

脚だけが、先に行きたがっている。


気づけば、景色が変わっていた。

住宅の並びが密になり、看板が増える。


体感で十分。

快調だ。


実際に何分走ったのかは分からない。

スマホを見る余裕はなかった。


遠くから、音が聞こえ始める。

人の声。

車のクラクション。

何かが倒れる乾いた音。


現場は近い。


角を一つ越えると、空気が変わった。

混乱している。

視線が散り、足が止まり、逃げ道が詰まっている。


駆除屋がいるかどうかは分からない。

登録の車両も、規制線も見えない。


茂は立ち止まり呼吸を整えた。


ケースを下ろす。

留め具を外し槍を組み立てる。

動作は速いが雑ではない。


刃先近くのポートを確認し、V-Gelを一本差し込んだ。


確実に噛み合った感触。

装填。


茂は、槍を握り直した。

刃先の重さを、もう一度だけ確かめる。

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