20話 天才の成長は早し
「まさか…できるようになるとは…」
季節は冬。
俺がこの街に来て10ヶ月が経っていた。
あと2ヶ月ほどで俺達はこの街をたつ。
が、今日はいつもと変わらずカオルと剣術の修行だ。
そこで衝撃が走る。
カオルが「月光斬」を習得したのだ。
カオルはまだ6歳。
もう少しで7歳になるとは言え、成長スピードが俺より異常だ。
奥義について教え始めたのは、つい3ヶ月前だぞ。
なぜだ?
「この模倣眼ってすごいんだね〜。見ただけでなんとなくコツが分かっちゃう」
…ん?待て?
たしかに模倣眼は見ただけで技の構造はわかっても、コツは個人によるものだからわからないはず…
…あ…なるほど…
カオルはいわゆる天才肌なんだ。
感覚が異常に発達してるから、構造を理解するだけでどんな動きをすればいいか分かるんだ。
そりゃ……エグい。
そんな天才肌はどこ探したっていねーよ。
そしてカオルは水、風、影、治癒を上級まで使用できるようになった。
他は中級だったり初級だったりするが、まあいいだろう。
あまりの成長スピードに、俺もナナ師匠も驚きを隠せない。
…なら、旅の前にやっておくべきことがあるな。
「カオル…」
「…?何、お兄ちゃん?」
「明日、魔術と剣術のテストをする」
「わかった!何するの?」
「組手だ」
ーカオル・パルト視点ー
朝になった。
外からはいつものように空気を切る音が聞こえる。
見ると、そこにはお兄ちゃんがいて、木刀を持って何かと戦ってる。
別に相手はいない。
なんでも「対人戦を想定したイメージトレーニング」らしい。
よく見ると、お兄ちゃんは目を瞑っている。
今日は、あのお兄ちゃんと戦うんだ。
部屋から出て、下に降りると、ナナさんがいつものように朝食を作っている。
「おはようございます。ナナさん」
「あ、おはようございますカオルさん。朝食できてますよ」
そういうとナナさんは目を瞑って、そのまま固まった。
多分、2人は念話をしている。
お兄ちゃんとナナさんは念話を使えるから、2人が話すときはそうしているらしい。
そして、お兄ちゃんが家の中に入ってくる。
「お兄ちゃん、今日はいつから組手を始めますか?」
「ん?そうだな…お昼すぎにするか」
「はい!」
そして昼。
僕達は国を出てすぐにある林の開けた場所に来た。
いつもここで修行をしている。
「さて、はじめようか。この組手は魔術と剣術、どちらも使ってかまわない。俺を殺すつもりで来なさい」
「は、はい!」
「では、審判は私がやります」
ナナさんがそういうと、僕とお兄ちゃんは構えをとった。
………。
………。
………。
「…はじめ!!」
僕は魔術を撃った。
中級の火魔術だ。
「ふんっ!」
お兄ちゃんはその攻撃を受け流した。
流剣術だ。
「おりゃーー!」
私は攻撃を続けた。
剣術を連続で出し、お兄ちゃんに攻撃させない。
そういう作戦だ。
カンッ!
カンッ!
辺りには木刀の音が鳴り響く。
お兄ちゃんはひたすら防御に徹する。
「どうしたどうした?まだまだ行けるだろ?」
お兄ちゃんは余裕そうだ。
今の僕じゃ、お兄ちゃんには勝てない。
けど、今日は勝つのが目的じゃない。
お兄ちゃんに認めてもらうのが目的だ。
だから、僕はずっと練習した技を、お兄ちゃんにぶつける!
「風の連撃!」
「…!?」
お兄ちゃんに不可視の攻撃が当たった。
風の魔術による連撃は予想外のようだった。
今だ!
「月光斬!」
カーン!
お兄ちゃんは僕の攻撃に気づいて防御をとった。
けれど、少し遅かった。
僕の攻撃は、お兄ちゃんの木刀を弾き飛ばした。
ズズズッ!
「…!?」
お兄ちゃんの圧に背筋が凍ったような感覚になった。
僕は、闘技大会のお兄ちゃんの動きを思い出した。
お兄ちゃんはまだ、影魔術を使ってない。
…まだ終わってない。
そう思った僕は構え直してお兄ちゃんに…
「そこまで!」
…え?そこで僕は我に戻った。
お兄ちゃんは、攻撃をしようとせず、笑みを浮かべてこちらを見ていた。
「よくやった。これなら旅に連れてっても大丈夫そうだ。これからも頑張れよ」
こうして僕は、お兄ちゃんに認められた。
僕は安心して、その場に座り込んでしまった。
ーレオリオス視点ー
…危なかった。
まさか木刀を飛ばされるとは思わなかった。
危うく杖を出してしまうところだった。
ナナ師匠の声でギリギリで止められた。
カオル…やっぱり俺よりセンスあるだろ、これ…
抜かれないように頑張ろう。
あの月光斬のタイミングとスピードは完璧だった。
俺もあそこまで完璧な瞬間では反応できない。
…この1年未満でのカオルの成長はとてつもないレベルだ。
これなら安心して旅に連れていける。
その夜。
「カオル。私からのプレゼントです」
ナナ師匠からカオルへのプレゼントだ。
事前に見てはいないが、俺はなんとなく見当がついている。
「わぁ、杖だ〜〜!」
「どうですか?気に入ってもらえましたか?」
どうだろうか。
俺の時は馬鹿でかい杖だったからな…
カオルは大丈夫だろうか…
「はい!とってもかわいいです!」
…ん?
かわいい?
俺はカオルの杖に視線を向けた。
小さい…だと?
それは、先に青い魔集石をつけた30センチくらいの杖だった。
………。
『ナナ師匠…なぜ俺の時はあんなにデカかったんですか』
『……実は…あの時は弟子に物を贈るのが初めてで…レオだったら収納魔術も使えるかな〜と思い…張り切ってしまって…』
『………』
そういうことですか…
まあ、カオルが喜んでいるのだから…もういいです。
杖は今でもお気に入りだし…
『俺が収納魔術を覚えられなかったらどうするつもりだったんですか?』
『………』
ナナ師匠はその後、念話でも地声でも黙り込んで、少し落ち込んだ。
なんか……すみません。
まあ、寝る前にまた音楽の話をして機嫌を直してもらおう。
俺はそう決めて、2ヶ月後の旅の準備をするのであった。




