第8話
紅い月明かりの下、ゾンビ娘の火羽 恵に連れられて獣道をひたすらに登っていく憑神と羽子 一葉。
人1人しか通れないような細い山道を木々や草を掴みながら、慣れない足取りで軽快に歩く恵の後を追う。
「もっ、もう、ボク歩くの嫌……」
息を切らし、途中で座り込んでしまう一葉。その様子を見て、少しだけ先に居た憑神は雑草を掴みながら坂道をすぐさま下ってくる。
憑神は左手で木を掴んでバランスを取りながら、一葉に右手を差し出す。
「一葉、大丈夫か?」
一葉はぶんぶんと顔を横に振る。憑神は一葉の腕を引っ張って立たせると、一葉をおんぶして再度獣道を登り始める。
腕を引っ張られたと同時にいつの間にかおんぶをされていた一葉は、気恥ずかしさから憑神の背で足をぱたつかせる。
「つ、憑神さんっ。ボク、ちょっと休んだら追いかけるからっ」
「今あのゾンビ娘を見失ったら、絶対に迷うだろ。しかも、ここ普通の場所じゃなさそうだし、はぐれたらもう二度と会えないかも」
ばたばたと背中で暴れる一葉を抑えつつ、憑神はゾンビ娘の恵の後を追う。辺りは畑で恵に会ったときよりも月は煌々と紅く光り、獣の奇妙な息づかいが暗い木々の間から漏れていた。
そのことに気が付いた一葉は体を縮こませる。
「分かったよ、憑神さん。でもボクをおんぶしてくれなくても」
「うん?」
「ボク、この”箱”の中に入れるのに」
「ああ、そういえばそうだったな」
一葉が破れた小箱を取り出すと、憑神に手を回して見せつける。憑神はカラカラと笑いながら、一葉をそのままおんぶし続ける。
気恥ずかしさから頬を赤くしながらも、大人しくおぶられていた。
*
「おー、い。ここ、だよー」
獣道を抜けて、開けた場所へと出た恵は一気に駆け出して、茅葺きの古風な日本家屋へと駆け出す。
憑神は背から一葉を下ろすと、辺りをまじまじと見つめる。
「何とも言えない雰囲気の場所だな」
「……このお家、ボクのお家に似てる」
2人は跳ねるように辺りを見て回る恵を見ながら、ぼそりとみたままの光景を離す。
恵の方はがさがさと家に出たり入ったり、辺りに向かって大声で叫び続ける。
「大狼、様ー! お客、さんーっ!」
「んっっ!?」
瞬間、憑神が感じる濃密な気配と貫かれるような強い視線。
とっさに振り返ると銀毛の大狼が憑神の後ろに迫っていたのだった。




