羞花閉月、顕現する三人目の人造人間‐①
――晒菜たちが目指したユーグレナプラントは、奇しくも湖面に咲く水の華に沈んで消えてしまった……
晒菜たちがユーグレナプラントの前に到着したのと同時刻、ユーグレナプラント内では……
「やっぱり、やってきたわね……雄山シリーズ……」
「この施設は破壊する……破壊しなければならない……」
GSS計画推進グループ、通称「緑威」所属の邊牟木 霜葉と雄山シリーズ三人目の人造人間、三改木 森羅が相対していた。
「あいにく私たちの組織も人手不足でここは私一人で見張ってたんだけど、そっちも一人ならちょうどフェアだし良かったわ……」
「そうだな、こちらも大勢の軍勢を相手にしたのでは時間の無駄というものだ。一人で助かった、礼を言う」
「減らず口をっ!」
邊牟木はそう言って三改木の懐に飛び込みナイフで胸を一突きした。
――と錯覚した。
「!?」
刺されていたのは三改木ではなく邊牟木の方だった。
心臓を一突き――即死だ。
「すまない、これも人類の未来のため……悪く思わないでくれ……」
三改木は血でべとべとになった刃を仕舞った。
「こういう施設には証拠隠滅のためにどこかに自爆スイッチのようなものがあるのがお決まりのパターンなんだが……」
一通り施設の中をうろついた後、ようやくスイッチをみつけた。
「やはり、あったようだな。これで……」
天井が崩れ落ちてくるのも物ともせずに、三改木は颯爽とこの場を後にした。
――これが、ユーグレナプラント倒壊事件の顛末である。
晒菜と二目木は、建物から脱出した彼女を見逃さなかった。
「升麻! あれ!!」
「ん? あれは……」
人間か?というのが晒菜の純粋な感想だった。それほどの速度で彼女、三改木森羅は移動していた。
「あの異常なまでの身体能力、おそらく私の姉妹、マイシスターですよ! 雄山院長は何も言わなかったですけどきっとそうですよ!!」
二目木はやけに興奮していた。まあ、血はつながっていないにしても、姉妹的な扱いなんだししかたないか……
「お姉さんなんですかね! 妹なんですかね!」
「そりゃあ、作られた時期によるんじゃないのか? よくわかんないけど……」
まあ、正直時期なんて関係なかったりするのかもしれない、それはもう院長のみぞ知るといったところだろう。
「おっとっと! そんなこと言ってる場合じゃないですね。とにかく早く追いかけましょう」
「そうだな、早くしないと見失ってしまうぞ」
そうして晒菜と二目木は結局出番のなかった綺麗な沼浮沓をほっぽり出したまま駈け出した……
「……ん?」
三改木も背後から迫りくる何者かの気配を察知した。
「一人……いや二人か……」
私としたことが、尾行されてしまうなんて……ぬかったな……
そう心の中でつぶやいた三改木は動きを止め臨戦態勢に入った。
「さあ! 来い!!」
「うひっつ!」
「……っ!」
三改木のものすごい剣幕に気圧されてしまう晒菜と二目木。
「貴様ら何者だ? 何故私をつけてきた?」
とりあえず晒菜がとった行動は白旗を揚げることだった。両手を開いて挙げることで敵意のないことを示そうとした。
「……戦う前から降参だと? いったい何が狙いだ……」
依然として手に刃を握ったままの三改木。それもそのはず、三改木は雄山院長以外の味方と出会ったことがない。
どうやら三改木の警戒心を解くのは一筋縄ではいきそうにないと判断した晒菜。そこに二目木が無謀ともいえる行動をとった。
「お姉ちゃん!!」
三改木に対して一目散に走り出した。
「馬鹿っ! なにやってっ!!」
晒菜の反応が遅れた。二目木はあろうことか三改木に抱きつこうとしていた。
「寄るな!」
――白人一閃。
見事な太刀筋だった。
二目木は腹部を切りつけられその場にうずくまる。
「おい! 林檎!! しっかりしろ!」
姉妹同士で戦いあうなんて絶対におかしい。だが、頭に血が昇ってしまっている彼女をどうすればいいんだ……
「貴様も死にたくなければ、この場から去れ! 私は無駄な殺生は好まない」
「どうか話をきいてくれ! 目的は同じはずだなんだ! 俺たちの目的もGSS計画の阻止なんだよ!!」
「世迷言を……するならもう少しましな命乞いをするんだな」
殺される。このままじゃきっと殺されてしまう。背筋に悪寒が走った。晒菜は死を覚悟した。
「……三改木森羅、参る!」
そうやって一歩を踏み出そうとした、その矢先の出来事だった。
「何!?」
風を切るようにヒュッと横から槍が飛んできた。まさに横槍が飛んできた。
「くっ……増援か……いったん引くか……」
そういって三改木はあっさり姿を消した。
「なんなんだ……これは……」
陸上競技で使うような長く鋭い槍。どこから投げたのだろうか、木の間をうまくすり抜けてこの場所まで届かせたらしい。犯人の姿を視認できない。
「弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂ってやつだな……」
三改木の脅威は去ったもののまた新たな刺客に目を付けられたのでは状況はたいして変わっていない。むしろまだ姿すら見えていないのだからさっきよりも状況は悪くなっている。
「林檎、今すぐこの場を離れるぞ! 歩けるか……」
「はい、どうやらあの方は手加減してくれていたみたいです。だから傷は浅いですので、大丈夫です……」
すっかり血の気が引いてしまっている二目木。だが悠長なことはやってられない。晒菜は今にも倒れてしまいそうな二目木の手を引っ張って急いでその場を離れた。
「ふーん。二手に分かれたってわけね。さあて、どちらを追いかけましょうかね……」
そう余裕の表情をみせるのはGSS計画推進グループ、通称「緑威」所属、馬酔木 翠菜である。
「とにかく走れ!」
全力でダッシュする二人。見えない恐怖というものは想像以上に二人の精神を疲弊させることとなった。
「はあ……はあ……」
「まったく波乱万丈ってのはまさにこのことですね……」
「しゃべってる暇なんてないんだ、ほら急ぐぞ」
「……!?」
突如、と表現して良いのだろうか。気が付いたらという表現が正しいのだろうか。
――唐突に、
――突然に、
彼女はそこに現れた。
8月16日(水)7時更新です☆




