↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「君を愛するつもりはない」〜殿下大変です!誠実すぎて言葉選びを間違えてます  作者: 青夏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/11

1.「君を愛するつもりはない」

最近書いてた話の反動で純愛ものを書きたくなりました。短編には長くなったので連載を始めてみます。

お付き合いいただけると嬉しいです!

「君を愛するつもりはない」


 結婚初夜、夫婦の寝室にやって来たジークフリートは、口を開くなりそう言い切った。

 暴言を吐かれる形になった新妻のディアーヌは、大きなアメジストの瞳を溢れ落ちそうなくらいに見開いて、ジークフリートを見上げていた。


 ディアーヌは、胸の前で祈る様に両手を重ね合わせると、ジークフリートに遠慮がちに尋ねた。


「あ、あの……それは、その……他に愛妾がいらっしゃる、とか?」

「違う!」


 ぎょっとした顔で、即座に否定される。驚いたのはディアーヌの方である。


「え、えっと……じゃあ」


(女性に興味がないとか、かしら?)


 この結婚は、国家間で取り決められた政略結婚である。理由もなく白い結婚を求めるなど、許されるものではない。

 流石に口にするのは憚られ、困ってしまったディアーヌが首を傾げると、ジークフリートは小さく息を吐き出した。


「君はまだ十七歳だろう」

「え」


 思ってもみなかった言葉に、ディアーヌはぽかんと口を開ける。

 確かに、ジークフリートの言う通り、ディアーヌは十七歳である。

 けれどそれが一体何だというのだろう。


「君はまだ未成年だ」


 ディアーヌの頭の中を見透かした様に答えをくれたジークフリートの口調は、まるで幼子に言い聞かせるようで。


「こちらの国は十五歳で成人のはずですわ!」


 子ども扱いにムッとして、気づいたら反射的に反論を口にしてしまった後だった。


「そうだな。だが、君の母国では違うだろう」

「それはっ!……はい」


 ジークフリートの言い分は事実だった。

 嫁ぎ先のこの国は、成人年齢が十五歳。

 しかし、ディアーヌの母国は成人年齢が十八歳だった。


 つまり、十七歳のディアーヌは、本来なら婚姻年齢に達していなかったのである。

 

 それが何故、まだ未成年であるはずのディアーヌが嫁ぐことになったのか。

 それは、近隣国の軋轢によるものだった。







 ディアーヌが十四歳の春、西の帝国と東の王国との同盟話が持ち上がった。


 ディアーヌの母国ーーフレンシア王国は北の大国である。歴史的に、南の聖王国と婚姻による同盟を繰り返してきた。

 しかし、今代の聖王国の王はフレンシア王国の血を継がない、継妃を母に持つ愚王だった。

 当然の如く、聖王国の新王は、フレンシア王国との同盟を破棄しようとした。

 宰相や一部の良識ある貴族は何とか両国間を取り持とうと奔走したが、亡き聖王の王妃であり、フレンシア王女であった王太后を廃位し、フレンシアへと送り返して来た蛮行によって、両国間の長きに渡った同盟関係は事実上破綻した。


 その結果持ち上がったのが、反聖王国陣営による三国間の同盟だった。


 まず同盟の締結は、三国の中間地点にある非武装地帯で行われることが決まった。 

 それは問題ない。


 では、誰が参加するのか。

 宰相か、外務大臣か。

 事前会談でのフレンシアからの当然の提案を、北の帝国は一蹴した。


「我が帝国からは、サフィージャ第二妃が赴きます」


 ふざけるなと、その場で怒鳴らなかった大使は極めて優秀だった。


 サフィージャ第二妃とは皇帝の側妃だ。

 側妃として権限を認められているとはいえ、国教により一夫一妻を神に誓うフレンシアからしてみれば、冒涜にも等しかった。


 しかも側妃制度のないフレンシアから身分として釣り合うとすれば、王妃しかいない。

 だが、当時フレンシア王妃は産月間近であった。

 とても長距離の移動には耐えられない。


 どうしたものかと重鎮達が頭を抱えた時。


「あら、わたくしが行くわ!」


 手を挙げたのが、ディアーヌの母であり、先代フレンシア王の第四王女、ヴィヴィアンヌ・ド・オルレーヌ公爵夫人であった。


「側妃と元王女なら釣り合い取れるわよね」


 そう笑い飛ばして、ヴィヴィアンヌは迅速にサフィージャ第二妃と、既に王妃の参加が決まっていた東の王国へと参加意思を表明した。


 その申し出は歓迎をもって受け入れられ、結果的に三国間による同盟が無事に締結されることとなった。



「何だか帝国の方、随分控えめな方だったわ。もっと後宮で女の争いやり合ってますっ!てタイプかと期待してたのに……陰湿型なのかしら?」


 帰国したヴィヴィアンヌが開口一番話した内容は、おそらくその場の誰一人、同意する訳にはいかなかった。


「……そうか、そうか。ご苦労だったなヴィヴィアンヌ。よくやってくれた」


 しかしヴィヴィアンヌが功労者であることは間違いない。国王であるヴィヴィアンヌの兄は末の妹を心から労った。


 王城の執務室、ヴィヴィアンヌが王に労われながら優雅にお茶を飲んでいる間、宰相他王の腹心達は血眼になって同盟の締結文を確認していた。

 既に現地において文官の目を通ってはいるものの、西の帝国は狡猾な事で有名だった。

 東の王国とて、油断ならない。

 勝手に自国に有利な条文の一つや二つ、調印の直前に紛れ込ませても不思議はなかった。

 何せフレンシアも同じ事をしている。


 ピクリと、調書を確認していた宰相の指が止まった。


「どうした」


 確実に、良からぬ知らせだろうと確信しつつも、冷静さを保ったまま王は宰相に尋ねた。


「陛下……」


 青ざめながらも、宰相は主君の問いに素早く礼を取ると、順を追って答えた。


「この度の同盟をより強化するために、三国間での婚姻が定められております」

「了承しておる」

「我が国は、第二王子殿下に東の王国ーーディッセン王国の王妹殿下を王子妃としてお迎えする話でございました」

「そうだ」


 わざわざ言及するということは、破談になったということだろう。では代案は何か。

 王が促す様に、宰相へと視線を向ける。


「ですが、調書によるとディッセン王国の王妹殿下は西の帝国の第一皇子殿下に嫁ぐと……」

「なんだとっ!?」


 王が、思わず声を荒げた。

 無理もない。帝国の第一皇子は側妃腹だ。

 つまりサフィージャ第二妃の生んだ皇子であった。


 側妃腹とはいえ歴とした第一皇子である。

 帝国の皇太子は未だその座が空いていた。


 ディッセン王国が、僅かでも皇后となる可能性に賭けたのか。

 もしくは、初めから挿げ替えを目的としてサフィージャ第二妃が参加していたのか。


 いずれにせよ随分とコケにされたものだ。

 

 苦虫を噛み潰した様な顔で、王は宰相を睨みつけた。


「して、我が国の相手は?」

「ディッセン王国の王弟、ジークフリート殿下でございます」

「不敗将軍か……」


 悪くはなかった。

 ディッセン王国の国王はまだ若く、既に幼い王子に恵まれてはいるが、成人までには随分と時間がある。その間に何があるかはわからない。しかも王弟は不敗神話を誇る将軍だ。英雄との婚姻は、フレンシアとしても不足はなかった。


 だが。


「誰を寄越せと言ってきた?うちには王女はいないぞ」


 そう。先代王には王である王子一人に対して四人の王女がいた。

 しかし、現国王には三人の王子しかいなかった。その上末子は先日生まれたばかりだ。

 差し出そうにもそもそも王女がいないのだ。

 なら誰をーー


「ディアーヌを……」

「なに?」

「オルレーヌ公爵家の娘を、陛下の養女として輿入れさせるようにと……」

「!!」


 王と宰相の視線が、同時にヴィヴィアンヌへと向けられる。


「ヴィヴィアンヌっ!!」

「うるさっ」


 すぐそばで声を張り上げられたヴィヴィアンヌは、防御する様に両耳に手を当てた。


「うるさいじゃないっ!お前は!自分の娘のことだぞ!?」


 王は何も、無意味に怒鳴り散らしている訳ではなかった。


 ディアーヌ・ド・オルレーヌ公爵令嬢


 ディアーヌは王の姪であり、ヴィヴィアンヌの娘であると同時に、宰相の娘でもある。

 ヴィヴィアンヌ第四王女が降嫁した先がオルレーヌ公爵家であり、宰相は夫であった。


「調書はちゃんと最後まで確認したのか!?」

「してます〜!」

「またそんな口の利き方をしてっ!」

「お母様みたいなこと言わないでよ」

「お前はっ!」


 白熱する兄妹喧嘩を横目に、宰相は一人静かに頭を抱えたのだった。

お読みいただきありがとうございます!

もしよろしければ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎での評価やブクマ、リアクションなどしていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。