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最終話 浦島太郎


ぷくっと腫れた右腕を掻きながら歩みを進める。


すっかり秋の名物となった蚊は、

夜の暗闇に紛れて、俺の腕を刺したようだ。


ついたついた、竜宮城だ。


扉を開けると、一番最初に出迎えてくれるのは、

カランカランと鳴る鈴の音だ。


「いらっしゃいませ~竜宮城へようこそ~」


よかった、今日も元気みたいだ。


彼女が倒れた時は、それはそれは本当にびっくりした。


「こんばんは乙姫ちゃん、今日は空いてそう?」

「あ、ターさん!いらっしゃい。カラオケバーのほうでいい?」


おお、混んでるようだ。

「いいよ」


引き戸を開けて入る。

お、今日もゲンさんがいるようだ。


「やあゲンさん、10月なのにまだまだ暑いね」

きっと季節は夏か冬だけになってしまったんだ。


「それにしても今日も混んでるみたいだね」

「じゃの、ちょっと常連からすると、うれしいような、

寂しいような」


いや、売れる実力は元よりあった。


「隠れ家的な場所でよかったんですけどね、

有名になっちゃうと少し悔しいですよね」


いや、それはこの店の従業員に失礼だな。


「はいターさん、お通しです」

「ありがとう、あ!そうだこの前テレビ見たよ!

大繁盛だねランチ!」


お中元に貰った素麺を消費してたら、

まさかテレビの画面で竜宮城を見るとは思わなかった。


「そうなのよ、おかげさまでまた倒れる所だったわ」

「え?大丈夫かい!?」


顔色を見てもいつも通りだ。

なんだ冗談だったのか。


「全然大丈夫!はいターさんマイク」


渡されたマイクを握る。

あれ?いつもとなんか違う。


回ってきたデンモクを見る。


「こ、これ!デンモク新しくなったんだね!」


前のデンモクは何世代前かわからない、

白黒のタッチのやつだった。


「そうなのよ!本当はお店の改装まで考えてたんだけど…」


改装か、そうだよな


「そうか、俺はこの見た目好きだけどね」


落ち着くんだ。

モダンなバーより、レトロなこのお店の雰囲気がいい。


「ターさんはレトロ派だもんね。

物凄く悩んだのよ。レトロに舵を切るか、モダンにするか」


それでレトロを選んだわけか。


「よく知ってるね、俺はエモーショナルなこっちのほうが好きだな。

まあモダンなバーでやるのもいいけど、こっちのほうが温かみがある」


通うようになったきっかけは、味でもなく、こっちだ。


「そう、私考えに考えたんだけど、結局結論が出なくてね、

レトロにも走らず、モダンにも走らず、今は現状維持しようってことになったの」


あ、現状維持か。


「なんだ、レトロチックに何かやったのかと思ったけど、

そうだよね、いつも通りだよね。デンモク以外」


なにか変わったと思った自分が恥ずかしい。


「まあ、もう少しお金を貯めてからでもいいかなって。

一応箱は問題なく使えるからね」


確かに作りは古いが、抜けている床はないし、

壁もまだ平気だ。


「でも、ターさんが通ってくれるようになってから、

まだ一年も経ってないのよね」


そうか、冬だったな、初めて来たのは。


「あの時は…確かみなみちゃんが道に迷っていてそれを助けて、

そのあとここでみなみちゃんが従業員で働いて…」


あれ?


「みなみちゃんってここで働いて何年ぐらいだったっけ?」


乙姫は考える。


「あれ?3年かな?4年かな?忘れちゃった」

「あ!じゃあ俺騙されたんじゃん!最初!」


ま、いいか。どうでも。


「ごめんねターさん。お詫びにこれサービスのレモンサワー!

ま、誰かさんが注文間違えたやつなんだけどね」


おいおい。

っていいか、いただいておこう。



まだ一年か、いろいろあったな。


田舎町に行って炊き出し手伝ったり、

乙姫ちゃんが倒れてここでバイトしたり、

竜宮城、君はいろんな人から愛されてるな。


「あのね、ターさん。実は…新サービスがあって、

夜のカラオケもサブスクやろうかなって」


夜のサブスク…

俺みたいに夜しかほとんど来れない人には良いのかもしれない。


「もしターさんがサブスク第一号になってくれるなら、

ちょっとしたサービスがあるの」


サービス。

なんて破壊力のある言葉なんだ。


「どんなサービスなの?」

「実はね…」


彼女は二つの箱を持ってきた。


「片方の箱は、サブスク一か月分の券が入っていて、

もう片方は二か月分の券が入っているの」


彼女の手には大きい箱と小さい箱がある。


「いいね、サブスクやろうかな」


ああ、この手のゲームには弱い。

お財布から偉人たちが離れていった。



「ありがとう。はい、ではターさん、

この大きい玉手箱と、小さい玉手箱、どっちを選びますか?

あ、箱は家に帰ってから開けてね!」


俺はどちらかと言うと謙虚だ。

普段の俺なら小さいほうを選ぶ。


「じゃあこっちの大きい箱にするね!」


だが、今日ぐらいはいいだろう。

第一号だし、せっかくなら大きい箱にしよう。


「はいこれどうぞ、おうちに帰ったら開けてね!

使えるのは明日からだからね!」


どっちかな?楽しみだ。


「おっと、そろそろ帰ろうかな、おあいそよろしく!」


帰る前にトイレ行くか。


俺は間接照明の床を歩き、

トイレのドアを開けた。


そこには鏡がある。

あれ?今日そんなに持ち金あったっけ!?


急いで財布を開ける。


そこには、3人の偉人の中で一番位が低い偉人が3人居座っていた。

…やっちまった…


俺は顔を上げる。

汗をハンカチでぬぐって顔を見る。


あれ?


「なんか俺…ふけた??」


俺の顎のひげには、白いひげが数本混じっていた。

腹を決めよう…


「乙姫ちゃん…ゴメン!今日の支払いツケで!!

次回お金持ってくるね!」


「あらあらターさん、おっちょこちょい…

じゃあタクシー呼ぶのやめとくね」


人生で初めてツケで支払ってしまった。


いたたまれない罪悪感を背負い、

でも何とも言えない幸福感。


あ、そういえば玉手箱、

どっちだったんだろう。


夜の月で手元を照らす。


箱を丁寧に開けて、

そこに入っていた一枚のチケットを、

大事に大事に財布の二段目のポケットにしまった。


おわり




あとがき


「竜宮城は今日も開店中」をお楽しみいただきありがとうございます。

作者の「つるおかりおん」です。



日本三太郎伝説の一作、

浦島太郎の話から考え付いた物が、

この「竜宮城は今日も開店中」となります。


この作品ですが、なんだかスラスラと書けてしまい、

約二カ月ほどの執筆期間でした。



この作品で表現したこととしては、

現代版の浦島太郎というわけなのですが、

そもそも原作の落ちが気に食わないと子供のころから思っていました。


「カメを助けて、竜宮城に連れていかれて、

お土産貰ったらボンッおじいちゃんになっちゃった…」


理不尽かつ、結局ここから伝えたい教訓はなに?

と子供ながら感じていたので、浦島太郎救済措置として、

納得の行く形に描いてみました。



昔話のリメイクは超かぐや姫に翻弄されたとかではありません。

子供を寝かせるときに日本昔話を読み聞かせているときに、

常日頃から、日本昔話が伝えたい教訓てあまり納得できない。

と妻と話をしていて、そこでなんとなく思いついた話となります。


三太郎のリメイクを考えているので、

桃太郎はどう描いてしまうのか、

金太郎はどう描いてしまうのか、

楽しみにしていただけると幸いです。


ただ、現在は構想中。



さて、童話の浦島太郎について少しだけ小話をいたします。


早速、本作に出てきた 愛姫(えひめ)ですが。

あの乙姫に姉がいた!などの書籍があるわけでは無いようです。

妹の姫は 弟姫(おとひめ) それに対して 姉の姫は、兄姫(えひめ)と言われることから、

姉妹の設定にしました。



また、浦島太郎が貰った玉手箱ですが、

玉手箱は貰わないというエンドもあるらしい?

地域によって話の形そのものも異なるようです。


特に詳しく何かを読み漁ったりはしませんでしたが、

私のように納得いかずに勝手に改版した方が、

この日本のどこかにもいたのかもしれませんね。


もし、読者の方で、

カメを助けて→お礼に竜宮城に連れていかれ→乙姫が美しく長居→玉手箱→白髪ぼっかん

いや、そんな話じゃなかったよ!なんていうのがありましたら、

コメントいただけると嬉しいです。

ちなみにですが、作者は関東産まれ関東育ち。



あとがきとしては以上となります。



本作品をお読みいただき、ありがとうございました。

また次の作品もどうぞよろしくお願いいたします。


つるおか


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