第0話:【プロローグ】最果ての地で、二度目の生(ライフ)をコンサルする
カニを売って幕府を買収する、令和コンサルの江戸内政無双!
多くの方に応援いただいた短編版を、大幅な加筆を経て連載化いたしました。
五歳の幼児から始まる、合理的かつ冷徹な「歴史買収戦略」をお楽しみください。
明和七年(一七七〇年)(春) 蝦夷地・宗谷
頭が割れるように痛い。
昨夜は村にでかい加工場を建てる商談をまとめた祝宴で飲み過ぎた。
だが、安酒のせいだけではない。
この「未開の地」という名の、あまりにも非効率で不合理な経営環境に、
日々脳が悲鳴を上げているせいだ。
俺の名は勘太。
表向きは、最果ての宗谷で松前藩の請負商人に使われる、しがない「雇われ漁師」のガキだ。
だが、その意識の深層には、別のデータが詰まっている。
令和の日本で、赤字数百億の製造業をわずか二年でV字回復させ、
「企業再生の鬼」と呼ばれたトップコンサルタントとしての記憶だ。
宗谷は蝦夷地の最北端。
物流は松前藩に独占され、米は一粒も獲れない。
そして、俺の脳内カレンダーが冷酷なデッドラインを告げている。
(あと十数年もすれば、日本中を飢餓の地獄に変える未曾有の災厄――『天明の飢饉』がやってくる)
冷害が続き、数えきれないほどの人間が、ただの「統計上の死者」となって消えていく。
このままでは、俺を育てたこの家族も、この村の連中も、一人の例外なく全滅するだろう。
(だが、逆に言えば……これは空前絶後の投資機会だ)
飢饉が来る前に、この宗谷を、外敵も飢えも跳ね返す「経済的要塞」に作り変える。
それが、俺に課せられたこの人生最大のミッション(経営目標)だ。
やはり、既存の価値観に縛られたままでは「資源」の有効活用は実現できない。
昨日の交渉でも価値観の相違に苦労したが、
事前に根回し(タクティクス)を徹底したおかげで合意は得られた。
上から命じるだけで無理をごり押ししてきた前世の大企業の輩が脳裏をよぎる。
今の俺にあいつらのような強権があれば、こんな苦労は不要なのに。
出る杭は打たれる。 ならば、打つ側に回るしかない。
今の俺は、もう簡単には折れない杭だ。
……
思い返せば、この五年間、徹底した擬態を続けてきた。
転生して早々に学んだ経営学的な真理は、
「意外と人間は、他人のことを気にしない(スポットライト効果)」ということだ。
家の壁に泥を塗りたくっても、海岸に秘密基地を作っても、
村の連中にとって俺は単なる「よく動く、少し変わったガキ」でしかなかった。
(いや、もう一つ大きな理由があったな)
俺は、網を繕いながら時折「……ふっ、荒ぶる波濤が俺を呼んでいる」と、
誰も聞いていないところで物憂げなポーズを決める父・源蔵の背中を見た。
時折、人知れずおかしな言動をとる以外は心の広いおおらかな父だ。
父は村でも一目置かれる人物で、
俺の奇行も“源蔵の息子ならおかしくても仕方ない”という空気がある。
そんな俺が何とかこの時代の常識と折り合いをつけて
いけるようになったのは、母の影響が大きい。
家の備品を持ち出せば、コンサルタントの理屈など一切通用しない
「物理的な制裁(尻叩き)」を飛ばしてくる母という名のコンプライアンス。
環境は地獄だが、家族だけは当たりだった。
(何をやってもいいなら、好きなようにやらせてもらうだけだ)
俺はガキどもをカロリー(インセンティブ)で買収し、
この最果ての地で「会社ごっこ」という名の覇道を開始した。
飢饉までのタイムリミットは迫っている。
「さあ、今日も始めるか。
仕事の時間だ」
五歳の幼児は、冷徹な経営者の目で北の海を見据え、不敵に笑った。
「江戸生活のチュートリアルは、もういい」――五歳の軍師による『実践』が始まります。
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2026年5月4日 追記
今回、プロローグを読みやすさと作品方針の明確化のために軽く改稿しました。
本編の内容に変更はありませんので、そのままお楽しみいただけます。




