第0話:【プロローグ】最果ての地で、二度目の生(ライフ)をコンサルする
カニを売って幕府を買収する、令和コンサルの江戸内政無双!
多くの方に応援いただいた短編版を、大幅な加筆を経て連載化いたしました。
五歳の幼児から始まる、合理的かつ冷徹な「歴史買収戦略」をお楽しみください。
明和七年(一七七〇年)(春) 蝦夷地・宗谷
頭が割れるように痛い。
安酒を飲みすぎたせいだろう。
この時代の酒はまずくて飲めたものじゃない。
だが、アルハラなんて言葉もないのだから、飲むしかない。
祝いの席だ。
固辞するのは失礼というものだ。
「勘太、水いる?」
母の声さえ頭に響く。
「ありがとう、もらうよ」
差し出された水を飲みながら、
日課の現状分析をする。
俺の名は勘太。
この最果ての地、宗谷で松前藩の請負商人に使われる、
しがない「雇われ漁師」だ。
だが、もう一つの名前と記憶もある。
令和の日本で、数字と法律を武器に
企業を再生させてきたコンサルタントとしての記憶だ。
宗谷は蝦夷地の最北端。
米は一粒も獲れず、
物流は松前藩に独占されている。
(あと十数年もすれば、未曾有の災厄……
『天明の飢饉』がやってくる)
浅間山が噴火し、
冷害が続き、
数えきれないほどの人間が飢えて死ぬ。
(だが、逆に言えば……チャンスだ。
それも、空前絶後の)
「母さん、前に話してた工場の件、決まったよ」
「ああ、なんかカニの加工場を作るってやつ?
よくわからないけど、あんなの売り物になるの。
捨てるほど獲れるじゃない」
やはりこの時代、この場所の人にとっては、
たいして価値のないモノ扱いだ。
昨日の交渉でも価値観の違いに苦労したが、
事前に根回し(タクティクス)しておいたおかげで
合意は得られた。
「しばらくすれば、
もっといい家に住んで、
うまい飯も食えるようになるから
楽しみにしててよ」
「……いまでも十分だよ。
お前が小さいころから鉄太たちと
色々やってくれたおかげで、
乙名の家より居心地がいいって
評判なんだから」
壁に断熱材を仕込み、
床暖房や五右衛門風呂を導入したのは
やり過ぎだったかもしれない。
だが、住環境の充実は生命維持に不可欠だ。
妥協はできない。
……思い返せば、色々やってきたものだ。
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転生して早々に学んだことのひとつは、
「意外とみんな、他人のことを気にしない」
ということだ。
(心理学用語でいう『スポットライト効果』ってやつか?)
ガキが浜辺でカニを拾っていても、誰も気にしない。
海岸の一角に隠れ家を作っても、家の壁に泥を塗りたくっても、
誰も何も言ってこない。
もちろん、五歳の俺が浜でカニを焼いていた時は、
近所のガキどもが物欲しそうにやってきた。
だが、それもたかが知れた人数だ。
あまりに誰も干渉してこないので、かつて母に尋ねてみたことがある。
『俺がやってること、変だと思わないのか?』と。
「ああ、そういえばそうね。
あれはなんなの?」
母の返しはそれだけだった。
……俺がおかしいのか?
この時代がおかしいのか?
それとも、人間社会というものは元々、
これほどまでに他者への無関心で成り立っていたのか?
(……いや、一つだけ例外があった)
俺は無意識に自分の尻をさすった。
「何をやってもいい」のは、母の掌の外側だけの話だ。
家の備品を勝手に持ち出したり、火遊びが過ぎれば、
コンサルタントとしての理屈など
一切通じない「物理的な制約(尻叩き)」が飛んできた。
だが、その母親の監視というコンプライアンスさえ潜り抜ければ、
そこは無限のフロンティアだった。
最悪、狐憑きだとか気狂いだとか言われて排斥されるリスクも懸念したが、
結局、村の連中にとって俺は「よく動く、少し変わったガキ」でしかなかった。
(何をやってもいいなら、好きなようにやらせてもらうだけだ)
そうして調子に乗った俺は、ガキどもを食い物で買収し、
この最果ての地で「会社ごっこ」という名の覇道を開始したのだった。
「江戸生活のチュートリアルは、もういい」――五歳の軍師による『実践』が始まります。
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