第39話 祈りは数値に触れる
クロイツ連邦の参画が公表された翌日。
港には、もう一つの使者が現れた。
白い衣。
静かな足取り。
誓約都市ルメリアの司祭長、ルメリア本人だった。
「……お久しぶりです」
彼女は穏やかに頭を下げる。
「お久しぶりです」
私は礼を返す。
応接室には、余計な護衛はいない。
祈りの国は、威圧を好まない。
「港とクロイツが並んだと聞きました」
「ええ」
「数値の保証に、国家が加わる」
彼女の声は責めていない。
ただ、確かめている。
「祈りは、そこに入る余地がありますか」
私は、一瞬だけ考えた。
ルメリアは、契約を“誓い”として扱う。
数値よりも、言葉の重みを信じる。
「あります」
私は、静かに答えた。
「ただし、形を変えて」
「形を?」
「履行確認に、“誓約監査”を加えます」
彼女の瞳が、わずかに揺れる。
「数値だけでなく、誓約の履行姿勢も評価対象に」
「……姿勢を、数値化するのですか」
「完全にはできません」
私は首を振る。
「ですが、虚偽誓約が発覚した場合、
基準を一段階下げる」
沈黙。
「祈りを罰に使うのですか」
「いいえ」
私は静かに言った。
「祈りを“責任”にします」
司祭長は、長く息を吐いた。
「……私たちは、契約を神に誓います」
「ええ」
「それを破ることは、罪です」
「ならば」
私は彼女を見る。
「罪は、可視化されるべきです」
室内に、重い静寂が落ちる。
やがて彼女は、小さく笑った。
「あなたは、冷たい」
「ええ」
「ですが、公平です」
彼女は立ち上がる。
「ルメリアは、参加します」
カイルが、息を呑む。
「条件は?」
「祈りを、軽んじないこと」
「約束します」
私は頷いた。
数日後。
港湾保証基金は、三者参画となった。
港。
クロイツ連邦。
誓約都市ルメリア。
商会も、小国家も、無視できない構造。
その夜。
円環基金から、新たな声明が出た。
《国家と信仰が手を結んだか》
《では次は、市場を動かす》
私は、窓の外を見る。
港の灯りは増えた。
だが、空気は張り詰めている。
契約破壊同盟は、
恐怖で揺らし、
制度で削り、
保険で縛る。
だが今、
信用圏が形になり始めた。
港は、ただの中立地ではない。
**信用を生む中心点**になりつつある。
そして――
中心は、最も狙われやすい。
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