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【コミカライズ記念】ローザの推し

講談社様の漫画アプリPalcyにて「異世界ヒロインファンタジーショートストーリーズ」として本作のコミカライズが公開されました。

応援いただきました皆様に感謝を込めて、ローザ視点で本編後のアニカとのお話です。

 あなたに推しはいますか?


 わたくしが訊かれたのなら、迷わず「いる」と答えますわ。

 え? わたくしの推しについて知りたい?

 しかたがありませんわね!


 わたくしの推しは、大きな瞳に揺れるリボンが印象的。活発という言葉が似合う方で、お転婆なところもありますから、放っておけない性格ですわ。

 何事にも一生懸命。無邪気な笑顔が愛らしく、可憐な容姿でありながら、時には思いがけない大胆な発想で周囲を翻弄するのです。目の前に壁があろうと乗り越えてみせる、行動力の塊のような人ですわ。

 そんな自由なところも魅力の一つ。きっと攻略対象と呼ばれる彼らも、そんな彼女の人柄に魅了され、救われたのでしょう。

 彼女こそわたくしが推す最高の主人公、ステラですわ!


 そんな推しが主人公をやっている乙女ゲームの世界に転生するなんて、夢のようだと思いません?

 となればステラの姿をこの目に焼き付けたい。叶うことなら挨拶をして、許されるのなら友人として傍で見守らせて欲しいと願うのは自然の摂理。

 けれどあの日わたくしの前に現れたのは、ステラとは対局のような人でした。


 華やかさの欠ける見た目に地味な容姿。他人の顔色を窺うような、控えめな発言。顔にははっきりと「不安です」と書いてありましたわね。

 ステラと同じ振る舞いを意識しているようですけれど、まるで似ていませんでしたわ。


 彼女はわたくしと同じ転生者。

 わたくしはステラの地位を脅かす、偽物主人公と戦うしかないと思ったのですけれど……


「まさか、アニカと一緒に服を買いに行く日が来るとは思いませんでしたわ」


「本当にごめんなさい! 忙しいのに迷惑をかけて」


「誰が迷惑だと言ったのかしら? わたくしはただ、この状況を純粋に驚いているだけですわ」


 ゲームの最終イベント感謝祭を終え、アニカへの誤解が解けてからまだ数日。

 学園でも噂になるほど顔を合わせれば喧嘩が絶えなかった二人が、制服姿で並んで買い物に行こうとしているんですもの。わたくしだって驚きますわ。

 喧嘩と言うか、主にわたくしが一方的に敵視していたのですけれど。


 一緒に帰りたそうにしているユアン様の誘いを断って、わたくしの元に来たアニカの姿を思い出しますわね。あの時のユアン様、とても残念がっていましたわ。

 しっかりしたアニカの周りには他にも友人と呼べる人たちがいるけれど、こうして名指しで頼られたことが嬉しい。そう思えるほどには、アニカのことを気に入っているのよ。

 アニカはすっかりわたくしを友人と認識しているようですし? ここはわたくしも素直になるべきかしら。


「わたくしは、友人に頼られて嬉しかったですわ。迷惑なんて思っていませんから、安心なさい」


 不覚にも友人という響きに緊張してしまった。幸い申し訳なさそうにしているアニカは気付かれませんでしたけれど。

 きっぱりと言い切ると、アニカの表情に笑顔が戻る。ステラの大切な人でもありますし、謝罪や困り顔より、笑顔でいてほしいですわね。


「ありがとう、ローザ」


 素直にお礼を言えるアニカが羨ましい。わたくしにもこの素直さがあれば、もっと早く仲良くなれていたはずですもの。


「本当に、誤解もいいところですわよね」


「どうしたの?」


 心配そうな声ね。まったく……

 わたくしたくさん酷いことを言った自覚がありますわよ? 

 こんなわたくを案じるなんて、お人好しですわね。


「なんでもありませんわ」


 過去のことをいつまでも引きずっていたら、許してくれたアニカに悪いですわね。

 仲直り……というにはわたくしが一方的に敵視していたのですけれど。せっかく友人とショッピングを楽しむのなら、反省ばかりしていては時間が勿体ないですわ。


「それよりも、デートで着る服は見つかったのかしら?」


 期待を乗せた笑顔で質問すると、アニカは対照的な表情で肩を落とす。


「まだです……」


 まあ、想像通りの反応ですわ。簡単に決められるような人が、わざわざ服選びのアドバイスを求めたりしませんもの。


 わたくしたちがいるのは人気のブティック。店内には流行の服がたくさん並んでいて、大きな鏡には魔法学園の制服を着た二人が映っている。

 ユアン様とのデートに来ていく服に悩むなんて、微笑ましいことですわ。


「迷っているのなら、その髪飾りに似合うものと考えてみましょうか。ユアン様からのプレゼントなら、当日もその髪飾りをするのでしょう?」


「私、ユアンからプレゼントされたって話した!?」


 アニカは真っ赤な顔で髪飾りを押さえている。

 そんなに慌てなくてもいいでしょう。それに、今更手で隠しても無駄ですわ。


 癖のない髪に映えるのは、月と星をイメージした髪飾り。三日月に小さな星がちりばめられたそれは、アニカによく似合っている。そしてどことなく彼を想像させる色彩だ。

 鏡に映るたびに目を向け、触れる時は慎重に。それでいて嬉しそうにな眼差しを向けるのだから送り主はわかりやすい。


「見ていればわかりますわ。アニカが入学してから頑なに髪型を変えなかったのはステラを意識していたからでしょう?」


「ローザ、知ってたの?」


「当然ですわ。わたくしがどれだけこのゲームを愛しているか、語りましょうか?」


 前世で疲れを癒してくれたのはこのゲームですもの。困難に負けず、立ち向かう少女の姿に何度勇気をもらったことでしょう。

 きっとアニカやステラも前世で同じことを思ったのでしょうね。だからこそ、責任を持って主人公の代役を果たそうとした。


「そんなアニカが感謝祭の後リボンを外した。そして新しく飾られたものは……」


 じっと見つめていた髪飾りから視線を外し、似合いそうな服を選んでいく。


「ステラのゲームでの私服は活発な印象でしたけれど、アニカは清楚系が似合うと思いますわ。髪飾りが映えるように、あまり派手なデザインは避けた方がいいでしょうね。ユアン様も落ち着いたものを好まれそうですし、わたくしが思うにこれとこれと、これも試してご覧なさい」


 申し訳ありません、ユアン様。わたくしが先にアニカの晴れ姿を見てしまいましたわ!


 そんな優越感を攻略対象に抱きながら、なんとかぴったりの服を見つけることができた。


「思ったよりも早く見つかりましたわね。わたくしも観劇に備えてステラのイメージカラーで揃えたドレスを調達できて満足ですわ」


「いつの間に買ったの?」


「アニカが試着をしている間に」


 調達したての服が入った紙袋を抱きしめる。

 ステラの王都初公演。座席は最前列中央。

 こちらの準備も完璧に挑む必要がありますわ!


「今日は付き合ってくれて本当にありがとう。私に何かお礼できることはある?」


「ええ、もちろん!」


 待ってましたとわたくしは目を輝かせる。


「アニカにしかできないことがありますわ。さあ、ステラの好みを教えてくださいませ!」


「ステラの好み?」


「もうすぐ舞台の公演日でしょう」


「そ、そうだね」


「あら、今から照れているんですの?」


 ステラの初舞台ということは、恋人になって初めてのデートですものね。

 それはそれで二人の様子が気になりますけれど、今のわたくしにはステラしか映っていませんわ!


「まだ差し入れが用意できていませんもの。当日になられては困りますわ。ねえ、ステラへの差し入れは何がいいかしら!?」


「あ、それでステラの好み。えっと、昔はチョコレートとか、甘い物が好きだったよ」


「まあ愛らしい!」


「好き嫌いはなくて、なんでも美味しそうに食べてたかな」


「まあ健康的!」


「色だとやっぱりピンクが好きで、あと動物も好きだったかな。よく猫と遊んでたよ」


「猫とステラ!? そこ、後で詳しく聴かせてもらいますからね」


「ま、任せて。あとは花も好きだけど、やっぱり食べ物の方が喜ぶと思う」


「もうステラったら~! わたくし今から王都中の店を回って最高の差し入れを探してまいりますわ!」


 ステラのためですもの、妥協はありません。なんならオリジナルで作らせることも検討いたしますわ。ステラの素晴らしさを称えるための菓子……いいですわね!

 当日に備えてやるべきことは多いと、情熱を燃やすわたくしを前にアニカは呟いた。


「ローザに応援してもらえて、ステラは幸せだね」


 その言葉に、ステラに向いていた意識が引き戻される。


「あら、わたくしが応援しているのはステラだけではありませんわよ。わたくし最近推しが増えたのですけれど」


「アニカにローザ?」


 ――あら?

 

 多くの人が行きかう通りの中でも響く、優しく澄んだ声。

 わたくしたちは前世から何度も耳にしていましたので、直ぐに誰のものかわかりましたわ。

 どうしてここにいるのかと疑問に思いながら振り返ると、想像通りにユアン様が立っていた。隣にいるのは最近一緒にいることが多い生徒会仲間ね。


「ローザとの買い物は楽しんでる?」


「うん! 二人も買い物?」


「そうだよ」


 見た目は笑顔ですけれど、ユアン様の表情に寂しさを感じるのは気のせいかしら?

 アニカは気付いていないようですけれど、一緒に過ごしたかったと顔に書いてありますわ。ユアン様って、こんな人だったかしら?

 もっと寡黙というか、人と距離があったように感じましたけれど、アニカに対しては好きという気持ちが隠せていませんわね。控えめに言ってベタ惚れですわ。片時も傍を離れたくないと視線が語っていてよ。

 まあ、わからなくもないですけれど。アニカの隣って、心地良いですものね。


 言葉は少ないけれど、人の気持ちを想いやれる優しい子。アニカの存在は、多くの責任を背負うユアン様にとって救いだったのでしょう。ステラに見せていた表情とは違うけれど、アニカを大切に想っていることが伝わってくる。


 アニカってば、立派に主人公ですわね。わたくしのこともこうして変えてしまったのですから、もう偽物なんて呼べませんわ。

 というわけで、わたくしは本来主人公を応援する立場ですし?

 一緒に帰りたそうな二人を応援するしかありませんわね!


「ユアン様、わたくし急用を思い出しましたわ。アニカ一人では心配なので、送っていただけませんか?」


 友人の背中を押すと、戸惑いながらも二人の距離が近付いたので満足する。


「それは構わないけど、ローザは?」


「わたくしはそちらの彼を荷物持ちとして借りていきますので、ご心配なく」


 逃がさないと腕を掴めば、すかさず反論が飛んでくる。


「は? どうして俺が」


「大人しくなさーい」


 睨みを効かせたとはいえ、まだうるさいですわね。

 いくら喚いたって、わたくしたちが邪魔だからですわよ!


「付き合いたての恋人たちの邪魔は許しませんわよ」


 アニカたちに聞こえないように告げると抵抗が止む。

 二人を応援しようという気持ちは同じなのかしら? 見直しましたわ。


「ほら、行きますわよ」


 荷物持ちにしてやろうと引っ張りながら、そっと二人の様子を振り返る。その瞬間、差し出された手に頬を染めたアニカが、戸惑いながらも手を重ねていた。


 わたくし大変なものを見てしまいましたわ!


 歩幅を合わせ、気遣うようにユアン様が手を引く。けれど繋がれた手は絶対に離さないという強い意志を感じさせた。

 アニカには少し強引なくらいがちょうどいいですわよねと、誰に聞かれたわけでもないのに頷いてしまう。

 僅かに見えたアニカの笑顔はステラに比べて控えめなものだったけれど、とても幸せそうで……

 胸の内から込み上げるこの感情を、わたくしは知っている。


「尊いっ!」


「えっ、なに!?」


 いきなり叫びましたものね。隣から戸惑いの声が上がるのも当然ですわ。

 けれど初々しい恋人たちに夢中なわたくしは、幸せな光景を噛みしめるのに忙しいのです。一秒たりとも見逃せませんわ。

 ここに記録装置がないことが悔やまれます。ステラにも見せて差し上げたかった……


 次にステラに会う時は最高の差し入れと、尊い恋人たちの姿を語り伝えようと心に決め、わたくしの差し入れ探しの旅は始まったのです。

少しでもお楽しみいただけておりましたら幸いです。

コミカライズならではの部分もありますので、ぜひそちらも見てみてくださいね。

大変尊いユアンとアニカが見られます!

そしてローザとステラ、可愛いですよ!

優しく心温まるような、素敵な世界観で描かれております。

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[一言] ローザ様も尊いっす (っ´ω`c) 楽しく読めました! ありがとうございます!
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