私の使命~乳母になりたい!~
こちらでは、はじめまして。
初挑戦ですが、少しでも楽しんでいただけるように頑張ります。
よろしくお願いします。
ある田舎の温泉地に子宝に恵まれるというベーグル屋さんがありました。
この店のベーグルは、昔から子宝に恵まれるという噂がありました。
それが、数年前から必ず子供ができる、男でもできると、不思議な噂が流れ始めました。
この店は、噂を信じた人々が押し寄せました。
さぁ、あなたは、信じる?
ギシッ、ギシッ
「~、~、~!!!」
「~~~!!!」
突然ですが、私わたくし、使命感に燃えております。
命より大切なお嬢様のため、乳母になることに……!
私わたくし、カミラと申します。
私はベック商会の一人娘、サラお嬢様の侍女です。
先日31歳になったばかりの独身。
お嬢様のため日々、心を込めてお仕えしております。
仕事一筋16年。
黒くて長い髪はお団子にまとめ、化粧はうっすら色づく程度に。
吊り目がちな目をメガネで誤魔化しております。
私の心のオアシスでございます、お嬢様は現在16歳。
金髪のストレートヘアがチャームポイントの天使。
まるでシルクのような髪は一生撫でていたいと思えるほど。
鼻筋が通り、大きな目には澄んだ青い瞳が。
抜けるような白い肌、頬は桃色です。
また、多言語を操れるほど語学が堪能です。
その語学力で外国の珍品を取り扱える商会にし、大きくした才女。
それだけに留まらず、お嬢様は慈愛に満ちた性格。
例えば私が失敗した時などは、「次、頑張ればいいのよ。」なんて笑って許していただけるのです。
私は、「一生お仕えいたします!」と誓っております。
実はお嬢様は、お見合いを控えられております。
お相手は、トリティクム領主様の弟で騎士団の軍師。
お名前はレオン・トリティクム様。
旦那様は、最近観光地として成功した田舎に嫁がせることに決めたのです。
お嬢様はこのお見合いを前々より楽しみにしておりました。
お見合いの日程を早めるよう催促したほど。
眉を下げる旦那様でございましたが、私も同じでした。
お見合いはお昼からでした。
当日出発すれば充分間に合いました。
しかし、お嬢様たっての願いで前日にトリティクムに入りました。
朝、日が昇る前。
お見合いの準備を始めました。
チャームポイントのストレートヘアはハーフアップに。
この日のために用意した水色のワンピースはレースたっぷり。
よくお似合いでした。
お化粧はお嬢様の魅力が増しますよう、アイラインを長めに。
惚れ惚れするほどお綺麗なお嬢様の完成です。
視界が霞みましたが、溢れることは歯を食いしばって止めました。
お嬢様はそのままお見合いに伺うのかと思いきや、ベーグル屋に向かいました。
その店は、【子宝ベーグル】の店として有名で、午前中には売り切れるほど人気があるそうです。
お嬢様は早口で御者に急ぐように指示しました。
早朝7時にお店に到着いたしました。
もうすでに長蛇の列が。
お嬢様の瞳は揺れていました。
「私が並びますので、お嬢様はお待ちください。」
「いいえ、私が並びたいの。カミラ、一緒に並びましょう。」
お嬢様は、小首を傾げて微笑まれました。
口を一文字にして頷きました。
馬車から先に降りますと、お嬢様に手を差し出しました。
柔らかな指先を摘まんで、行列の最後尾に並びました。
しばらくすると、開店いたしました。
大きな包みを持った先客が次々と店を出ていきました。
みんな頬を染め、口元は緩んでいました。
--【子宝ベーグル】という噂がなくても素敵なお店なんだろうな。
次々お客が店に吸い込まれていき、私たちは店の前まで歩みが進みました。
包みを持った女性が出てきたので、ドアノブに手を掛けました。
ドアを押すとお店のドアベルが鳴りました。
一歩入ったその時、小麦の焼ける甘い香りが。
自然に顔が緩みました。
店内は、こじんまりとしていて中央にテーブルが一つ。
奥にショーケースがありました。
壁にはお客さんの手紙が所狭しと掲示されておりました。
手前がお店で奥が工房となっており、お店から工房が覗けました。
店員さんは一人でした。
大柄な男性で、頬が緩んでいて眉が下がっていました。
前の方の背中からショーケースを覗きました。
そこには、つやつやでむっちりとしたベーグルが5つありました。
私は溢れてくる涎を飲み込みました。
「カミラ、どうしましょう…あと5つしかないわ…」
視線をお嬢様に移すと、両手を胸の前で握っておりました。
私は息を飲みました。
その手を包むように触れました。
微かに震えていました。
「お嬢様、きっと大丈夫でございます。」
無理に口角を上げました。
--売り切れてしまったら、お嬢様をどう慰めましょう……。
息が漏れてしまいました。
私たちの番になり、1つだけ残りました。
そのベーグルの味はプレーン。
シンプルだからこそ、いっそう輝いているように見えました。
頬を染めるお嬢様に、私はそっと胸を撫でおろしました。
「最後の一ついただけます?」
「はいよ!360ルークね。」
紙袋を鳴らし、手早く包んでもらえました。
私はお金をちょうど指先で摘まんで、渡しました。
お嬢様は包みを両手で受取りました。
--天使のようです!お嬢様!
視線を一点集中して脳に刻み込みました。
「わぁ、嬉しいわ! ずっと気になってて……。念願が叶いましたわ! ふふっ、レオン様との子供が望めるかも……!」
私の心臓が飛び出ました。
目が零れるのではないかというくらい大きく開きました。
--お嬢様は本日のお見合いのためにベーグルを!?
私はてっきり旦那様へのお土産だと思っておりましたが……
まさかあの天使のお嬢様が……?
なぜ、事前に確認しなかったのでしょう……
は!早く諫めないと、お嬢様が大変なことになってしまいます!
拳を白くなるくらい握って、お腹に力を入れました。
「お嬢様、これからお見合いですのに気が早いですよ!」
「まぁ、もうすぐですわよ!」
お嬢様の様子は変わりませんでした。
視線さえ、私に向かなかったのです。
ーーもうすぐとは、どういうことでしょう……
こめかみを押さえました。
お嬢様が振り返りましたので、倣いました。
そうして、店を後にしたのです。
馬車の中
お嬢様は包みから視線を外しませんでした。
頬を染めて、鼻歌まで歌い始めました。
--何も……言えません……。貞操が……。
でも、お見合いですものね……。
もう、私が口を出していいことではないのかもしれません……。
胸が締め付けられました。
視線を窓の外に逸らしました。
遂に、お屋敷に到着いたしました。
馬車から降りますと、壮年の男性が出てきました。
胸に手を当て、頭を下げました。
「ようこそ、お越しくださいました。私、案内させていただきます、執事のロンと申します。」
その声は柔らかく、よく通りました。
ロン様は皺一つない執事服を着こなしていました。
「今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。主は奥におります。案内させていただいてもよろしいでしょうか?」
「お願いします。」
「承知いたしました。主は楽しみにしておりましたので、喜ぶと思います。」
「まぁ!」
お嬢様の顔色が変わりました。
口元に片手をかざしました。
--さすが執事様。お嬢様の緊張を一瞬で解かれました。
私は、息が漏れてしまいました。
「ささ、主が痺れを切らす前に。こちらです。」
「ふふっ」
お嬢様は笑いを隠さず軽い足取りでついていきました。
客間前までご案内いただいた時
お嬢様は視線を私の方へ何度も送ってきました。
私は、ウィンクで返事いたしました。
お嬢様の口元が細かく動きました。
顔色も白くなっていきました。
--出発前に旦那様に両手を握られ、「お前だけが頼りだ!くれぐれも頼む!」と激励いただきましたのに……。これもお嬢様のためです!
ロン様がドアを三回ノックしました。
その音はやけに大きく聞こえました。
部屋の中から「入れ。」と声が聞こえてきました。
「失礼します。」
扉を開きました。
お嬢様は視線を下げて、一歩進みました。
私も伴って頭を下げ、脇に控えました。
「失礼いたします。ベック商会の娘、サラと申します。」
足音が近づいてきました。
その音が、止まりました。
「サラ嬢。よくここまで来てくれましたね。顔を、あげて。」
布ずれの音がしました。
お嬢様の息を飲む音が聞こえてきました。
「遥々遠くからありがとう。僕が君のお見合い相手のレオンだよ。」
「もっ、申し訳ございません。緊張してしまって…。」
「僕もだよ。こんなに可愛い子が来てくれるなんて……。」
私は、拳を握って視線を送りました。
レオン様は、20代半ばくらいの、人間離れした容姿を持つお方でした。
背は高く、よく鍛えられていることが服の上からも分かりました。
鼻筋は通り、目は切れ長。
長いシルバーの髪を後ろで一つに纏めていました。
瞳の色はグレーで、全体的に色素が薄く神秘的な雰囲気でした。
お嬢様と並ばれると、まるで物語の一部のようで……。
--お嬢様をお任せできそう……。
私はそっと息を吐きました。
お嬢様の頬は朱色でお顔から視線を逸らせない様子でした。
お嬢様は視線を上げると、手の包みを持ち上げました。
「レオン様、この地で有名だと聞いてベーグルを購入して参りました。人気のお店で1つしか買えなかったのですが、お召し上がりください。」
レオン様に差し出されました。
空気が変わりました。
レオン様の眼光が強くなったのです。
殺気に近いオーラを感じました。
控えている私でさえ体が震えました。
レオン様はベーグルを時間をかけて手を差し出し、掴みました。
静寂の中、紙が歪む音が響きました。
--お嬢様は世界一かわいいお人です! 絶対に大丈夫です!
私は唾を飲み込みました。
「……ありがとう。その包みは……ロッソの店だろう? 君は……意味わかってる?」
低い声。
視線は厳しくなりました。
私は体を震わせました。
--お嬢様になんという仕打ち…。
奥歯を噛みしめて、お嬢様の背中に視線を送り続けました。
「もっ…、申し訳ございません…。子宝に恵まれるという…」
体を半分に折り曲げ、謝罪するお嬢様。
--今すぐにでも抱きしめて差し上げたい……。
張り裂けそうになる胸を握って、私も頭を下げました。
部屋の外に向かう足音。
私はすぐに頭を上げました。
お嬢様たちは、ドアの前にいました。
お嬢様は手を引かれ、足を縺れさせていました。
私は追いかけました。
ロン様が横に並びます。
レオン様は振り返りました。
「部屋に籠る。明日の朝まで寄るな。」
--人払い! お嬢様!
私はお嬢様に視線を送りますが、指示はありません。
その顔は目に涙をため、眉は下がっていました。
レオン様から視線を動かさなかったのです。
「レオン様、未婚のご令嬢とそんな…!」
「命令だ!」
「ぐっ! ……承知いたしました……」
奥歯を噛みしめるロン様。
--主レオン様に命令と言われたのならば、従わなくてはなりません……。
ロン様は頭を抱えながら、踵を返しました。
私もそれに伴ってその場を離れました。
ギシッ、ギシッ
「~、~、~!!!」
「~~~!!!」
控えの間。
さて、話は冒頭に戻ります。
この控えの間は寝室の隣にありました。
隣の様子が微かに聞こえてきました。
その様子から、私はピン!ときました。
ーーすぐにご懐妊されてしまうかもしれない……
一人で嫁がれるお嬢様、さぞかしお寂しいことかと……。
は!私が乳母になればお側にいられるのでは……?
今やっと旦那様が私に激励していただいた意味が分かりました。
私がお側で支えるためですね!
お嬢様、待っててください。
カミラは乳母になります!!
視線を上に上げたのです。
最後までありがとうございます。
次回も楽しみにしていただけると嬉しいです!




