九話 暗い闇の底から。
――ここは……どこだ……?
暗闇の中を漂っている。まるで、ふわふわと浮かんでいるような感覚が全身を包み込む。目を開けても、何も見えない。ただ、無限に広がる黒い闇だけが、私を飲み込むように押し寄せている。
……どうして、私はこんな場所にいるのだろう……?
記憶を手繰り寄せようとした瞬間、胸の奥に鋭い痛みが走った。そうだ……。戦っていたんだ。みんなを守るために……師匠と、平和に暮らすために……。
――幸せでいるために。
そうか……私は、死んだんだ……。
でも……私は本当に、守れたのだろうか?
いや……守れなかった……。何一つ……。
その思いが、胸を強く締めつけてくる。自分の無力さが、冷たい鎖となって私を絡め取り、逃れられない。何もできなかった……みんなを、救うことさえできずに……。
――みんな……死んだ……。
あの爆発の光景が、鮮明に脳裏に蘇る。破壊と喪失が混じり合うあの瞬間……。師匠が私をかばって覆いかぶさってくれた時の、あの顔……。師匠は、私を守ろうとしていた……なのに、私は……私は何も…何一つできなかった……。
その時暗闇が破れる様に光が差した、割れ目はどんどん広がり辺りが白く包まれる。
目が覚めた——————
視界に入ったのは、天井に吊るされた一つの電球。それがゆらゆらと揺れている。私はベッドの上に横たわっているようだ。
「……だすがった……のが……」
喉がカラカラで、うまく声が出ない。何が起こったのか、状況を把握しようと必死に頭を働かせた。混乱する中、起き上がろうと体を動かそうとした――が、何かがおかしい。手を使って体を起こそうとしても、力が入らない。焦りの感覚が全身を覆う。
咄嗟に自分の腕を見た――。
「……ない……。」
そこには、あるはずの腕が……なかった。根元から、跡形もなく消えていた。さらに、両腕とも……。
瞬間的に、胸が締め付けられるような絶望感が襲ってきた。何が起きたのか、どうしてこんなことに……。混乱する頭の中で、再び天井を見つめる。
「……師匠は?」
ふと冷静になり、師匠のことが頭をよぎる。私がこうして生きているなら、もしかしたら師匠も――。その一縷の希望にすがろうとする。
私は力を振り絞って、今度は足で立ち上がろうとした。しかし……立ち上がれない。体は一向に動かない。息が荒くなり、焦りが増す。腕の時と同じ――嫌な予感がする。
まさか……。
私は恐る恐る、自分の足元に視線を落とした。
――そこには、何もなかった。私には、もう腕も足も……すべてが奪われていたのだ。
「……そんな……。」
私はもう、AIに復讐することすらできないのだ。
そう思った瞬間、何かが切れたように涙が溢れ出した。止まらない。泣いても、泣いても、心の奥に広がる虚無感は消えなかった。もう、何も残っていない。すべてを失った。冷静になればなるほど、この現実が私を押しつぶしそうになる。
泣きじゃくりながら、私は無力さと絶望に沈んでいった。どれくらいの時間が経ったのかもわからない。涙が枯れるほど泣き疲れた頃――突然、部屋のドアがガタリと音を立てて開いた。
期待と恐怖が同時に心をかき乱す。師匠……? でも、違った。そこに立っていたのは、師匠ではなかった。
現れたのは、筋肉質な男。逆三角形の体型が強調されたタンクトップを着て、その上に軍服を無造作に羽織っている。彼の目は冷静で鋭く、まるでこの世界のすべてを見透かすような視線を私に向けていた。その姿は、戦場から帰ってきたばかりの兵士のような威圧感を放っていた。
その男がゆっくりと一歩、また一歩とこちらに歩み寄る。私は涙でぼやけた視界の中で、その姿を見つめながら、自分がさらなる絶望へと向かっていくのではないかという不安に苛まれていた。
「お前……」男が低い声で呟く。
「まだ終わっちゃいない。」
その声に、私の心がかすかに揺れ動いた。この男は一体誰なのか? 彼の言葉は何を意味しているのか? 何もわからないまま、私は彼の言葉の続きを待った。