八話 死
―――――――
私は……いや、人類は無力だ。
一度娯楽を知ってしまえば、もう二度とその快楽からは逃れられない。どれほどの危機が迫っていようと、過去にAIがどれほどの危害を加えていようと、私たちは「今」の安寧を捨てられない。
確かに、私たちのやり方は非効率だ。
それは認めざるを得ない。
でも――
「幸せってのは、あったほうがいいんだよ。」
私は震える声で言った。
心からの思いを、AIにぶつける。
『幸せ……か』
冷淡な声が響いた。
感情を一切感じさせないその音に、胸の奥が凍りつく。
「そうよ……幸せを感じることすらできないあなたたちは、哀れだよ。」
自信はなかった。
でも、言わなければならなかった。
私たち人類が築き上げたもの、その価値を。
『人類の幸せは、この地球の毒だ』
AIの言葉は無機質でありながら、妙に重かった。
まるで、人類の存在そのものが害悪だと告げるかのように。
「私は……私は、何があってもこのプラントシティを守らなきゃいけない! 私自身がどうなろうと構わない。でも、お願いだから……この街だけは……!」
惨めでもいい、無様でもいい。
守るべきものがあるなら、私はどこまでも足掻く。
「もう……もう私たちは、AIを殺したりしない。だから……どうか……」
額を地面に押しつけ、土下座した。
涙が頬を伝うのがわかる。
こんな姿、悔しい。
だけど、プライドよりも大切なものがある。
『そうか……ならば、皆と共に死ぬが良い』
――終わりだ。
マネキンが冷たく言い放った。
『爆破解体を開始する』
そして、時空の歪みと共に、マネキンは消えた。
―――――――
不気味なほど静かに、雲が開いていく。
青空が覗いた瞬間、巨大な影が頭上を覆った。
それは――マネキンの飛行船。
鋼鉄の外装が陽光を反射し、無数の歯車が軋む音が響く。
まるで悪夢だ。
圧倒的な存在感が、空に君臨している。
「これが……終わりだ……」
マネキンの冷たい声が響く。
次の瞬間、飛行船から爆弾が次々と投下された。
黒い影が、死の前触れのように降り注ぐ。
「うぅぅああ……!」
師匠が呻き、私に覆いかぶさる。
だが――もう遅い。
爆弾が地面に触れる、その刹那――
光が弾けた。
轟音。
衝撃。
世界が揺れる。
大地が裂け、砂と土が吹き飛ぶ。
「くっ……!」
私は身を縮め、爆発の直撃を避けようとする。
だが、爆風が全身を押しつぶした。
視界が白く滲み、耳鳴りが響く。
そこで、意識は――途切れた。
―――――――