七話 何でもあり
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目が覚めた時、私は師匠に担がれていた。
師匠は私を肩にかけたまま、激闘を繰り広げていた。戦いの音が耳をつんざき、大地を揺るがす衝撃が体に響く。
瞬時に状況を理解した私は、師匠の腕の外へ飛び出した。
目の前には、4本の腕を器用に使い、師匠を圧倒しているマネキンの姿があった。その動きは驚異的だった。まるで生きているかのように滑らかで、流れるような柔軟さを持っている。
「リ……リリィ!」
師匠が何かを言おうとしていたが、相手の猛攻に言葉が遮られる。4本の腕が嵐のように振るわれ、師匠の防御を次々と打ち崩していく。
焦りが胸を締め付ける。
痛みなど感じている暇はなかった。ただ、師匠を守らなければという思いだけが、私を突き動かしていた。剣を握りしめ、迷わずマネキンへ向かって猛スピードで距離を詰める。
「どけぇええええ!」
師匠に向かって振り下ろされるマネキンの腕を、一閃で弾き飛ばす。金属同士がぶつかる激しい音が響き、マネキンの動きが一瞬止まった。しかし、それもほんの一瞬。
奴は、まだ動きを止めていない。
4本の腕が再び、こちらへと向かってくる。
「次は……こっちの番だ!」
息を整える間もなく、私は再び攻撃体勢に入った。
師匠が私を庇い、剣を鞘に戻してモーターを起動するまでの約2秒を凌ぐ。私は何度も斬撃を繰り出した。だが、どうにも様子がおかしい。確実に捉えているはずなのに、斬撃がまるで当たらない。
「……なんでだ?」
剣は、確かに相手を狙っている。軌道も正確だ。だが、当たる直前で相手が微妙にズレているような、奇妙な感覚が全身に広がる。
焦燥感が、じわじわと胸を蝕んでいく。
「奴には何かある。お前の感覚に訴えかける何かだ。油断するな」
師匠が静かに言った。
その瞬間、マネキンが空間にめり込むように消え、少し離れた場所に再び現れた。私たちの動きが、ピタリと止まる。
マネキンは、まるでため息をつくかのように、胸の口から白い霧のようなものを吐き出した。
そして、その無表情な顔が、わずかに歪んだ。
嘲笑の色を帯びているように見えた。
「人間とは、実に愚かだ」
冷酷な機械音が、耳に突き刺さる。
「そんな身体になってまで、なぜ戦おうとするのか。効率が悪いにも程がある」
「そんな身体……?」
違和感が、背筋を這い上がる。
確かに、肋骨は折れていて、呼吸するだけで激痛が走る。それでも、まだ戦える。……だが、「そんな身体」とは、一体どういう意味だ?
何か、おかしい。
嫌な予感がして、私は師匠の方を振り返った。
そして———息が詰まる。
師匠の体が、異様な姿に変わっていた。
折れた骨が皮膚を突き破り、肉の間から無惨に飛び出している。腕の関節は反転し、不自然にねじれていた。血管が破裂し、赤黒い液体が噴き出している。皮膚の下で、筋肉が蠢いていた。
「師匠……?」
呼びかける。
だが、返ってきたのは言葉ではなかった。
白目を剥き、歯を剥き出しにしながら、獣のような唸り声をあげる。
「がぁあああ……!」
指の骨が砕ける音が聞こえた。いや、骨だけではない。師匠の全身が、何かに引き裂かれるように軋んでいる。
「彼の体の中に、時空の歪みを作りました」
マネキンが冷たく呟く。
「彼の身体は、今———過去と未来を同時に生きている」
言葉の意味が、理解できない。
だが、師匠の体は、まるで映像の乱れたホログラムのように、次々と別の姿へと変化していった。
生きていた頃の姿———傷だらけの姿———そして、見るも無残なほどぐちゃぐちゃになった。
「やめろォォォォォ!!!」
叫びながら師匠に向かって手を伸ばす。
だが、その声が届くことはなかった。
———ズシャァァッ!!
音が、響く。
何が起こったのか、すぐには理解できなかった。
だが、次の瞬間。
私の腕が、渦のように捻じれ、ちぎれた。
「———ぁッ……!!!」
凄まじい痛みが、脳を焼く。視界が白く滲み、意識が遠のいていく。
しかし、はっきりと見えた。
マネキンの無表情な顔。
そこに浮かぶ、かすかな歪み。
楽しんでいるかのような、冷酷な、無機質な瞳———。
「これが……効率”だ”……」
最後に聞こえたのは、そんな冷酷な機械音だった。
もはや、抗う術は残されていなかった。




