五十六 〜事情〜
「EIMの社長が結晶化して、それを藤堂流の秘蔵っ子が国外から持ち込んできたと言えば伝わるかな?」
「……はぁ、なんとなく?」
こういうところが誠司兄ぃの好きなところよね。
私がとぼけたことを言ったり、理解できてなくても笑わないし、怒らない。
「これは遠いか。じゃあまずは……師匠からは聞いたんだよね? 僕らの流派の生業とか」
「聞いたわね。悪い神様とかは、バチーンといっちゃえ! みたいな認識だけど」
「……まあ、概ね合ってる。藤堂流は国と契約もしてるんだよ、加えて良子ちゃんは次期当主の姉で調停者の相棒という立ち位置だ。理解出来たかな?」
相棒って所が理解出来ません。
「はははっ! 何か言いたげな顔だね? 一応、僕も警察でそれなりの立場で仕事してるから、情報は入って来てるよ。二人して随分色々なとこで暴れてるじゃないか」
暴れる……本社の件かな? 私じゃなくてあの娘……思い出した、スズナだ。あの娘がバカスカ撃ちまくってたし、私じゃなくない?
「まだ納得がいってないようだね。あっ、そうだ。就職おめでとう! 初めて師匠の予想が外れたんじゃ無いかな」
それな! ピースサインでドヤっとこ。
「それと、師匠から聞いているよ。人払いもしてあるから、影から色々と出しても大丈夫だ」
「ですって、かめかめ。紫苑も出てらっしゃい……紹介するわ、私の兄弟子の三鷹誠司さん、私を小さい時から知ってる、お兄ちゃん的存在ね」
もう見慣れちゃったけど、影から出てくるって大概よねぇ。まあ気にしても仕方がない。
アクアは纏ってる状態を解除してっと。私の背中から霧状のモヤが出る。それが影に沈み込んでからヌルッと美少女が出現。
接続は回復しているから水嶋も出て来れるけど、まだ何があるかわかんないから一応実家に待機中。
「知玄武に逢えるとは光栄だ」
誠司兄ぃがこんなにワクワクしてるの中々ないわよ? もしかしてかめかめってすごいの? いまいち実感が湧かないわね。
「こりゃ中々、分かっとる、嬢ちゃんも見習わなにゃならん」
帰国してすぐご飯作るの面倒だから、今日は焼き鳥でも買って帰ろうかとおもったんだけどなぁ。そっかぁ、そういうこと言うんだぁ。それじゃあ木の棒でもかじってればいいんじゃないかなぁ。
「……その感情のない笑顔で圧をかけんでくれ! 心も読まれんように無駄に高度な精神防壁まで習得しおってからに!」
アクアを纏えるようになって何だか出来るようになったのよね。
こっちからの主導権、優先ラインみたいなのも感じ取れるようになってきたから、逆に意識に侵入するみたいなことも出来つつあるし。
かめかめはすごく嫌がるけど、水嶋と紫苑は喜ぶ。もうめっちゃ喜ぶ。……怖いからやんないけど。
「良子ちゃん、友達が増えて楽しいのは分かるけど、ふざけすぎちゃ駄目だよ」
「はーい。ところでかめかめ。焼き鳥食べたい?」
「全部儂が悪かった。謝る。じゃからネギマを」
わかればよろしい。わかれば。
「凄いね……良子ちゃん。少し会わない間に強さもだけど存在感、格が段違いだよ。玄武をここまで御せるとは……」
「師匠にも言われたんだけどそんなに? 何かきっかけというか掴めつつは有るんだけど、変わったかと言われると、どうなんだろ?」
実際出来る事はそんなに増えて無いしね、ビームみたいなのとかバリアーとか出してみたいけど。無理、出る訳ないじゃん。えっ? 出ない事も無い? マジ? アクア、後で相談よ!
「僕の力じゃ玄武を従えるなんて出来ない、それが答えだね」
かめかめのドヤ顔ムカつく。口を半開きで半笑いってなにそれ。従えるって意味分かってんの? さっきネギマ食べたいって言ってたのはどいつ?
「あと、以前より気の動きが流麗になっている」
「これ?」
特に構えもせず椅子に座ったまま体内の気を回して……手のひらに集めて霧散させてっと。
「少なくとも僕はそこまで自在に気を操る事は出来ない」
全力で咒式を殴ってから何か掴んだのは確かね。言葉で説明出来ないけど。なんだろう力の使い方がわかったというか?
「まだある。上位神格が影に潜んで常に結界を展開、遠距離攻撃は通らない。更にはEIM、叡智の結晶とも呼べる装備。まあ趣味は理解出来ないが……。僕ではもう良子ちゃんには勝てないね」
どうなんだろう? 全部私以外の要素だし。
「後付け拡張パックみたいでイマイチ納得しにくいけど。あと誠司兄ぃより強いとかも信用しにくい。だってあの誠司兄ぃよ?」
人外のアレコレをすんなり受け入れてるのも、大体からして師匠とこの兄弟子がぶっ飛んでるからなんだし。この二人見てたら大概の事はそんなに気にならないもの。
「何があのなのかは聞かないでおくけど、良子ちゃんが勝つ事だけを考えれば、僕が勝てる要素は無いね」
本当に? この人、気配一切出さずに背後取ったり、一撃でも掠ったら経絡ズタズタにする様な気をどんな体勢からでも撃ちこめるのよ?
いくら私がブースト盛り盛りでも、隙をつかれてはいお終いって。そんな想像しか出来ないんだけど。
「まあそこは、納得しなくても良いさ、今日はまず認識してもらうことが大事だから」
「認識?」
「そう、認識。それは良子ちゃんが今、どう見られているかという事、神格や人ではない者達からね」
「どう見られているか? 八尋の相棒なんでしょ?」
「昔、約束したろ? 君に嘘はつかないと。だから正直に言うけど。君は今、核ミサイルの発射ボタンを持った猿だと思われてる」
誰が猿か。私? まさかの猿。猿扱い。ウキーッ! 断固抗議! ウキーっ!
……冷静にいきましょう。これじゃ猿だわ。
「一度でも良子ちゃんに会えば分かると思うんだけど。そんな事も分からないのさ、神様は。所詮、人の上位互換程度でしか無いことの証明でもあるけどね」
この説明だと八尋は猿回しポジション。なんかムカつく。
「ざっくりいうと、あんまり刺激するようなことは控えて、大人しくしておくって事?」
「理解が早くて助かるよ。出来そうかな?」
「なして? 大人しくしとくってば……あっ」
思い出した、オーディン殴る予定あった……。
「その様子だと大人しく出来ない理由がありそうだね」
「オーディンじゃ。気ぃつけぇよ、三鷹殿。お嬢ちゃんはアレをぶちのめす算段を練っとる」
ぶちのめすじゃなくて、全殺しね。そこんとこ宜しくぅ。
あの槍とか他にもありそうな私が対応出来ないであろう攻撃。それらをどうやって完封するか。アクア達とずっと相談中でーす。
かめかめはずっと闘うの嫌がってるけど。
水嶋でもあの槍は防ぎきれないし、八尋みたいに呪いとかに変換するのも難しい。地上ならたぶん避けるだけなら出来そうだけど、余波が凄いらしいのよね。だから先ずはあの槍を封じ込める方法を模索中。
あれが最大の攻撃じゃない場合も想定しないといけないから今のところ確実な勝ち目は見えてないけど。
絶対諦めない。あのボケナス髭が鼻水垂らして泣いて謝るまでとことん行くかんね。
「神話に喧嘩を売ってるんですか!? しかも具体的なプランまで練って?!」
「そうじゃ、こっち帰る時に襲われての? それで八尋は見ての通りじゃ。嬢ちゃんは復讐を誓っとる。三鷹殿から何とか辞めるよう言うてくれんか」
「頼まれれば断りはしませんが……言って聞くと思いますか?」
「思わん。これぽっちも思わん! 藁にも縋りたいだけじゃ」
そんなにげんなりしなくても良いじゃん。甲羅撫でてあげるからさ。元気だしなよ。
「ぐぬぬ……あっ、そこもうちょい右を強めに」
こっちかな? ちょっと強めにさすさすーっと。
「師匠に報告……駄目か。喜んで参戦しかねないな。まずは情報統制……いや、もう戦闘は不可避として対処し余波が極小になるように動きを……」
「おーい……三鷹殿? 儂ゃ、止めてくれと言うたのに。あっ、そこもうちょい左」




