五十五 〜通れるわけがない〜
「それで、向井さん。貴女のお勤め先はEIM。そしてこの物体は社長である遠藤八尋氏だと仰るんですね?」
尋問受けてまーす。
言い方悪いか、質問? こうキツめに問われると尋問? 詰問かな?
一緒に帰って来たはずの救助隊のみんなは、なぜか何も喋らないし、私に対応丸投げしてくる。私の後ろで下向いてんの。いい大人が、どういうこと?
「そうです」
「……このオブジェが?」
「キレイですよね」
「……」
だめかー。これじゃ押し通せる訳ないか。
でも、事実じゃん。キレイじゃん。だからその怪しい人を見るようにジロジロ見るのやめて欲しいんですけど。えーと、名前は最初に言われたけど覚えてなくて……バッジに……書いてた安本さん。
「もう一度お尋ねしますが、パスポートに記載している貴女の年齢、住所、それからその物体についての内容をお話しして頂けますか?」
「向井良子、二十一歳、住所は〇〇県〇〇市〇〇、〇〇ー十七、職業は会社員です。それと、これはうちの社長」
遠い目をしないで欲しいんだけどねー。他にどう言えと?
あれから半日後、救助隊はなんとか到着。同じタイミングで墜落現場となった国の政府の調査隊と鉢合わせ。
衝突しそうな空気はありつつもなんとか折衝。なんか支社置くからそれで飛行機事故の件は丸く収める、みたいな報告が飛び交ってたけど。
私は聞かないようにしておりました。ややこしいいから。
ようやく、ほんとっに、ほんとにようやくっ!EIM物流部門の輸送用飛行機を乗りついで、無事に日本の地を踏めたと思ったらこの足止め。入国審査すら辿り着けない。
搭乗口っていうのかしらこれ。それが飛行機に接続される場所かな? 滑走路に繋がるエリアで空港職員さんしかいないような場所。そこでずっーと質問攻め。
……まあ、止める気持ちは分かる。これの存在感すごいもん。
「あっ、触らない方が良いですよ」
「……何かを隠していませんか?」
いやだから結晶化八尋さん普通には触れないのよね。なんか呪いがどうたらで、アクアが変形、変質? して私を薄くコーティングというか、アクアを纏うような状態にならないと持てないの。
そんな説明しても信じないでしょ? あー、普通に触ると、ほら。
「おぇぇーぇ」
すっごい吐き気が襲ってくるから。呪いだそうで。まあこれは副作用でほんとはもっとヤバいらしい。八尋がなんとか抑えてる、とのかめかめ情報。
だから結晶八尋の運搬は私が担当。
「安本さん、大丈夫ですかー」
背中さすってあげよ。アクアを纏ってる状態で呪われた人を触ると呪いが解けるのも道中で実証済み。
救助隊の人達も最初大変だったもんね。
「……はぁ、はぁ……すみません」
「お気になさらずー」
結晶化八尋の荷下ろしだけど。もうとにかく大変だった。コンテナに詰められれば良かったけど、この結晶をコンテナ内で固定する方法が難しくて。
めっちゃ硬いからこれ。コンテナの中で動いたらコンテナ突き破るの。尖ってる箇所が至る所にあるせいなんだけど。
墜落した森から大きなトラックに乗せて運んだ時から大変だったんだから。もう荷台は穴とかキズだらけ。
コンテナを緩衝材で敷き詰める案も出たけど適したものを調達するのに時間がかかり過ぎるとのことで断念。
結局、紐を何重にもかけて引っ張り合う形にして固定。なんとか積み込み完了。
後は下ろしかた。救出隊の皆さんと何回も段取り確認したけど。なかなかこれが難しくてさ。
微妙に出口に引っかかるサイズなのねこの結晶。斜めにしないといけないから、バランスとるのに私が支えるでしょ。
それだと隊員さんが紐を解いたり掛けたりしなきゃいけない。それを結晶に触らずにってなかなかの難易度。それでもどうにかこうにか、なんとか下ろして。
あまりの面倒くささに、そのままえーいっていう、投げ捨て案は多分みんな喉の奥まできてたとおもう。良くやったよ私たち。
無事に下ろせた時のみんなの達成感。ヤバかった。めっちゃハイタッチ。
でも喜びもつかの間、職員さんがもう凄い剣幕で走ってきたのよ。
なんですかそれはっ! とかいわれてもねぇ?
ありのままに言うしかないし。
で、さっきの通りと。
……もう細かい事はいいじゃない、お仕事大変ね、分かるわ、とっても分かる。
日々、日本の安全安心を守る為、イリーガルな輩を見抜いて、危険物を持ち込ませないように頑張ってるのよね?
大丈夫よ、私ほど遵法精神の高い大和撫子は滅多に居ないから。安心して頂戴。これは別に違法な物でも何でもなくって人間入りの結晶なの。
これでどうだろう? ……無理か。言い方変えただけだもんね。
ん? インカム入った?
「応援人員は? 別件対応中? 了解しました、別室ですね? 警備は何名が? 了解、誘導します」
「向井さん、別室でお話を伺いますので、ご同行願えますか?」
アカン、これ長引くやつや。
「分かりました……」
ーーーーーーーー
「誠司兄ぃ!?」
「良子ちゃん、久しぶり。随分待ったろ? ごめんよ」
大量のピザの空箱とラーメン鉢を見ながら言わないで欲しいわね。私は一人前しか食べてないしね。他のはみんなのだからね?
……それにしても誠司兄ぃが来るとは思わなかった。
「久しぶり。なかなか伝わらないのよね、私はあるがまま伝えてるつもりなんだけど……」
「モノがモノだしねぇ? EIMからの圧力も半端無く掛かってたけど、それでも事情も聞かずに見過ごす訳にはいかないよ」
ワンチャンないかぁ、するーっと通れないかなって思ったんだけどやっぱ無理なのね。
「これってそんなにヤバい?」
「ヤバい」
あっ。すんごい笑顔。やばいマジだこりゃ。この人危ない時に笑う癖があるのよ。
「いや、奇跡だよ。空港職員には賛辞を送りたいね。まあ他でも引っ掛かっただろうけど」
ちなみに。出発前から隊員の人達にはこんなの普通に持ち込めるの? って聞いてたけど、みんな答えてくれなくて無言だったから。正直こんな風になるとは思ってた。
「人が入ってる結晶だもんねー」
「……まさか、その認識だとは」
えっ? 何? なんでそんなびっくりしてるの? 私おかしなこと言った?




