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五十四 〜接続〜


 ——空が、

    ——空?

   空、広くて、

 緑色ーー

    空、

      雲。

      ーー地平線?

     空、息ができーー

 また、空。

 

 ——っ!


 ——空気が身体に叩き付けられる衝撃と風が暴れる音が耳を塞ぐ。


 身体の回転が止まり、地面に向いた背中で感じる浮力の強さに驚きながらも、現実感なく急降下中。


 なにこれ?


 光の後に押し出されるような爆風と圧力が襲ってきたと思ったら、いつのまにか機外……。さっきまでシートに座っていたのに。


 ……冗談きついって。


 八尋、アクア、紫苑、かめ、パイロットの人達。搭乗していたみんなのことを早く確認したいけど、情けないことに昔の記憶に縛られてか、力が入らない。


 身体が動いてくれないし、気を練る事も出来そうにない。意識を失わないように目を見開くことが精一杯。


 とにかく何かを考えていないと恐怖に負けて終わるっ……。


 ああ、青と白、太陽。この景色にこれほどイラつきを覚えるなんて。


 ーーこのまま地面に叩きつけられて死ぬ?


 何も出来ず、空を睨むだけ?

 ……いや、絶対にいや。


『良……子』


 ーーっ! アクア? テレパシー? どこ? どこなの? 


『近く』


 近く? ……ごめんね、声が出ないし、顔を動かして周りを見る程度の力も入らないのよ。風圧が強くて気配なんかも探れないし。


 でも近くにいてくれて嬉しいよ。……ちょっと限界だったし。


『再……接続……良子だけ……助か』


 接続なにを? 私だけ助かる? ダメよ、そんなの。楽しくないじゃない。


『……と……強く……でも』


 テレパシーの感度が出会った時みたい……。強く接続すればみんなが助かるの? じゃあ、それしかないわね。


 強い接続ってあれよね、ヤスリで頭の中をゴリゴリされるやつより強いのよね? ……やりたくないけど、死ぬよりましだから、ささっとやってちょうだい。


『飲み……ま……れないで』


 飲み込まれる? 何に? ねぇ何がーーがっーーがっーー。頭ーーイタいーーっーー痛ーー私の中にーー流れ込んでくるナニカーー『みつけた』ーー


 『ーーーーー』


 ーーっ! なに今の?! 一瞬だけど意識が溶けたみたいに曖昧になって……あっ、最初の時と同じで視界がブラックアウトしてる。痛みはもうないけれど、流れ込んでくるナニカと、その声がーー『我の身体』ーー


 うるさいわね。アクアじゃないでしょ。この声。

 

 『良い……』


 ……だからさっきから、うっとうしいわよ? 身体の中に入り込んできて、ぶつぶついったり、グネグネ、うにうにとっ! 


 ……あれ? 身体の中に異物が入ってきてるのを自覚したからか、自分の気脈がはっきりとわかる。


 これなら、いけるかも。……えーと、こうか、

 流転の……いけるっ! 気を回して包んで、捕まえたーっ!?


「痛っ! 痛いって!」


 アガガガがっ!! 暴れないでよバカっ! 私に勝手に入ってくるから包んで押し出しただけでしょうがっ! 一旦やめっ! ……ありゃ? 空? 視界が戻ってる。


 気を取り直してもう一度、身体を侵食してくるナニカを追い出そうと気を練る。


「ぎっぃぃーっ!」

 

 襲ってくる、全身の血管が痙攣するような違和感と激痛。なんちゅう声出させるのよっ!


 だけど、さっきまでは怖くて金縛りみたいだった身体が動く。 動く!


『良子』


 随分クリアになったアクアのテレパシー。動くようになった身体を横に向ければ、隣に居たのね。

 こうやって貴女の顔をまじまじと眺めるの……なんだか顔変わってない? 私に似てる? 何で?


『こっちに押し戻して』


 はいよ。言われなくてもそのつもりよ。ところでこれ、なんなの?


『今はいえない』


 ……うーん。まあ、いっか? だめかな? なに? なんのフラグ? ……まだ短い付き合いだけど、騙すようにも思えないし。疑い続けるのって疲れるから嫌いだし。このキレイな瞳で騙してたとしたら。

 

 ……考えても仕方ないか。悩むのきらい。ダメなら師匠に相談で。


 よし。とりあえずは、気をガチガチに練り込んでっと。

……やっぱ、痛っぁー、ひたすら痛い……けどっ!

「舐めんなっ!」


 はい、捕まえたー。私の身体は私が一番良く知ってるからね。逃がさないから。……丹田あたりで包み込むようにして、どこに通そう? 


『こっち』


 右手? アクアが手を握ってきた、気脈が繋がる感覚。そこに出せば良いのね。


『ーーーー。 かえせ。 ーー我の』


「だから、うっさいって!」


 気合いは全てを凌駕する。師匠の受け売りだけどまさにその通り……いや、嘘です。痛い。泣きそう。


「痛い! 痛っ! さっさとでてけっ!」


『かーー、っーー』


 ……よしよし。アクアの方にナニカは押し戻せたわね。オッケー?


『オッケー』


 あー、痛かった。涙でるわ。これ絶対化粧全部取れてる。マジ無理。ほんと無理。……とかいってるあいだにそろそろ地上が近づいてきてるわけで。焦るわけで。

 

 身体はもう動くし【空転】連打で地面まで降りれそうだけど、みんなはどうしよう……。


『もう大丈夫』


 大丈夫って、どう……アクアの両手が半透明にっーーすっげえ伸びたっ! 機体まで届くとかすごい!


 ーー伸びた手が戻って……おおっ! なんか一杯くっ付いてる! みんなだっ! 紫苑にかめかめ! パイロットにクルーの人達! 


 アクア凄い! ……あれっ? 全員気絶してるわね?

 

『問題ない』


 まあ、大丈夫ならいっか、空中でパニック起こされたら余計にややこしくなるものね。……そういや、八尋は? どこ? あっち?

 

 アクアが指差す先は空中。そこには穴が空いて折れそうな機体が恐ろしいスピードで急降下中。


「えっ?」


『重くて持ってこれない。でも、あれだけの攻撃を全て呪いに変えて結晶化したから、物理的には壊せない。多分、大丈夫』



 

ーーーーーーーー


 で、【空転】を連発しながら、どうにかこうにか。どっかの森に不時着して今に至りましたと。

 

 地面に衝突した衝撃で機体の中から八尋がスッッポーーンって飛んでいったの、空中で見てたんだけど、ちょっと笑ったのは内緒よ。危うく空転しくじるとこだった。



「取り敢えず猪いないか調べてくる。さっき有望な足跡見つけたのよ」


「嬢ちゃんの影は明日には戻るじゃろうし、そんなに気張らんでも良いのじゃぞ?」


 八尋が攻撃を防いでくれたけど、その余波の影響はまだ続いてる。かめかめの説明では二、三日で繋がりは回復する、とのことだけどよくわからん。


 だって細かい理論説明されても、わかんねぇし。


 水嶋との繋がりは途切れたまま。途切れたというか、遠くなったが正解かな? うっすら感じるのよね、水嶋の存在。アクアは再接続したからバッチリだけど。


「今は何かをしてないと怒りが込み上げてくるのよ」


 あー。ほら、考えてたらイライラしてきた。


「……殺気を気軽に撒かんでくれ、肝が冷える」


 こりゃ失礼。でもアレは絶対に許さないかんね。

 確かに大事なスレイプニルを殴ったかも知んないけど、先にケンカ売って来たからね? 


 ユニコーンがあそこで役目を終えるのはもう不可避だったみたいだし。私達がいてもいなくても結局はスレイプニルに仕事が回ってきたんでしょ。


 かめかめに聞いてもその通りだってことだし。


 大体、神様ですぅっ、上位存在ですぅって気取ってんなら人間がやる事にいちいち腹立てんじゃないわよ。


 オーディンは絶対シバく。泣くまでシバく。


「ふぅ……落ち着いてきた。ごめんね、お肉取れたら美味しいところ食べて良いからさ」


「……儂等よりパイロット達に喰わせんとな」


「そうね」


 お肉食べて元気になって、みんなで無事に帰らないとね。







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