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連戦連敗

――人間、存外見た目によらないものだ。

ヤンキーが実は優しかったり、細い見た目の割に実は喧嘩が強かったり、小学一年生の見た目なのに実は中身が28歳おっさんだったりと、見た目と中身というのは必ずしも比例はしない。

だから、よくこんな言葉を聞く。

「人を見た目で判断してはいけない」と。


故に俺は、期待していた。

密かに期待していた。

希望的観測に過ぎない期待かもしれない。

でも、その可能性も捨てきれないと、信じたい自分がいたのだ。

しかし、――。


「ふぇぇ! で、できないよぉ~!」

この超絶ネガティブな田島くんが実はやれば出来る子であるなど、俺の淡い幻想に過ぎなかった。


お楽しみ会が始まって約20分が経過した頃。

俺は何とか、田島くんをこの行事に参加させることに成功した。

だが、それに成功しても優勝が絶望的であることに変わりはない。だってこの田島くんとこの俺のペアだぜ? 戦力図だけで絶望的なのが目に見えている。

現に、最初にお楽しみ会の課題として取り組んだ「箸で豆を掴んで右の皿から左の皿に移し、5組中1番早く全ての豆を移し終わったペアがポイントを貰えるというゲーム」で惨敗を喫していた俺&田島くんペア。

俺はまあ28年のキャリアがあるため箸使いは問題ないが、問題のある田島くんは不器用且つ本番でのテンパりで散々な結果。

流石の俺も散々の田島くんと一緒の状態で他のペアに1人で勝てるほどの器用さは持ち合わせていない。

まあ、これが現実だ。


いや、わかってたよ。そう物事が上手く転がることないなんて、わかってたんだよ。

実は田島くんは箸の使い方だけが下手で他では万能、なんてことは決してないとわかっている。

 どうしようもなく困難な状況にあるというのはわかり切っていたことだ。

 しかし、こう現実として突きつけられると、やはりショックだ。というか絶望だ。


 戦力が問題だが、増員はどうやっても不可能だ。

 俺と田島くんは一蓮托生、死なば諸共だ! いや死なないけどね。

 ——とは言いつつも、戦力増員はできなくても、戦力増強くらいはしたいところだ。

 田島くんの無能さと緊張強いを今この瞬間どうにか出来る魔法のような芸当は俺にはできない。

 ならばせめて、もう少しこのお楽しみ会に前向きにさせたいところだ。


 俺が脅——、お願いして何とか協力は得られたが、彼が今こうしてお楽しみ会に参加しているのはあくまで義務感の類で、やる気やハングリー精神といったものではないのだ。

後ろ向きである彼に、少しでも前を向かせられたらいいのだが——。


「うぅ、やっぱ無理だよぉ……」

「……っ(イラッ)」

 ああぁ! もうむかつく!!

 なんかこいつ見ていると無性に腹が立つ!

 

——……あれ。なんで俺こんなに腹立ててるんだ?


 確かに、田島くんはお楽しみ会を優勝したい俺とは真逆の志で、しかも先の「箸掴みゲーム」でも散々足を引っ張った。

 まあ気に入らない理由としては十分なのだが……。

 またそれとは、違う理由で腹を立てている気がする。


 姉貴のおかげ、というより姉貴のせいで、ある程度の理不尽耐性が付いているため、今までの人生でもむやみやたらと怒り散らしたり腹を立てることはなかった。姉貴の場合を除くが。

 それなのに、田島くんに対しては無性に腹が立つ。

 そのことがどうしても胸に引っかかる。



 ——でも、今はそんなことどうでもいいことだ。思考を切り替えよう!

 モヤモヤを抱えながらも、それを吹っ切るように現状に目を向ける。

 この一敗に反省し続けるのは時間の無駄だ。

 こうなりゃ、とにかく数打ってポイントを稼ごう!

 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる! トライアンドエラーの精神で行こう!


「ほらっ! 次行きますよ田島さん!」

「え、えぇぇ……」

 落ち込み気味の田島くんの手を無理やり引いて、次の課題がある場所へと向かう。


                 ◆


 当たって砕けろの心持ちで取り組むことに方針を決めた今。俺たちは、現在地から近くにある順で課題を挑戦しまくった。

「かるた勝負」「腕立て勝負」「じゃんけん勝負」etc。

 二時間ずっと休みなくそれらの課題に挑戦しまくった。

——そして、


「ダメじゃこりゃぁ!!」

これら全てにおいて全敗した。

 あまりに全敗ばかりを繰り返したため、一度一階多目的ホールに引き返した俺ら。そこで俺は手と膝を地について嘆いていた。

俺らは砕け散ったのである。

 下手な鉄砲があまりに下手すぎたため、エラーばかり。

 動体視力や腕力、果てや運すらも俺らは劣っている。

 もはや勝負の神に見放されたペア。それどころか敵対視すらされているのではないかと思うほどの状況だ。

 これは本格的に落ち込みそうだな……。


「ね、ねえ」

「……? なんです?」

 珍しく田島くんの方から声を掛けてきた。少々、バツが悪そうな顔をしている。


「あ、あのさ、もう諦めようよ」

 彼なりの優しさか、俺を諭すようにそう言った。


「こ、これだけやって、一ポイントもゲットできてないんだったら、もうやる意味ないよ」

「……」

「い、糸崎くんの目標は優勝だって言ってたけどさ。い、今からどんなに頑張っても、も、もう無理だよ」

「……」

 果てしなくネガティブな発言。

 ——けど、間違っていない。


 正直なところ、もう優勝の見込みは皆無。

 今頑張ったって無駄な足掻きで終わるのが目に見えている。

 それを薄々ながら承知してしまっていた。


 だから、俺はその田島くんの言葉が今やめる良い理由付けの言葉であるように感じてしまった。

 その甘い言葉に惑わされそうな自分がいて、もう諦めてもいいんじゃないかという自分もいる。

 ——けどな。


「ダメです」

「で、でももう——」

「ダメなんですよ、そうやって逃げちゃ」


 今頑張らなくてもいい。どうせ無駄なことだし。やったって意味ない。

 これは俺がかつて勉強や運動、友人関係に対して向けていた感情だ。


 今は「夢」があるから、他の事には注力できない。なんて言い訳をして、見て見ぬふりをする。

 都合の良い言い訳をして、無駄だと決めつけて、身勝手に切り捨て、諦めること。


 それは、俺が最も忌むべき考え方だ。

 だってそれは、小一に戻る前の俺の考え方だから。

 夢ばかり見ていた愚かな俺の考え方だから。


 それじゃあやり直した意味がない。

 俺はもう同じ道は歩まないと決めたのだ。

 二度とあんなみすぼらしい終着点しかない道を歩くものか。

 俺は絶対に別の道を歩く。夢を見ず堅実に生きる道を。

 そのために俺は変わらなきゃいけない。

 根本から腐った俺の性根を叩きなおす必要がある。

 だから、田島くんのその甘い言葉に惑わされるかつての俺をぶっ叩かなくてはいけない。

 課題に連敗しても、優勝がつかめなくても。俺は、

 

「何が何でも、弱い自分に負けたくないし、その自分を認めたくもないんです」


「……っ」

 激情が含まれたその言葉に、田島くんはそれ以上何も言わなかった。


 「逃げない」「挫けない」「諦めない」

 根性論上等! 俺は堅実に生きるためだったら命も惜しくねえっつうの! ファーストライフの俺とは真逆の道を歩んでやる!!


 滅茶苦茶な考えだが、これが俺のセカンドライフの生き様だ。

 その小さな小さな一歩として、このお楽しみ会を絶対に諦めない。

 昔の俺だったら絶対に諦めていたであろうこの行事を、最後まで全力で、優勝目指して頑張ってやる!

 それが、昔の俺への最大の復讐だ!


「時間がもったいないです。とにかく、新しい作戦を考えましょう!」

「えっ、あ、う、うん」

 俺の勢いに流され、田島くんは反射的に頷くのだった。


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