熱血男児
もう俺らはさんざん砕け散った。
その結果、下手すぎる鉄砲は当たらないと気づいた。いや、そもそも弾が飛ぶほどの飛距離がないことに気づいたのだ。本当はもう少し早く気づくべきだったのだけど……。
ならば今度は効率的に行くべきだ。
「できるだけ獲得できるポイントが多いところを狙いましょう」
このお楽しみ会のゲーム要素として、割り振られているポイント数は課題ごとに違う。
それをいかに効率的に且つ手早くこなせるかが勝負の鍵となる。
鉄砲の飛距離が届かないんだったらやっても意味ないんじゃ、というツッコミをしようとした方。それは言わないでください。お願いですから。それが改善出来るならもうとっくにしているんです。
「――ということで、まず目指すべき場所は体育館です」
俺がお楽しみ会のパンフレットを広げ、覗き込む田島くんに体育館の左半分が囲われたエリアをわかるよう指さす。
広い体育館の左半分を占めているというかなり思い切りのいいことをしたこの課題エリア。パンフレットでそのエリアには「障害物競走」という文字が書かれている。
広さをとっているだけあって、得られるポイントは6ポイントと通常の三倍である。これはおいしいぞ!
「よしっ、善は急げです! 行きましょう!」
少しでも気を緩めるとネガティブ思考に切り替わってしまいそうなので、気丈に振る舞う。
「で、でも今更――」
「ぐちぐち言わず行きますよっ!」
ここでまた彼の話を聞いていたら埒が明かない。ネガティブ発言を遮り、彼の手を引き体育館へと向かう。
◆
「……混んでますね」
「……うん」
予想はしていた。
通常の三倍のポイントという点もそうだが、何よりエリアの大きさというのが単純な少年心を疼かせた。だって巨大ロボとか巨大恐竜とか男子小学生は好きでしょ? プレゼントとかも大きいのが好きだろうし、男児は。俺も昔は好きだったしね。
「じゃあ帰ろう」
「させねぇよ」
すかさず踵を返そうとする田島くんの服を引っ張り引き止める。
予期していたから直ぐに反応できた。
が、往生際の悪い田島くんのことだ。一筋縄ではいかないことも予期している。
「だ、だって、こんな大勢の中で障害物競走するなんて、絶対恥をかくに決まってる!」
「落ち着いてください! そうならない可能性だって無きにしも非ずですから!」
「それ恥かく確率の方が高いってことだよね!? ――い、いやだ! もう僕はこんなところにはいられない!」
ナチュラルに死亡フラグを建設していく田島くん、それを必死に止める俺。
ここで逃がしたら6ポイントも得られないし、フラグ的に田島くんが第一被害者になりそうな感じだ。
悪いが全力で阻止させてもらうぞ!
しかし、力バランスは田島くんの方が優勢であるため、俺は引きずられる方になっている。
クソッ! 俺にもっと力があれば……!!
まるで満身創痍で敵に追い詰められている少年漫画の主人公のようなことを思いながら、ズルズルと体育館にできた列から遠退いていく。
するとそこに、
「ちょぉおおと待ったぁあああ!!!」
体育館に響き渡りそうなほどのけたたましい雄たけびと共に、一人の男子生徒が田島くんの進行方向に立ち塞がる。立ちはだかられたため、止む無く田島くんは立ち止まる。
身長は田島くんよりやや高く、半袖半ズボンという小学生男児のイメージ服を纏っており、そして髪がすごくツンツンしている。髪で生け花ができそうなほどツンツンだ。
「恭介くん! どうして引き返すんだ! 一緒に障害物競走をやろう!」
一言一句がハキハキしており、それはもう良くツンツン頭の彼の言葉が聞こえる。
うるさい。正直うるさい。
「ひぃっ!? あ、厚木くん……」
ツンツン頭の彼は名乗っていないのに、田島くんは彼の名前を呼んだ。
それがわかるということは知人であるか、もしくは死神に半分の寿命と引き換えに初対面でも相手の名前がわかるような能力を得たかのどちらかである。まあ後者では絶対ないだろうから、答えは一択だ。
ツンツン頭の彼こと厚木くんの方から話しかけてきて尚且つ田島くんの身長を上回るということは、多分田島くんのクラスメイトであろう。
それにしては田島くんが彼に対して怯えているようだが……。
しかしそんなことはお構いなしに、厚木くんはズカズカと田島くんに歩み寄る。
「逃げちゃダメだ恭介くん!! ドントランだよ! ドントラン!」
「Don‘t run」だったら「走るな」だろ。※(「逃げるな」は「Don`t run away」)
「諦めちゃダメだ! 諦めたらそこでネバーギブアップなんだよ!」
混じっていろいろおかしくなってるぞ。
「君はやらなければできない子なんだッ!!」
それはみんなそうだ。
なんというか支離滅裂というかニュアンスで喋っているというか……、伝えたいことはわからなくはないのだが、日本語や英語が間違っている。
——それにしても、暑苦しい。熱血キャラ丸出しって感じだ。少年漫画には一人はいそうなキャラクターしているな、この人。
正直このテンションについていけない。
田島くんが彼に怯える理由が何となくわかった。
「そうだよ! いっしょにがんばろう!!」
「「うわっ!?」」
何処からともなく突然目の前に現れた少年に、並んで立つ俺と田島くんは同時に驚きの声をあげる。
背丈は俺くらいで、半袖半ズボンに、ツンツン頭。
——ついさっきも見た容姿だなぁ。というか、今もある。
この少年、ほぼ厚木くんである。ミニ厚木くんだ。Sサイズの厚木くんだ。
この子遺伝子レベルで似ている、というかもはや小型化したクローンかなんかなのではないだろうかと思うほどだ。
「こいつは俺の相棒の厚島くん! よろしくな!」
紹介の仕方がマサラタウン出身の人のそれだった。
相棒、つまりペアってことか。
六年生の厚木くんとペアってことは、このミニ厚木くん、じゃなくて厚島君は一年生か。クラスでは見たことないし違うクラスか。
「「は、はぁ……」」
俺と田島くんは覇気のない頷きを見せる。
——というか苗字違うってことは他人かよ!? 血の繋がりなしでこの似つきようはもはや奇跡の産物だろ!?
人類の不思議に驚愕しながら、並んで立つ二人の顔を見比べる。
「おれたちといっしょにショーガイブツキョーソーがんばろう!!」
「そうさ! 一緒に汗を流そう! 気合い気合気合いだぁあああ!!」
「行こう!!」
「さぁ! 行こう!!」
「さぁ!!」
「さぁ!!」
「「……」」
一人でもついていけないのに、二人だったらもう手に負えない。
暑苦しい二人をただただ傍観する俺と田島くん。その目に生気はなかった。
「……僕、この二人苦手」
独り言か俺に話しかけてか、前方の彼らには聞こえないように小さな声で田島くんはそう呟く。
「安心してください。俺もです」
「don`t run」は「走るな」である。と書きましたが、某インターネットサイトの翻訳だと「逃げるな」という意味もあるそうです。もちろん「走るな」という意味もあります。でも「don`t run away」の方が正しいのでは? と思ってこっちにしてみました。あと「don`t escape」も「逃げるな」という意味なのではないか、と思います。
つまり英語は難しい。




