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第二章 第九節 それは

「任務ですか?」

 ここはLIGHTS本部内にあるラウンジ。恭介はカイルと共にコーヒーを飲んでいた。人影は多く、こんなにも隊員がいたのかと、当初彼は驚いたものだった。

「ああ、そろそろも新人研修も終わるしな」

「それは、まあそうですけど」

 LIGHTSに入隊して一ヶ月。恭介はカイルの下で実際に任務に出るための基礎的な技術を磨いていた。言語を翻訳するための力、異世界に移動しても時間間隔の狂わない様自動的に元いた世界と異世界の時差を表示してくれる時計の扱い方、主な世界の法律や慣習等、学ぶべき事は多かった。

「最初は簡単な任務だし。俺が同行するから心配する事は無い。それに、ルーカスも一緒だ」

「ルーカスも?」

 恭介は懐かしい友人の名前に顔を綻ばせる。

「三人一組が原則だからな。まあ、油断するなよ」

「はい、よろしくお願いします」

 頭を下げる恭介にカイルは苦笑いで返す。

「お前にそんな事されると困るな、ランスロットさんを倒した奴が」

「じゃあ」

 と、彼はグッと親指を立ててそのまま下に下ろした。

「調子に乗るなよ、ルーキー」

 恭介の頭を小突きながら、カイルは立ち上がる。

「あれ、もしかして今から任務ですか?」

「違う、そこは察しろ」

「え?」

 そのまま片手を上げて去っていくカイルを見送りつつ、彼は期待に胸を膨らませる。

「やっと、やっと任務に―」

「何ぶつぶつ言ってるんだ?」

「ルーカス!」

 後ろから肩をぽんと叩かれ、振り向くと、そこにはニヒルな笑みを浮かべるルーカスの姿があった。

「どうしてここに?」

 恭介は不思議に思って彼に問いかける。任務は明日だ。顔合わせの必要があるわけでもなく、打ち合わせは当日行われる。

「聞いてないのか? 明日から同じ任務だろ?」

「いや、それは聞いたが」

「だったら何でそんな事を聞くんだよ?」

 恭介はどうにも彼の様子がおかしい事が気になっていた。どこかぼけっと遠くを見る事が多くなったのだ。現に今も焦点は自分ではなく他の何かに向けられているように感じる。

「ルーカス?」

「あ、ああ何?」

「お前が話しを振ってきたんだろうが」

「じゃあ、質問に答えろよ」

「いや、お前最近変だなあって・・・」

 言葉尻を濁す恭介にルーカスは大げさに肩を落とした。

「何だよ?」

「いや、羨ましいよ。お前」

「どこがだ?」

「誰にもこういう感情を持たないとこ、とかな」

「はあ?」

「ま、明日はよろしく頼む、実は呼び出されてな。今から仕事なんだ」

「何だ、頑張れよ」

「おう」

 ルーカスを見送って、彼もコーヒーを飲み干す。この後は特に予定は無いが、少しでも知識はあった方がいい。

「図書館にでも行くか」

 そう言って彼は立ち上がり廊下へと出る。LIGHTSの本部は五十二階建ての超巨大ビルであり、あらゆる施設が建物内に設置されている。内部は簡単な構造をしており、大部分は隊員の為の居住空間、他に射撃場や、フロアを丸々使った訓練場、食堂、風呂等が設けられている。

 恭介は図書館に入ると真っ先にLIGHSが把握している能力者のリストを手に取り、席に着く。

「エデフィ、か」

 彼はあるページに目を止めじっとその中で微笑んでいる人物を見つめる。相当強力な能力者ではあったが、まさかここまで高名だったとは思ってもいなかった。

「シュトラウスのたった一人の弟子とはな」

 彼は小さく呟いた。三皇の一人、黄昏のシュトラウス。知らぬ者はいないと言いきれるほどの有名人物であり、黄昏の異名は彼の能力に由来している。

「そしておかしいのが」

彼はページを最後までめくり終え、本を閉じた。入隊以来、数々の本を読み漁ったが、あの男の名前や姿がどこにも見当たらなかった。

 あれほどの力を持っているなら、必ず名の知られた能力者だろうという彼の目論見は外れ、彼は意外に思った。

「何故だ? そういえば転送とか言ってたがどこに?」

彼をこの所悩ませている問題の一つだった。考えても答えが出ないのなら行動するしかないのだが、如何せん今までは身動きが取れなかった。が、晴れて明日からは実戦である。本部に配属されたときは小躍りしたものだが、その時期待した事がようやく現実となる。

「こいつもエデフィも、ケルベロスも全部俺が倒してやる」

 恭介は本を戻し、数冊法学所等を借りてから図書室を後にし、自分の部屋へと戻った。

 新人にも個室が与えられ、鍵は全てカードキーで管理されている。

「ん?」

 あらかじめ設置されているベッドに腰を落ち着かせ、机に目をやると一枚のメモに気がついた。

「誰が?」


 部屋の鍵はきちんとロックされていたはずだ。彼は不審に思いながらもそのメモを手に取り、見た。

 明日、お前は選択を迫られるになる。

「は?」

 書かれていたのはたった一行だけ。おまけに意味がさっぱり分からなかった。

「まあいいや、明日誰かに見てもらおう」

 彼はそれをポケットに入れて、それっきりそのメモの存在を忘れた。


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