第二章 第八節 模疑戦 恭介の場合
「はあ」
「肝心な所であれか」
「全然駄目じゃん」
「それ本人の前では言わないでやってくれ」
それぞれ上からフラグラス、ルーカス、凛、恭介の弁である。つまり、瞬殺だった。
始まるや否やノグマの攻撃をかわした、までは良かった。その後、
「頑張れマルク!」
という凛の声援が飛んだ瞬間、彼は端から見て可哀想なほどに動きがガチガチになった。
その瞬間横手から肥大化したノグマの拳が彼の体をグラウンド外へ思い切り吹っ飛ばし、試合は簡単に終了した。
「いてて」
頭を抑えながら返ってきた彼に三人は冷ややかな視線で出迎えた。
「あれで本気?」
「意識しすぎなんだ」
「何やってたの?」
「だから、お前ら・・・」
マルクは彼らにひたすら頭を下げるばかり。見ていて流石に気の毒に思った恭介はマルクに慰めの言葉を送る。
「任せろ、俺はお前の分まで戦ってくる」
「恭介・・・」
「そりゃ、逆効果だろ」
ルーカスが頭を抱え、フラグラスは可笑しそうにそれを見守っていた。すると、
「終了」
エリックの試合が終了した。結果は、エリックの勝利。
「あいつやっぱり強いんだな」
「あいつは相手が強ければ強いほどその真価が出る能力だからな」
恭介の感心する声にルーカスは解説を入れる。
「お前ほどじゃないが、注意しとけ」
「注意?」
恭介の質問に彼はただ前を向くばかり。
「どうし」
言いかけた途端、後ろから背中を押された。
「ほら、出番!」
凛が後ろから彼を前へ押していく。
「分かった、分かったから」
彼はやれやれ、といった感じで前へと歩を自ら進めて行く。
「負けるなよ」
ルーカスが彼の耳元で囁く。
「え?」
「お前、少し鈍感すぎる。俺やマルクの気持ちにもなれ」
「どういうことだ?」
「こっちの望みを今日完全に断ち切ってくれ。ライバルとして、頼む」
「何かは分からんが、言われなくても全力は尽くす」
「それでいい」
そう言って彼は微笑み、去っていった。少し意味ありげな視線を送られたのは、一体何のだろうか、と彼はここで気持ちを切り替え前を見つめる。
有るのは、圧倒的な威圧感。ともすればそれだけで戦意を失いそうになる。
「つまらねえ戦いだけは、するなよ」
「ああ」
彼らは向き合い、試合開始の合図を待つ。そして、セイバーは全体の用意が整った事を確認して、試合開始を告げた。
「ギュールスキレッグ」
手加減は無用、と言わんばかりに彼は闘気を纏い、ランスロットに飛び掛る。
「ふん」
彼は自身の持つ大剣で彼を受け止め、元の場所まで体ごと吹き飛ばした。彼の身丈ほどもある大剣『ガタノトーア』、数千の敵の血を吸ってきた邪剣とも言われ、凶悪な能力を持っていた。
「ヒューリク」
着地と同時に、彼の後ろに瞬間移動し足を払う。が、既に彼は恭介の方に視線を向けていた。
「馬鹿な!」
「分かりやすい」
そのまま頭を蹴り飛ばされ、彼はそのまま地面にバウンドして、背中から落下する。
「ぐっ!」
「どうしたどうした!」
ランスロットが上空から彼の頭目がけて剣を振り降ろす。
「ちぃ!」
彼は何とか頭を捻り回避するものの、その剣の衝撃で地面が割れ、浮かび上がった彼の体をランスロットは無造作に掴み上空へと放りあげ、剣先を落下してくる彼の背中へと向けた。
「ヒューリク」
恭介はそこから離れ、両者は再び向かい合う。片や必死の形相で息も荒く、力の消耗が激しい。一方大剣を肩に担ぐ男は、余裕の表情で相手を見下ろしていた。
どうする、どうする・・・。恭介は頭の中で何度もこの先の展開を読もうとするが、自分が一方的にやられる図しか浮かんでこず、彼は密かに溜息をついた。
「ほらほら、かかってこないと練習にもなりゃしない」
「分かってる」
退屈そうに欠伸をするランスロットの隙を必死に探すがどこにも見当たらず、彼の焦りは最高潮に達し、
「ヒューリク」
ついに動いた。高難度のこの技を出せる回数はそう多くは無く、そろそろ限界が近づいていた。
「次は上か? 芸が無いな」
真上に現れた恭介を見て彼はゆっくりと剣を構えた。そして、
「アルテレイナ」
彼は腰を落とし、剣身と地面を平行にしてから、勢い良く振り回す。
「か、風?」
現れたのは竜巻。だが、ただの竜巻では無かった。
「終わりだ」
「ぐっ! 体が・・・」
恭介の体は竜巻に完全に飲み込まれ、全く身動きが取れない。それに加え少しづつ体が傷つけられ、意識が飛びそうになる。
「あの男はここから何とかしたが、お前じゃ無理か?」
「何!?」
ふと、エデフィとの戦闘中、ふいに現れた男の姿が目に浮かんだ。いつか勝つと宣言した自分。今、目の前にいるこの男と彼、どちらが強いかとか、弱いかとか。そんな事はどうでも良かった。彼はもう、無様な勝利も敗北も欲しくは無かった。
「ヒューリク」
突然、周りの景色がクリアになる。遠くで心配そうにしている凛の顔が見え、彼は苦笑する。やれやれ、そんな顔をしなくても。彼はランスロットの目前に、持っていた剣だけを移動させた。
「馬鹿な!?」
慌てて目の前の剣を避けた彼の目の前に、竜巻を掻い潜った恭介の拳が振り下ろされる。
「はああああ!」
渾身の力が込められたパンチは、彼に当たる数ミリ前で受け止められていた。
「惜しいな。だが、上出来だ。楽しかったぜ」
「まだまだあ!」
恭介はそこから更に力を込め、ランスロットを場外に押し出そうとする。が、逆にずるずると押し込まれ、彼はラインギリギリにまで押し込まれた。
「作戦を間違えたな」
「いや、作戦通りさ」
ランスロットが力を込めた瞬間、彼は巴投げの要領で彼を放り投げた。
「は?」
呆けた表情で飛んでいくランスロットに、恭介は親指を立てて、逆さまに降ろす。
「てっめえ!」
そのあまりの挑発にランスロットは激昂するが、もうどうしようもできなかった。
「俺がいつまでも一直線だと思ったら大間違いだ」
その言葉を聞いて、ランスロットは笑みを浮かべた。なるほど、成長しているらしい。そういえば、と彼は以前戦った時の事を思い出した。
「あいつは、あろうことか俺の竜巻に対抗してきたからな」
竜巻で捕らえたのは同じだったが、そこから彼は自身も竜巻を発生させ、竜巻に竜巻をぶつけてきたのだ。結果お互いが吹き飛ばされ、側にあった岩に偶然頭をぶつけた彼は気絶し、ランスロットは勝利を拾っていたのだ。
その事を思い出しながら、彼は潔く背中から地面へと落下した。
「終了」
その瞬間、セイバーが試合の終了を告げた。
「勝った・・・」
恭介は思わず自分の手を見つめた。何かは良く分からないが、充実感と、安堵。そして緊張感から開放された事により、恭介は自然と笑みを浮かべていた。
「やるな、正直感心したぜ」
「いや、俺は、その別に偶然で」
「何言ってんだ? 実力だ。誇っていいぜ」
差し出された手を恭介は強く握り返した。太く大きい、戦士の手。いつか、自分もこうなれたら、と彼は思った。
「恭介!」
後ろから凛が飛び込んできた。彼は前につんのめりそうになりながら何とかそれを受け止めた。
「勝ったぜ」
「うん」
そんな二人のやり取りを見守るマルク達を横切り、セイバーがこちらに歩み寄ってくる。
「上出来だ。よって桐林恭介を主席とする」
「あ、そうか」
彼はすっかり忘れていた。元より、そんな事は彼にとってはどうでもよかった。
「やるな」
「ルーカス」
いつのまにか彼は隣に立ち、肩を組んできた。
「流石だ。色々とこっちも勉強になった」
「そうか」
「本当に、期待に応えやがって」
「ちょ、痛い痛い」
首を締め付けてくる彼に恭介は悶絶しながらも、彼は一時の喜びに浸っていた。
そして、彼らは卒業式を迎え、それぞれがそれぞれの道に巣立って行った。




