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第二章 第一節 A SCHOOL LIFE

「あーあ」

 中庭の中にある大きな木で彼は一人横になっていた。人はまばらで、友人と雑談に興じる者、必死に次の試験に備え予習する者、彼のように一人でぼうっとする者等、様々な人間が思い思いの時間を過ごしていた。

「だりい」

 次の授業まではまだ間がある。今は昼休みで、彼は昼食も取らずにいた為、時々お腹がなる。

「腹減ったなあ」

 着ている服は最上級学年である事を示す緑色のネクタイ。紺のブレザーにズボン、そして革靴を履いている彼は、ここの学校の生徒だった。

「次は体育だっけか」

「そうだ、だからこんな所で油売ってないで早く教室に戻れ」

「うるさい、マルク」

 彼は横になりながら上から降ってきた声に答えた。

「そんなんだからお前はいつまで経っても成績が下の方をうろうろしてるんだ」

 彼はそんな彼の言葉に身じろぎひとつせず言葉を返す。

「お前みたいに糞真面目でもないんで」

「まったく、才能はあるのに」

「お世辞はいらん」

「お世辞じゃないって」

「全く、俺と付き合っててもいい事無いぜ」

 彼はそう言ってようやく声のする方を向いた。紅い短髪、勝気そうな目にひねくれていそうな口元、彼の名は桐林恭介。そして、

「そうか? 俺は結構楽しいけどな」

 そう切り替えしたのは先ほど呼ばれた通り、名前はマルク・シュターク。こちらは金髪に整った顔と気乗りのいい性格の持ち主であり、恭介とクラスメイトであり、相棒だった。

「やれやれ」

 恭介は立ち上がり、マルクと共に教室へと戻り始める。

「俺は体育嫌いなんだよな」

「何でだ? お前の数少ない得意科目だろ?」

「うるさい」

 恭介はマルクの頭を小突く。廊下を歩く途中、適当にぶらぶらしていると、後ろから声がかかった。

「まーた変なのが歩いてる」

「お前ほどじゃ無えよ、凛」

 凛、と呼ばれた少女は軽く胸を張って恭介に最悪の事実を告げる。

「今日の体育は内のクラスと合同授業だから」

「は?」

「つまり」

 恭介とマルクは一瞬にして頭を回転させ、ある事実に思いあたる。

「げっ!」

「ま、観念して大人しくしてたら? そうすれば少しは甘くなるかもね」

「そんなわけ無いだろう・・・」

 凛の慰めも今の恭介には何の意味も成さない。

「次は大変だなあ」

 マルクが軽く伸びをする。そろそろ次の授業の時間も近くなってきたため、彼らは教室に戻り、運動服に着替えて外に出た。

「いいか! これより持久走を行う。だらだら走らず皆真面目に走るように。距離は二十キロ、制限時間は―」

「あーあ、始まったよ・・・」

「黙って聞いてなさい」

退屈そうに欠伸をする恭介を凛がたしなめる。隣のクラスに在籍している彼女の名は神谷凛。彼らとは腐れ縁で、長く伸びた黒髪がトレードマークとなっている。

「しっ! 聞こえちゃうよ」

 マルクの言葉で彼は前を向き、生徒達の前で熱弁を振るう教師の言葉を聞き流す。運動場には他にも授業が行われており、所々で銃声や掛け声が響いた。

「あーあ、俺も実践訓練がしてえなあ」

そう言う彼に突然頭に何か衝撃がかかり彼は後ろへ一メートル程飛んでから体を地面に打ちつける。

「これも避けれないで実践訓練とは、まだまだ早いな」

「ぐっ」

前を見ると先ほどの教師が拳を握り、こちらにパンチを繰り出していた。どうして何メートルも離れている彼に届いたのか、それは彼の能力に由来する。

「出た、空気パンチ」

「威力がそのまま距離関係無く伝わるんだもんねえ、ありゃ痛い」

マルクと凛はそれぞれ彼に同情する。空気パンチ、をまともに受けた彼は頭を抱えながら立ち上がる。

「くそ」

「ほう、まだやるか?」

 再び構えた教師の姿を見て、彼は両腕を挙げた。

「いえ、結構です」

 辺りから笑い声が起こり、何事も無かったかのように授業は再開される。

「ちくしょー」

 恭介は時折愚痴を吐きながらグラウンドを走っていた。吹いてくる風に顔を顰めながら淡々と走る彼に並ぶ者がいた。

「おーお、頑張るねえ」

「うるせえ、エリック」

 エリック・ラ・クリウス。一年前にここに転入して来た男だ。性格は一言で言えば傲慢、とにかく人の弱点を見つけては楽しむ。恭介とは相容れない男だった。そもそも、と彼は思う。いきなりこの学校に入ってきて学校の中で大きな顔をするのはどう言う事だ。転入自体はよくある話だったが、エリックの場合は待遇が破格だった。

「では頑張れ、恭介君」

「さっさと行け」

 彼は手を振って彼を追い払う。こんな所で勝とうが負けようが彼にはどうでもいい事だった。と、横手から歓声が挙がる。どうせマリクがトップでゴールしたのだろう、という彼の予想は見事に外れる。

「セイバー様だ!」

「かっこいい!」

「憧れるなあ」

 彼が声に釣られて見ると、そこには金の髪を後ろでまとめ、銀の鎧で身を包み、代々伝わる宝剣を腰から提げた剣士がいた。その名を『セイバー』。ここ、LIGHTS養成学校の責任者であり、実際の任務を行う独立治安維持部隊の総司令官。目にするのはこれで三回目だったが、彼の目には他者とは違うものが浮かんでいた。

「いつか、必ず俺がそこに」

 そこに移るは羨望。要するに彼は負けず嫌いだった、例え相手が何であれ。そんな視線を知ってか知らずか、セイバーはそのままグラウンドの脇を通り抜け校舎へと向かう。後ろにはいつもの様に男と鎧がくっ付いている。

「ストーカーかよ」

「こら、ランスロット様とボルク様。強さは知ってるでしょ」

「そりゃ知っていますけど」

「まだまだ遠い存在よ、あんたからは」

「ふん」

 彼は横に並んだ凛を置いていくようにスピードを上げた。頭に浮かんできたのはつい先日発表された卒業試験の内容。

「三人一組でグループを組み、与えられた任務を達成せよ、か」

「大丈夫、三人なら」

 凛がこちらを元気付けるように言う。この試験に合格すれば晴れてLIGHTSに入隊、来年の春からは任務に当たる。もし不合格なら、もう一年ここで過ごすか、普通にこの世界で生きていく道を選ぶか。

「絶対合格してやる」

 彼は地面をより強く蹴り出した。


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