城内にて・2
「なんで、別れちゃったの? やっぱり、離れてたのが駄目だったの?」
ディアナの問いに、サラが笑う。
「スティル君とは、一年の時から付き合ってたの。入学式のときに、一目ぼれしたって言ってくれて。スティル君は結構情熱的だったから、私もすごく好きなんだと思ってた。だけど……」
「だけど?」
「今思えば、私の事を好きなところが好きだったんだよね。傍にいてくれるから、好きだった。……私、一人になるのがずっと怖かったんだぁ」
昔の事を思い出しているのか遠い目をしたサラは、視線を遠くからディアナの元に戻すと優雅と形容出来そうな笑みを浮かべた。
「だからスティル君が三年になって実習に出て離れるようになって、あれ? って思ったの。私は、彼の何が好きだったのかなぁって。でも、一人になる勇気はなくって、ずっとずるずる付き合ってた」
そのまま苦笑する。あれ? とディアナは違和感を感じる。サラは昔からずっと優しくて穏やかだった。それは逆に言えば表情が一定であったようにも思う。だけど今のサラは、ひどく表情が豊かだ。弱さも汚さも隠さなくなった彼女は、美しいだけの仮面をかぶっていた時よりも魅力的に見える。
「でも、目標を見つけたから。私、薬草を育てて、ディアナがしたみたいに薬草を治せる治療師になりたいの」
「サラ」
「それに、気になる人もいるしね。その人は、なんて言うか穏やかなようで実は流されない人で。その人の顔をまっすぐ見れるように、ちゃんと自分の足で立てるようになりたいから」
眩しそうに目を細めているのは、太陽の光のせいだけでは無いかも知れない。サラに変化につられるように、なぜかディアナまでドキドキしてくる。
「それは誰? 私の知ってる人?」
「内緒。それだけは教えられない」
「ええ? そんなぁ」
ディアナの不満の声に、サラが満面の笑みを浮かべた。
「ディアナたちは大丈夫じゃない? 寂しくても、ちゃんと信じあってるみたいにみえるけど」
「!」
一気に顔が赤くなる。ディアナは反射で顔を逸らした。女同士の腹の探り合いは圧倒的にサラが優勢だ。きっと、ディアナがずっと不安に思っていることもサラにはお見通しなのに違いない。
「本当に、そう思う?」
「うん。羨ましいよ。あんな風に大事にされてて」
「そうかぁ……」
同性からの太鼓判に、少し安堵する。大事にしてもらっている。それはディアナも肌で感じていて、だからこそ不満を口にするのは違うと分かっているのに。
「私って、欲張りだよねぇ」
ポツリと本音がこぼれてくる。
「長くたって10日に一度は会いに来てくれるのに、寂しいなんて。どうしようもないほど欲深だ」
「ディアナ」
寂しいなんて、ブレイドには絶対に言えない。今ここにいることを決めたのはディアナ自身だ。ブレイドは、旅に出るのを待っていてくれている。甘えは、ブレイドがしてくれている我慢がみんな台無しにしてしまう。
「ブレイドには、内緒ね」
優しく背中をさすってくれるサラに、ディアナは笑顔を作った。
やがて遠くの方からディアナを呼ぶ声が聞こえた。どうやらクレオ王子付きの召使のようだ。よく通る声が近づいてくる。
「ディアナさーん、そこですか? 王子殿下がお呼びです」
ディアナは目尻に浮かんだ涙を、袖で勢いよく拭いて顔をあげた。
「ごめん、サラ。行ってくる」
「うん。またあとでね」
サラはもう何も無かったかのように手を振ってディアナを送り出す。身近に気心知れた友人がいることはディアナにとって心強かった。




