サンド村・3
共同墓地は、村のはずれにあった。隣には、村で所有しているハーブ畑が広がっている。そこまで続く道を、ブレイドはディアナの手を引いて歩いていた。
両親の馴れ初めを聞いたことはなかったが、おそらく母親のセリカの方がこの村の出身なんだろう。なんとなく、この村にはセリカのルーツがあるようなそんな気がした。
墓地の中のひと際背の高い墓が、名もしれないまま死んだ旅人や旅に出て帰らなかった者たちを慰める慰霊塔のようだった。
「ここか」
「お花でも摘んでこれば良かったね」
ディアナが、墓石にそっと触れて言った。
「いや、いいだろ」
慰霊塔の前で、二人で並んで手を合わせた。少しむなしい気分で、ブレイドはその硬質の石塔を眺める。
一体、何があったと言うのだろう。こんな国のはずれの村で、名前も知られないまま小さな赤ん坊を残して死んでいくなんて。さぞかし無念だったに違いない。
ブレイドは、薄目を開けて隣にいるディアナを見詰めた。真剣な表情で、手を合わせて祈り続けている。
見ていると吸い込まれてしまいそうで、考えを振り払うように首を横に振った。
墓参りだけで余計詮索はしないと、アイクと約束してきていた。誰よりも愛情深く育ててくれた今の両親を悲しませるつもりはない。それはブレイドの本音だ。だけど、墓の前にいるとどうしても死んだ母親の事を考えてしまう。
振り切るようにブレイドは声をだした。
「……行こうぜ」
目を開けたディアナが不思議そうに見上げる。
「もういいの?」
「ああ、もういいんだ」
「またいつか、今度はお花持ってこようよ」
「ああ。そうだな」
気遣うように笑ったディアナの肩を抱いて、少し足早に共同墓地を出た。
ブレイドは、例えようのない不安が胸に湧き上がってきていた。このままここにいると、深い考えの底に沈んでしまいそうだ。両親が妙に心配していたのは、こういうことだったんだろうか。
ディアナと同じ栗色の髪だったという母親が、手招きしているような気がした。
*
ディアナは、ずっと神妙な顔をしているブレイドを横目で見ていた。実の母親の墓参りをするという事は、彼にとってどれほど重いことだったんだろう。口数も少なく、どことなく沈んだ様子なことがとても気になる。
「宿に戻る?」
ディアナとしては彼を気遣ったつもりだったが、ブレイドの方は意外そうな顔をしてみせた。
「なんで。まだいいだろ。夕暮れ時だぞ」
「だって、……なんだか沈んでない?」
「沈んでない。ちょっと歩こうぜ。久しぶりの二人きりなのに」
ブレイドが、拗ねたような声を出して肩を抱く手に力を込める。引き寄せられて頭がブレイドの肩に触れ、一瞬でディアナの頬が染まった。
サンド村は、農業が盛んな村のようで至るところに作物畑やハーブ畑が広がっている。歩いているだけで、いろんな香りがしてきて心が休まる。
「あそこに行ってみようぜ。ほら、見晴らしがよさそうじゃん」
少し高台になっているところに数本木が立ち並んでいた。
「ブレイドって、高いところ好きだよねぇ」
「……悪かったな。いいだろ、風が通って。多分気持ちいいぜ」
「別にけなしてる訳じゃないよ!」
二人は笑いながら、小高い丘を競争するように駆け上がった。
「うわー、綺麗」
高いところから見ると、ハーブ畑が黄色や紫色の縞模様を作っていた。風が、さっきのハーブのいい匂いを運んできてくれる。
「気持ちいいね」
「だな」
風に飛ばされる髪を押えながら、ブレイドの顔をそっと見ると、墓地にいたときよりはさっぱりした顔になっていた。安心してほほ笑むと、ブレイドが視線に気づいてディアナの方を向いた。
「なんだよ」
「ううん。なんでもないけど」
「こっち見てたじゃんか」
「少し、元気になったかなって思っただけだよ」
「……元気、なかったか?」
「そう見えたけど。気のせいだった?」
「……いや」
ブレイドが、腕を掴んで引き寄せた。あっという間に抱きしめられて驚く。しばらく四人旅だった反動か、今日はやたらにスキンシップが多い。
「そうかも」
伝わる温かい体温と鼓動。ブレイドの手が頬にふれて、顔が近づいてくる。呼吸が頬に触れるほど近くまで来て、ディアナはゆっくりと目を閉じた。
「あー、チューしてる!!」
静寂をぶち壊す甲高い声。慌てて体を離して周りを見ると、金髪の少年が、こっちを指さしている。
「レオ? どこに行ったんだ? レオー」
遠くから、聞き覚えのある声が響く。
ディアナは目を見張った。金髪の少年を追いかけてくるのは、まぎれもない自分の父親だ。と言う事は、この子が依頼主の子供なんだろうか?
「あれ、……おじさん?」
ブレイドが、デルタに気を取られた瞬間に、ディアナは少年の胸倉をつかみ上げた。
「ちょっとあんた! さっきの、あのおじさんに言ったら、ただじゃ済まないわよ」
「さっきのって、チューしてたこと?」
少年は悪びれもせずに言う。
「まだしてないわよ!」
ディアナの手に力がこもって、少年は危険を感じたのか慌てて頷いた。
「え? ブレイドくんに、……ディアナ」
デルタは驚いた顔で口を開いた。
「とう、……ええと、で、デルタさん」
旅先で会っても家族とはばらすな、と言われていたからなんとか名前で呼んだけれども、その違和感に背中のあたりがむず痒くなる。
「ディアナ?」
事情を知らないブレイドの方は怪訝そうな顔を見せる。
「説明は後でするから、もう、行こう? どうぞ、ごゆっくり」
なんとかごまかして、逃げるようにその場を後にした。




