幼馴染・3
講義棟の間にある鍛冶場では、金属を打ちつける音とともにものすごい熱風が吹いてくる。
この時期、3学年のほとんどの人は、パーティを組んで冒険実習に出ている。学園に残っているのは、鍛冶屋クラスや武器屋クラスなど施設を運営することを目指している生徒だけだ。
「ルタ先輩、いますか?」
ディアナが、熱風に押されながらも室内を覗き込むと、中にいる生徒たちの視線が一斉に向かってくる。
「お、女の子だぜ? 誰に用事だ?」
「ルタ先輩、お願いします」
「おーい、ルタ。女の子がきてるぞ」
呼ばれてすぐに奥の方から、ルタが汗だくでやってきた。
「やあ、ディアナ。剣できてるよ」
ルタは、笑いながら剣を差し出す。そして、後ろにいるブレイドに気づいて小さく苦笑した。
「きょうは、彼氏も一緒?」
「え、あ。……えっと、ありがとうございました」
柄から抜いてみると、輝きから違って見える。これをタダでやってもらえるのはラッキーだ。思わず顔もニンマリしてしまう。
ブレイドも、不機嫌そうな顔はしているもののその出来栄えには頷いているようだ。
「ところで、頼みがあるって言ったじゃん。あれさ、実は……」
ルタが言いだしたところで、ブレイドが腕を組む。その威圧感と言ったら例えようがない。まだ疑っているんだろうか。そんな訳ないと首を振るも、ディアナの方も無駄に意識してしまう。
けれども、ルタはあっけらかんと笑って言った。
「デルタさんに会わせてほしいんだよな。俺さぁ、実はずっと前から君のお父さんのファンで」
「はぁ」
身構えていたのに、全然見当の違う話をされて思わず顔が赤くなった。ブレイドも同じなのか、横を向いて咳ばらいをしている。
「あ、はいはい。いいですよ! そっか、だから、去年の大会も見にきてたんですね」
「そう、あの人カッコイイよなぁ。俺、いつかデルタさんの剣を研がせてもらうのが夢なんだ!」
「あはは。……いつでも来てください。なんなら、いつも稽古してる道場にでも」
「じゃあ、明日とかどうかな」
「はい。じゃあ、明日一緒に帰りましょう。えっと、放課後校門前で待ち合わせしましょうか」
「……先輩、俺も行っていい?」
ブレイドが、ここは譲らないとばかりに前にでる。
「もちろん。心配だろうからね、君も」
余裕の笑顔を見せるルタ先輩に見送られて、二人で鍛冶場をでた。
もう話も聞こえないくらい遠くまで歩いてから、ディアナが赤い顔で話しだした。
「もう、ブレイドが昨日変なこと言うから、身構えちゃったよ」
「だって、普通はそう思うだろ?」
「そんなことないって。私なんて、男っぽいし、そんな心配いらないの!」
「またそんなこと言いやがる」
「だから、ロックもきっと……」
ロックも、兄弟みたいに思ってるはずだ。
「……ディアナ」
ブレイドが、ディアナの腕を掴んだ。
「なに?」
「もし、ロックがもう一緒にいたくないって言ったら、……どうする?」
「え?」
ディアナの顔が一瞬で曇る。
「ほらちょっと気を使うだろ、普通。俺達、付き合ってるわけじゃん」
その言葉に、今度はまた真っ赤になる。
「そうか。……そうだけど。……そっか」
ディアナの心中は複雑だ。ブレイドと一緒にいたい。だけど、ロックはもう家族みたいなものだ。今さら、傍にいなくなることなんて考えてもみなかった。だけど、本人がもしいたくないと言えば、止める権利はない。
「……その時は、仕方ないよね」
「……」
だけど、なんだか心細い。こんな気持ちになったの初めてだ。いつもの、お腹から出てくるような力が出てこない。
ディアナが顔をあげると、ブレイドが見ていた。少し、困ったような顔で。
「……わかった。それも含めて、俺に任せとけ」
「どうするの?」
「話をするだけだよ。決めるのはロックだ。ほれ、帰るぞ」
強い力で背中をたたかれて、少しだけ元気が出てきた。
当たり前のように、ブレイドは家まで送ってくれる。その女の子的扱いが気恥しくて仕方ない。
「ねぇ。本当に送ってくれなくても平気よ。誰かに狙われたって剣で倒せるし、怪我したって自分で治せるんだから」
「そんなことわかってるよ。俺だって、用事のある時はしない」
「でも大変でしょ? こっから家帰ると遅くなるし」
「別に。お前と、……居たいだけだし」
「……」
真っ赤なったディアナにの額に、ブレイドは軽く触れて手を振った。
「じゃーな」
ブレイドが走っていく。嬉しいような、恥ずかしいような変な気分でその姿を見送る。ブレイドには絶対言えない。小さくなっていく背中を見ているのが寂しいだなんて。




