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黒の英雄と風の龍  作者: 坂野真夢
第二章
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放課後の教室・2


 授業が終わって、ディアナはまずロックの教室に行った。遅くなることを伝えておかないといけない。教室を覗くと、見知った顔が何人かはいるが、ロックの姿はなかった。


「ねぇ。ロックみなかった?」

「あ、なんか、ちょっと用事が出来たから、ディアナが来たら先帰っててって言ってたよ」

「そうなんだ。……ちょうど良かった」


 これで、ロックの事は気にしなくてもいい訳だ。


「ねぇ。ディアナ、今日かわいいね」


 去年同じクラスだった女の子が話しかけてくる。その指先は、サラが結ってくれた髪を差していた。


「え、あ、う、友達が、やってくれて」

「ディアナもそんな風にしてたら女の子だねー」

「元から女よ。じゃあね!」


 せっかくの褒め言葉も、気恥かしくて素直になれない。言われ慣れない言葉はディアナをどんどん委縮させていく。逃げるように、ロックの教室を後にした。



 120番教室は、今いる講義棟をでて別館の方にある。一度外にでて渡り廊下を渡っていくところで、後ろから呼びとめられた。


「ディアナ!」

「え? ……ルタ先輩」


 ルタは、いつもとは違う鍛冶作業着を着ていた。講義棟と別館の間には鍛冶場がある。きっとそこに行くところなのだろう。


「ちょうどいい所であった。俺今から鍛冶場に行くから、今日剣あずからせてよ。明日まで仕上げといてやるよ」

「本当ですか? 助かります」

「いいよ。その代り、後でちょっと頼みがあるんだけどさ」

「はあ」


 脇にさしていた剣を、ルタに渡す。ルタはディアナの髪を見て笑った。


「なんだ? 今日はめかしこんでるんじゃん。さては、デートかなんかか」

「ち、違いますよ!」

「はは。案外かわいいんだな。スティルとの試合で初めて見た時は、全然そんな感じ無かったのに」

「去年の試合のことですか?」

「ああ、俺、見学に行ってたんだよ」

「へぇ」


 あんな時から知られていたとは知らなかった。ついこの間彼の存在を認識したばかりのディアナはそう思った。


「先輩は、このカッコ、変だと思いません?」

「そんなことないぜ。まあ、いつものディアナには見えないけど、かわいいじゃん」

「……」

「……どうした?」

「いえ、剣、明日取りにきます。よろしくお願いしますね」

「おう」


 剣を渡し、ルタと別れる。別館に入るとすぐに、近くにあった手洗い場に入り、結ってある髪をほどいた。


 やっぱり違う。確かに、かわいいと思う。けれど、これでは偽者のディアナのようだ。おしゃれをしてそれが自信になるんならいいけど、今のディアナにとってはそうじゃない。


 ブレイドに見せたいのは、こんな自分じゃないはずだ。恥ずかしくて背中を丸めてるんじゃなくて、自信をもって前をむいてる自分をみせたい。


 ほどいた三つ編みの部分の髪がうねっている。水をつけて手でのばせば、いつものディアナの姿が鏡に映った。


「サラ、ごめん。でもやっぱり」


 これが自分だ。そう思って、ディアナはようやくすっきりした気分になる。濡れた手で頬を叩いて、ディアナは120番教室へ向かった。



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