放課後の教室・1
昼休み、昼食を終えたディアナは陽気にも手伝われ、教室の机に突っ伏してうたたねをしていた。ゆったりとたゆたう意識が戻されたのはブレイドの声でだ。
「おーい、ディアナ」
「え? にゃに?」
半分寝ていたから口が回らなかった。あ、と思った時には遅し。恥ずかしさに顔を押さえて扉の所まで行くと、ブレイドがお腹を抱えて笑っていた。
「ぶははははは。にゃに、だって。お前、寝ぼけてんじゃん」
「もう、うるさいな。なによ。また怪我でもしたの?」
ディアナは赤くなって廊下にブレイドを押しだした。なにせ、聞いてないようでいて耳を大きくしている女の子たちがここには大勢いる。
「ちがう。今日は怪我じゃない」
「じゃあ、何? やっぱり昨日おじいちゃんとなんかあったの?」
昨日、バジルとの手合わせから戻ってきたブレイドは、一家と夕食を共にしてから帰った。その間、仏頂面のバジルを横目にデルタとブレイドは談笑していて、それなりに和やかな雰囲気だった。なのに、ブレイドはディアナと目が合うと、何故かすぐに視線をそらしたのだ。自分が何かした覚えのないディアナは、ショックで昨晩よく眠れなかった。
「それも、違う」
ブレイドのその声に、ディアナは我に返って顔をあげる。すると、いつの間にかブレイドとの距離が近い。彼の手が壁に押し付けられてて、ディアナは壁とブレイドに挟まれるような状態になっていた。
そして彼は、昨日とは打って変わってディアナをじっと見ている。恥ずかしさから、今日はディアナの方が先にそらしてしまった。この空気は気まずい。ロックでも誰でも良いから間に入って欲しい。切実に願っているとブレイドの声が降ってくる。
「放課後」
「え? なになに?」
やっと出てきた言葉に、助けを求めるように食いついた。
「話があるから、120番教室で待ってる」
「話?」
「絶対来いよ」
それだけ言うと、ブレイドはディアナを解放し走り出した。勢いが凄すぎたのか、曲がり角のところで教師とぶつかりそうになる。
「こら、廊下は走るな!」
ブレイドが叱られる声を聞きながら、ディアナは足がガクガクするのを感じた。顔も熱い。何なのさっきの至近距離は。
「話って、……何?」
真っ赤になったまま、ディアナはその場からしばらく動けずにいた。
「きーいちゃった」
背後からの楽しげな声に、ボーっと呆けていたディアナは、びくりと体を震わす。ひょっこりとサラが扉の向こうから現れた。
「サラ」
「良かったね」
「何が?」
「わかってないならいいよう。ねぇ、ディアナ、髪の毛いじってあげるよ。こっちにきて」
訳のわからないディアナの手を引っ張って、サラは近くの席にディアナを座らせた。サラが鼻歌を歌いながら、器用にサイドの髪を編みこんでいく。その間中、ディアナは先ほどのブレイドの言葉が頭から抜けずに、何度も繰り返し思いだしていた。
「ディアナの髪ってすごくきれいよ。ほら、こうしたらもっとかわいくなる」
「かわいいなんて恥ずかしいよ」
「どうして?」
「どうしてって、似合わないでしょ」
「なんで? 似合わないことないよ。ディアナ、もっと自信もったらいいのに」
サラが編んでくれた髪は、両脇に二つの三つ編みをつくって、さらに後ろで一つに結んでと、とにかくディアナには絶対にできなさそうなものだった。鏡で見ると柄にもなく女の子らしく見える。嬉しい反面それが恥ずかしかった。
自分じゃなくなるような感覚と、自分で結える訳でもないのにという卑下。いろいろなものがディアナの心を縛り付ける。
「可愛いディアナでブレイドくんに会ってくれば?」
にっこり笑うサラは、先ほどの会話を立ち聞きしていたのだろう。サラの気持ちは嬉しい。だけど、これは逆に恥ずかしすぎて身が縮こまるような感じがした。
それでもサラの気持ちを台無しにはしたくない。結局髪を結ってもらった状態のままで、放課後を迎えることとなった。




