その4
「ねぇ、ふみ、ふみ」
「なにさ」
帰り道に寄ったスーパーで、バナナをカゴに入れた後、店内を何となく回っていた時、お菓子コーナーの所でつぐみは立ち止まり、しゃがんで何かを手に取った
「チョコボール」
「ふーん」
「買う?」
「買わないよ!」
「でも新作。バナナ味だって」
「つぐみは本当にバナナ好きだな」
「まぁまぁ。買う?」
「だから買わないって! 人の話聞いてる!?」
「あんまり」
「聞けよ!」
あ〜イライラする!
「……じゃあ諦める」
つぐみはジトーっと俺を睨んで、仕方なさそうにチョコボールを箱に戻した
「こんな事で拗るなよ」
金無いのかコイツ
「つぐみ、小遣いは?」
「先週、めぐみに盗られた。無駄遣いが酷いって」
「お前は小学生か……」
将来が心配になるよ
「……はぁ。つぐみ、カゴ持って」
「うん」
「後、キャベツとニンジンとモヤシをカゴに入れて来て」
「命令?」
「違う。お願い」
「らじゃ」
つぐみは素直に野菜売り場の方へ行く
「……報酬だからな」
俺はチョコボールを手に取って、つぐみが戻って来るのを待った
※
ポリポリ、ポリポリ
「…………」
ポリポリ、ポリポリ
「うまい?」
「まぁまぁ。一個いる?」
家に帰りつぐみは、よっぽど気になっていたのか直ぐにチョコボールを食べ始めた。無表情だが、喜んでる気がしない事もない
「いらないよ。夕食に負担掛からない程度にしろよ」
「ご飯はべつばら」
「逆だろそれ」
いつものように不毛な会話をし、いつものようにつぐみと居間でボケーっとする。子供の頃から全く変わらない
「……宿題しないとな」
どうせ後でめぐみが泣き付いてくるんだから、居ない内に自分の分はさっさと終わらせてしまおう
「つぐみは今日、宿題あるのか?」
「うん。でも学校で終わらせた」
「流石だな」
俺がクラストップレベルなら、つぐみは県内トップレベルの成績を持つ。なのに何故普段はボケているのだろうか
「ふみ」
「ん?」
「あたり」
「はい?」
「ほら」
そう言って、つぐみは空になったチョコボールの箱を俺に渡す。そのクチバシ部分を見てみると
「……金? す、すげぇなつぐみ!」
始めて見た!
「ふみのお陰。ありがとう」
そう言って、つぐみはふわっと微笑む。柔らかくて、透明で。相変わらず反則に近い笑顔だよ
「……めぐみはまだ遅いのかな」
顔を逸らし、照れ隠しに聞いてみると、ちょうど玄関から声が響いた
「ただいまー」
「お、帰って来たみたいだな。お疲れー」
「お疲れー」
これで、ようやく夕食だな。タケノコご飯、楽しみだ