表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
7/7

ひとりぼっちの夜

 お家に戻ったら、まずはお師さまの残した課題に目を通します。課題は早くやるに越した事はありませんからね!

 お師さまから預かった課題の書かれた紙は三つ。小さく折り畳まれたそれぞれの紙には1、2、3と数字が書かれていました。

 1から順に、課題を済ませたら次に進むように言われていますので、早速『1』と書かれた紙を開いてみましょう。


「さてと、第一の課題は…低級傷薬と活生薬…あとは薬効包帯かぁ。あれ面倒臭いんだよなぁ…」


 低級傷薬に関しては基礎の基礎ですので楽に出来ますし、活生薬も傷薬よりは難しいですが、問題は無いでしょう。一番難しいのは薬効包帯ですね。

 薬効包帯…簡単に言えば、患部の鎮痛作用と自己再生力を高める包帯です。通常の包帯よりも整えられた環境で保存しなければならず、使用期限もある少し扱いの難しい包帯ですね。

 錬金術的な問題点は、特殊な包帯に数種類の薬品を適切な順序で染み込ませなければならないので、かなり手間が掛かる点でしょうか。


 しかし、お師さまが薬効包帯を課題にした理由も分かります。複数の薬品の錬金に、他物質に対する薬品の浸透…錬金術の基礎を安全に学べる代表格ですからね。はっきり言ってしまえば、想定内って奴です。


「とりあえず、簡単なお薬をパパッと終わらせちゃいましょうかね」


 早速錬金に取り掛かるべく、設備を整えて材料を集めましょう。まずは低級傷薬の原液を作りますかね…とは言え、ついこの間も作ったお薬ですし、特筆する箇所もないので省略でいいでしょう。次の活生薬の錬金に移ります。


 活生薬とは、自然治癒力を向上させるお薬です。…以上です。それ以外の何物でもありません。

 まあ、その説明だけでは味気ないので、軽く特筆すべき点を挙げるとするなら…外傷だけでなく、病気や毒に対しても一定の効果があり、何かしら体調がおかしかったらとりあえずこれを使えば良い、的なお薬になります。

 実際は一部の症状に使うと逆効果だったりするのですが…その手の症状となると、専門治療が必要になる事が殆どなので、一般の方は気にする必要が無いですね。ある意味で万能なお薬ではあります。


 ついでの小噺として、このお薬には上位の【超活生薬】と呼ばれる物が存在します。これの効果は『長時間持続する再生薬』みたいな物で、効果中は腕や足が吹っ飛んでも凄まじい勢いで再生します。

 もちろん、そんな劇薬を使えば身体にはとんでもない負荷がかかります。お師さまが言うには「適切な訓練や準備抜きに使えば、寿命が縮むどころかその場でショック死しかねないね」との事です。お、恐ろしい…。

 こちらの薬品に関しては、病院ではなく騎士団などが利用する軍需品に分類されます。治療に使うには負担が大きすぎますし、そもそも大抵の怪我は再生薬でどうにかなるので使い道が無いんですよね。

 超活生薬は対症療法的な使い方ではなく、大きな怪我をする可能性のある戦闘の前に服用する予防療法的な使い方をするお薬です。だから軍需品なんですね。


 ここいらで閑話休題、活生薬の錬金についての話に戻りましょう。

 活生薬の調合はそう難しい物でもありません。人の自己治癒力を自然な範囲で最大限強化するお薬ですが、薬草だけで作れる程度の物ですね。

 流石に低級傷薬よりは繊細なお薬ではありますが、私の腕でも安定して作れるお薬です。最初の課題としては丁度良い難易度ですね。


 という訳で、下処理を済ませた材料がこちらになります。あとはそれぞれ専用の器具に入れて抽出をすれば完成です。

 …そうです。私程度の腕前だと、どの錬金も絵面が変わり映えしないんですよ。殆どのお薬が『器具に材料を入れて抽出&混合』です。

 一応やってる身としては、はっきりと分かる程度には難易度が上がっているのですが…こう、直感的と言うか、感覚的な部分のお話なので、絵面が変わらない事には変わりありません。


「ふんふんふ〜ん…」


 鼻歌を歌って調合をしている私のキュートな後ろ姿も文字には起こせませんし…どうしましょうかね、コレ。私の腕前がもっと高くて、鉱石やら生物由来の素材やらを使えるようになれば、もうちょっと動きが出るんですけどねぇ。

 う〜ん、こうなったら…無慈悲な描写省略(カット)!さっさと薬効包帯の作成に移りましょう!


 という訳で、作成に必要な薬品を用意して専用の包帯巻き機にセットします。

 専用の包帯巻き機は、薬品の浸透調整に集中出来るように巻き取り機構が足踏みで動作するようにになっています。そこに薬品を浸透させる為の機械もくっついて…何かと場所を取る、大型の機械です。

 カタンカタン、カラカラと巻き機を動かしながら薬品を包帯に浸透させていきます。

 この時の注意点は『染み込ませる薬品の順序』と『包帯の向き』です。特殊な包帯なので、裏表を間違えちゃいけません。決して、間違えては、いけないのです。


「げぇっ!表裏間違えた!えっと、こういう時は…精製水と専用薬剤で包帯を洗浄して作り直し…あ゛あ゛あ゛〜!」


 なぜならこうなるからですね。

 使った薬品は、私の持つ技術では何をどうしても戻ってこないので再び作らなければいけませんし、新たに洗浄用の薬品を作る手間まで発生してしまいました。こんな所で躓いているからまだまだひよっこなんですよ、私は…!


「うう…なんで私はこんな初歩的なミスを……」


 カスみたいなミスによって馬鹿みたいな手間を増やしてしまったショックで、膝から崩れ落ちてしまいました。

 失敗した原因は気の緩みでしょう。低級傷薬と活生薬は難なく調合できましたし、薬効包帯に使う三種の薬品も問題なく作る事が出来ましたからね。つまり、『チョーシに乗ってた』ってヤツです。

 こんな醜態、お師さまに見られたら…お師さまはさほど口煩く言わないでしょうが、私の精神が持ちません。


 とにかく落ち込んでいる暇があるなら、さっさとお薬を作って軌道を修正するべきでしょう。

 今から作るのは、包帯に染み込ませる薬品を安定化させて長持ちするように出来る『浸透媒介液』と、包帯を洗浄する為の薬品です。

 まずは洗浄液からですね。一度染み付いてしまった薬品を落とすための薬品です。これで洗ってから、また精製水で洗浄して乾かさないといけません。


「ええっと、まずは洗浄液の材料と…ああ、追加の精製水を作らなきゃ……チキショー!」


 皆さまご存知の通り、錬金術で作るお薬の殆どは精製水を使います。それは洗浄液も変わりありません。

 そして私は大釜による大量生産が出来ないので、小さなお鍋で少しずつちまちまと作るしか無いのです。思わず悪態が零れる程度には、たった一つのミスで馬鹿みたいに手間が増えてます。


 しかし、いくら悪態を吐いた所で精製水が湧き出てくれる訳ではありません。そんなことを言っている暇があるのなら手を動かして精製水を作るべきでしょう。


「純化石、よ〜し…いや、これはそろそろ清掃した方が良さそうですね。まあ今回くらいは保つでしょう」


 温めた水に数個入れておくだけで、水から不純物を取り除いてくれる便利な純化石ですが、何度も使えば純化石の純度が低くなって、精製時間も長くなってしまいます。

 純化石の清掃はとっても時間がかかるので一先ず後回しにして、今必要な量の精製水を作っちゃいましょう。


 何時ものように水を張った鍋にぽいぽいっと純化石を入れて、火をかけてしばらく待てば…いつも通りの精製水が完成しました。このまま必要な量を確保したら、続けて必要な薬品も作っちゃいましょう。


「ふんふんふ〜ん…いい加減お鍋をかき混ぜるのも飽きてきましたね…」


 課題は早めに済ませるべきとは言いましたが…かれこれ六時間近く鍋をかき混ぜる作業に従事しています。いくら錬金術が好きな私でも飽きが来る時間ですよ。

 それに時計を見れば時刻は既に昼過ぎ。私も空腹を感じましたし、切りのいい所で遅めの昼休憩としましょう。


 ちゃちゃっと包帯の洗浄を済ませて、包帯の乾燥を待っている間にお昼ご飯を済ませてしまいましょう。

 ご飯は雑に山菜と肉を炒めた物と、オニオンスープにパンとチーズです。凝った料理も作れなくは無いですが、今は元気が足りません。


 もそもそと一人で食事を進めていくうちに、だんだんと寂しくなって来ました。

 いつもならお師さまが同じ食卓に着いてお話をしてくれますし、お師さまが昼時に家を空ける事も滅多にありませんでした。前に昼食を一人で食べたのは何時だったのかも思い出せないくらいには久しぶりです。


「…これが、三ヶ月ですか」


 マズイですね…ちょっと泣きそうになってきました。寂しさってここまでキツい物なんですか!?私って想定外に寂しがり屋だったんですね知りたくなかったこんな事!


「ゔぅ…」


 ずびっと鼻水を啜ります。視界は滲んでますが、まだ涙は出てきてないのでセーフです!何がかは分かりませんがセーフなんです!

 ともかく、今日はもう色々ダメそうなので薬効包帯はまた明日にしましょう!お師さまも「無理はしない事」と常日頃から言ってますからね!

 お風呂入って歯を磨いて寝ます!おやすみなさい!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ