嘉都(かと)1
扶桑国の都である嘉都は島の中央に位置する。
郊外を海に繋がる河が流れ、都の中にはそこから引いた支流が運河として使われている。
嘉都の北側には帝がおわす宮城があり、宮城の周囲を華族たちの屋敷が埋め、その外側に民間の住居や商業施設の区域がある。
「……すごいですね」
澪は駅から出たとたん、目を丸くした。
駅の前の広場には、多くの人が行きかっている。まるで鴨の仔がひしめきあっているようだ。
「駅の周りは人が多いからな」
煌貴は、慣れているのか驚きもしない。
「そうなのですね。機関車には初めて乗りましたけれど、とても速いし、たくさんの乗客がいて、本当に驚きました」
澪は駅舎を振り返った。
「機関車が玄安の当主の屋敷の近くまで走ればいいのですが」
実は、澪たちが住んでいたのは玄安の中心・洛都からは離れていたところだった。
廟を守るために代々当主の屋敷はあの土地に建てられ、商業の中心は一山超えた洛都なのである。機関車は洛都までは走っているのであった。
「当主の屋敷に行くのは、なかなか大変だったからな」
「洛都に向かうときに実感しました」
煌貴の馬に同乗させてもらったが、煌貴ひとりのときよりも、よけいに時間がかかっただろう。
「澪は洛都に出たことがなかったのか?」
「はい――」
ふたりの会話を遮る大きな音が鳴った。
一台の乗用車がブーブーとクラクションを響かせながら近づいてくる。
車体は銀色で、屋根の部分が黒く塗られたシックな雰囲気の乗用車だ。
助手席で、白燕が得意げに手を振っていた。
「帝がお迎えを出してくださいましたよ、煌貴さま!」
「……あいつ」
煌貴は顔半分を手で隠し、低くうめく。
「……あんなに大きな声で帝のことをお話して大丈夫なのでしょうか」
「ダメにきまっている」
人々が波のように乗用車を避ける。
白燕を乗せた乗用車は悠々と澪たちのそばに停まった。




