第三話 不運の訪れ
退院してから1週間が過ぎようやく平穏な日常を取り戻した俺はやっと落ち着いた日曜日を過ごすことが出来た。
「……そう言えば母さん、今日は仕事なんだっけ?」
ちなみに母は珍しく仕事が入ったということで出勤するらしい。
「そうなのよ、まぁいつもの時間には帰ってくるわ?」
「ふーん分かったよ」
そして朝食を作り終えて食卓に並べるとあっという間に母は平らげてしまった。そして何だかんだしているうちに母さんは仕事へと出かけていき、俺は真由里を起こすことにした。
コンコンと部屋をノックして返事を待つも返って来ない。どうやらまだ起きていないみたいだからドアを開けて中に入る。ベッドに目を向けると案の定、真由里が気持ちよさそうな顔をして眠っていた。
「おーい、起きろー」
肩に手をかけて揺さぶるも一向に目覚める気配がない。
「……どんだけ眠りが深いんだ……」
時計を見ると時間は既に8時を回っている。あんまり遅く起きてこられると朝ごはんと昼ごはんが中途半端になってしまうので起きて欲しいところではあるが……
「……起きないといたずらするぞー?」
手始めに頬をむにむにと摘み刺激を与えてみるも反応がない。
「…………いいや」
諦めて部屋を出ようとすると真由里が突然ガバッと身を起こした。
「うわぁお!?びっくりするわ!」
「お兄ちゃんは据え膳って言葉知らないの?」
「はぁ?知ってるが……今関係あるか?」
「……ううんなんでもないや」
何故か真由里がやれやれと言った雰囲気で肩をすくめるとベッドから降りる。
「早めに降りてきてくれよ」
「お兄ちゃん、かわいい妹の生着替え見なくていいの?」
「うるせぇよ!?」
とにかく部屋を出て朝食を温めなおしていると普段着に着替えた真由里が降りてきた。
「わートーストだー」
「あとは好きなように食べてくれ」
そして俺は自分の分の紅茶をいれてゆっくりと味わう。
「あ、そう言えばお兄ちゃん……明日からの体育聞いた?」
「ん?何かあるのか?」
「なんでも……かなりハードにするから心の準備をしておけってー
」
「……それはお前のところの学年だけじゃ……?」
「真司さんが言ってた」
あれ、その日のホームルームは普通に出てたはずなのだが……聞きそびれたか?
「まぁいいや、ありがとな」
そう言いながら新聞を開きニュースをチェックする。どうやら、この前の事件がまだ報道されているらしい。
「ふーんまだその事件話題になってるんだ」
「……真由里、何故そんな近づく……」
後ろからのぞき込む真由里との距離がやたら近く困惑する。それを知ってか知らずか余計に距離を詰めようとするがそれを防ぐために新聞を閉じ椅子から立ちあがる。
「ええーお兄ちゃん、可愛い妹に構ってよー」
「自分で可愛いとか言うな」
台所にたちながら飲み干した紅茶をもう一杯用意してリビングに戻る。
「それにしたって実行組織も割れてるんだし、もうそろそろ首謀者も捕まったんだろ?」
「んーそれがそうでも無いみたいで、未だ逃亡中らしいよ?」
「それは穏やかじゃないな」
ここまで捕まらないとなると何らかの力が働いているとも考えられる。
「まぁいい、それよりも俺はこれから少し出かけてくる」
「んーじゃあ私も行く」
「……俺に構いたいだけだろ?」
「てへっ」
俺はため息をつき仕方なく真由里を連れていくことにした。
□□□□□□
「それで、お兄ちゃんの予定って?」
「ちょっとした買い物だよ」
俺はこの前事件が起きたショッピングモールの前に来ていた。大規模な爆発に巻き込まれた店舗などはまだ復旧していないがほかの店は営業を再開していた。
「ふーん?ま、私はお兄ちゃんと一緒に居れればそれでいいんだけどね!」
「…………」
ベッタリとしてくる真由里に俺は何度目か分からないため息をついた。このままではそのうち偏頭痛でも出てきそうだ。そんなことを思いながら目的の店を探す。
しばらくすると目当ての店を見つけた。やはり、日曜日ということもあって少し並んでいるが問題は無いだろう。
「へぇーお兄ちゃんがアクセサリー買うなんて意外ー」
「そうか?俺もたまにはオシャレをしたいんだよ」
来たのはなんでもない、ネックレスを売っている店だ。値段もリーズナブルで男女兼用のものも取り扱っている。その店に入り何かいいものがないかを物色する。真由里もそういうものに憧れるのか、無言で物色していた。
「あっ!これいいかも!」
そんな真由里が声を出して俺の袖を引っ張る。真由里の選んだネックレスに目を向けると確かにデザインは可愛いがさすがに値段が高かった。
「なかなかにいいが、値段がな」
「まぁお金を貯めて買うか、それとも誕生日プレゼントでねだっちゃおうかな?」
「それをするなら俺じゃなくて父さんか母さんに言ってくれよ?」
少なくとも高校生が払える額ではないから期待されても無駄だ。そして俺は自分で選んだネックレスを手に取る。こっちはそれなりの値段で結構デザインが気に入った。
「カッコイイとは思うけど……ちょっと痛くない?」
「誰が厨二病か」
「そこまで言ってないよ!?」
そんな掛け合いをしながら列に並び会計を済ませると早速開封して首にかける。
「意外にしっくり来ててちょっと悔しい」
「素直に褒めてくれると嬉しいんだがな」
時々この妹が何を考えているのか分からないが、少なくても嫌われてはいないだろうと期待はする。そして、ショッピングモールから出ようとしたところでたまたま雅人と遭遇した。
「よっ、こんな所で会うなんて珍しいな」
「真司の方こそどうしたんだ?」
「なに、ちょっとした買い物だよ。そういうお前は?」
「俺は既に買い物を終えたあとだ」
「なるほどなーそれに真由里ちゃんも元気なようで」
「いえいえ、真司さんの方もお元気ですね?」
そんななんの他愛も無い会話をしていると後ろから来た人に肩をぶつけられて押しのけられた。
「すみません」
「…………」
ぶつかってきた男は何も言わずにそそくさとその場を立ち去って行った。
「何あの人、ぶつかっておいて……」
「さぁな?それよりも……真由里、お前カバンの中確かめてみろ」
「えっ、かばん……?」
真由里は慌ててカバンをひっくり返すとその中には買った覚えのない時計が紛れ込んでいた。パッと見でそこそこ高そうなのではある。
「これって……」
「ああ、はめられたみたいだ」
目を向けると2階から店員と警備員らしい人が降りてくるのが見えた。真由里が持っている時計を無理やり奪ったところで警備員に呼び止められた。
「……やれやれ」
俺は大人しく警備員の命令に従うのだった。