第二話 目覚め
きっかけは些細なことだった。それはただの嫌な予感がしたにすぎなかったのだが、その判断は間違っていなかった。
「ちょ!お、お兄ちゃん!?」
俺は真由里の手を引き店の前から離れる。突然のことに声をあげる真由里だが事情を説明せずに俺は店からある程度離れたところまで行きそこで手を離した。
「い、いきなりどうしたの!?」
「……理由は分からんが危ない予感がしたんでな……」
そう説明した瞬間、さっきまで並んでいた店が突如爆発した。そこに使われたであろう爆薬の量はかなりのものらしく、並んでいた何十人もの人を炎に包み吹き飛ばして、爆風が離れた俺たちのところまで届いた。
「な、何なのよ!?」
動揺する真由里を尻目に俺は手をつかみ物陰の多い方へと移動する。真由里もあまりの異常事態に思考が追いついていないみたいだ。
「もしこれが人為的なものだとするならば……この手段を取ってきたものは何かしらの要求をしてくるだろう……そして出入口を封鎖してな」
従業員専用と書かれた扉に入り店の搬入口を探すために直感で通路を駆け抜ける。如何せん、地域最大級のショッピングモールのせいか複雑で通路が分かりづらい。
「よし……大まかには見えたあとは……」
ゴールがある程度見えた瞬間、銃声と共に俺の足元に火花が散った。
「おっと……そこまでだぜ?しかし……こんな搬入口から脱出しようっていう輩が本当にいるとはな」
ガタイのいい男が銃を向けながらゆっくりと近づいてくる。俺は真由里を背中に隠し睨みつける。
「おうおう、威勢のいいガキだな。これは遊びがいがある」
「……何の目的でこんなことを……!」
「目的?俺は雇われの身だからな詳しいことは知らないが……要するにお前達は生贄だとよ」
「生贄……?」
行動目的を聴きながら握ったままの真由里の手に合図を示す。
「超能力者とそうでないもの……そのふたつが共存することなど不可能だったっていう話を作るためさ」
「貴様は……超能力者を否定するのか……」
「解明できないような能力をもっているやつなんざ不気味でしょうがねぇだろ?なら、管理しておくのが1番だ」
「……なら、その超能力者に倒される己の身を呪え!」
次の瞬間、その男の全身が燃え上がった。先程の合図で真由里が能力を使ったためだ。
「ふん……ガキ相手に油断なんてするから」
「誰が油断したって?」
燃え盛っているはずの男の声が聞こえると同時に俺の右肩に激しい痛みが走った。
「ぐぅ!」
「お兄ちゃん!!」
慌てて真由里が駆け寄るが能力の集中を切らしたせいで男を纏っていた炎が霧散してしまった。
「おいおい、超能力者を殺すのに何も対策をしないと思ったのかぁ?」
その男は下卑いた笑みを浮かべながら銃の照準を俺の額へと向ける。俺は相手の銃の照星と照門越しに目を見る。
(こんなところで……!俺にもっと力があれば……!守りたいものを守れるだけの力が……!!)
周囲の時間がゆっくりと引き伸ばされていく感覚の中で俺の脳の奥底で何かが目覚めるのがハッキリと認識できた。そして……俺が今、何を使えるのかということも認識することができた。
「死ね!ガキが!!」
そして引かれる引き金。銃声とともに銃口から俺を死へと運ぶ銃弾が飛んできて俺の側頭部を掠めて通り抜けていた。
「馬鹿な!?この距離で外した!?」
「うぉおぉぉお!!!!」
俺は痛む右腕を庇いながら地面を蹴り男へと迫る。男はそれに驚いたのか一瞬だけ怯み慌ててトリガーを引く。もちろんその弾丸が俺を捉えることはなく俺は左手で奴の顎を打った。減衰することなく伝わった衝撃が脳を揺さぶり男はその場に崩れ落ちた。
「真由里……急いで……出るぞ……」
初めて能力を使ったせいか視界がかすみ右腕の感覚も麻痺してきた。泣きじゃくる真由里を宥めながら搬入口から外に出ると真っ先に救急車を呼んでもらう。
その間に自分のもっているハンカチと真由里に炙ってもらった拳大の石を貫通創にくくりつけて応急処置を施す。
「お兄ちゃん……!死なないでね!!」
「心配するな……俺はお前を置いては行かない……」
ゆっくりと息を吐きながら痛みを誤魔化し、意識が混濁しそうになるのを防いでいると救急車がやってきた。速やかにストレッチャーに乗せられるとあっという間に病院へと運ばれて行った。
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あの後俺は1週間程度入院し新学期そうそう休むという不運なアクシデントに見舞われた。ちなみに俺らがあの場を去った後ショッピングモールの中では『クロノス』と超能力否定主義者『コスモス』という2つの集団が激しい戦闘を行ったようだ。幸いにして政府の介入により事態は収束したものの互いの主犯格は未だに逃亡を続けているらしい。
「それにしても……お兄ちゃんって超能力を持ってなかったよね?なら……あの時どうして倒せたの?」
「あー正確に言えばあのタイミングで能力が目覚めたといった方が正しいかな」
「え、何その少年漫画みたいな能力!!」
真由里は羨ましそうな反応をしたが俺からするとその辺は別にどうでもいい。
「それで……お兄ちゃんの能力って?」
「恐らくだが……《複製》だろうな」
「《複製》?」
「ああ、俺が見た事のある、もしくは直前にみた超能力をランクを下げてコピーするんだろう」
俺があの時直前でみたのは真由里の『燃焼』。そして俺はやつに対して燃焼を使った。
「ランクが下がるっていうのは……激しいことが出来ないって感じでいいのかな?」
「まぁその認識であっているな。最も……コピー元からのランクを下げるのか、それとも……俺の才能やレベルを元にしているのかはまだはっきりと分からないがな」
今回は最低限でのランクでも使えるように奴の目の前の空気を『燃焼』させ蜃気楼を作り出した。それにより実際の照準とブレて側頭部を掠めるという経緯に至ったわけである。
「お兄ちゃん、頭いいもんね」
「……能力も使い方っていうのをはっきり分かったよ」
病室から窓の外を見ながらそんな感想を真由里に言うのだった。
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「大将、あの現場に1人厄介なやつがいたぜ」
「ほう……それはどういうことだね?」
「イレギュラーってやつだろ?少なくても只者じゃなかった」
報告する男はタバコに火を付けながら雇い主へと報告する。
「そうか……ご苦労だった」
「ああ、それともう1つ……俺にやつを殺させてくれ。やられっぱなしじゃしょうに合わねぇ」
「……分かった、そのものについてはこちらから情報を流そう」
「ありがとうよ」
そしてタバコを吸い終わった男が部屋から出ていった。そして後に残った依頼主は深々とため息をつく。
「……まさか我々の障害となる人物がアイツとは……神様の悪戯なのだろうか……」
頭を抱えてそう呟く声に反応するものは誰もいなかった。
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「報告します、さっきの戦闘の途中で傭兵を1名確認しました。その後の追跡の結果、彼は学生に倒されその後戦線を撤退したみたいです」
報告を受ける妙齢の女は部下が提出した書類をみて一瞬言葉を失った。
「……分かったわ、この者の情報が掴めたら私に連絡して」
「はっ!」
ピシッと敬礼をした後出ていく部下を見送ると深々とため息をつく。
「……なんでこんなことに……」
そこに映った人物のことを考えるととてつもなく憂鬱になるのだった。




