選択(終)
屋上で僕は、嬉しそうに恥ずかしそうに、照れたようにはしゃいでいる彼女を見ている。
様々な思いや考えが、ゆっくりと掻き混ぜられていくのを感じている。
巫和くんが云おうとしていたこと、やろうとしていたことは分かる。
清子にまた会えるかも知れない、という可能性。
でもそんなときが来たとしたら、そのとき清子は、きっと清子ではなくなっているのだ。壊れてしまっているのだ。
だから有り得ない希望なのだ。
清子に会えることは、もうない。そのときとは、破滅のときだからだ。
僕は彼女を守れなかった。彼女が消えた後になって、やっと逃げ出すことだけできたが、もうそれは遅すぎた。
今回巫和くんを止めたことによって、破滅のときは、破綻のときは回避されたけれど、しかしそれだって、単に先延ばしにされたに過ぎない。
いずれ、そのときは来る。これはどうしようもないことだ。この状態がいつまでも続くというのは、絶対にないのだから。
でも感傷的な気分にはなっても、恐れや悲しみはあまりない。
そういったすべては、この時間の中に、曖昧に溶けていく。
僕はただ、彼女を見ている。
臆病で、内気で、恥ずかしがりやで、大人しく、ちょっとした狂気を孕んでいて、変人への、本物への憧れがあって、面倒臭がりで、厭世的で、気怠そうで、憂鬱そうで、苛々すると吐いてしまう癖があって、不器用で、でも純粋で、お嬢様ぶって、上品な所作を心掛けているけれど少し間違っていて、感情移入が過剰で、すぐに感情を表に出し、残酷な話や悲劇を嫌い、泣き虫で、好奇心旺盛で、悪趣味で、謎を追うことに積極的で、饒舌で、慇懃無礼なところがあって、自分が面白いと思う話を前にすると大喜びして目を輝かす……そんな彼女。
僕らはまだこの学校生活に、猶予期間に、身を置いていよう。
身を置いていたいと、今、確かに思っている。
それが僕らの選択だ。
『美化委員会の不浄理論』終。
19歳の冬に書いた小説でした。




