⑴ 妹 ~姉の回顧録①~
拙作にお目を止めてくださりありがとうございます。
本作は『夏のホラー2026』の『音』のテーマに合わせて執筆いたしております。
前後は問いませんが、先出の【『せみ』のこえ】と合わせてお読みいただくとより一層お楽しみいただけると思います。
是非一度ご賞味ください。
※この作品には残虐性や出血を想起する表現が含まれます。
苦手な方や15歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
※連載間隔は不定期になりますが、できるだけお待たせしないよう頑張ります。
妹はいつも明るく小さな頃から大人達に可愛がられていた。
物心がつく前から父方の祖父に預けられ、哺乳瓶を加えて保育所に通い、歩くようになると目を離したすきに行方不明になってしまうほど自由奔放に育っていた。
大人たちはそんな妹に手を焼きつつもその顔はいつも笑顔が浮かんでいたし、保育所の所長さんに至っては手が空くとすぐに腕に抱きかかえ、そのままお迎えまで過ごすほどの特別扱いだった。
小学校に上がると、多少のことは許されていたからか子供の足では遠い地区に住む同級生の男の子達と遊んで暗くなるまで帰ってこないなど日常茶飯事だった。
小学3年くらいの頃に一度だけ警察官に連れられて帰ってきた時にはさすがに両親もこっぴどく叱っていたが…………
しかしそのすぐあと位から、いつもの男の子達とは疎遠になった様で、今までとはちがう女子達のグループで遊ぶ様になっていった。
思春期の入り口だしみんなそんなものだと思っていたからあまり気に留めてなかったが。
妹の通夜振舞いで参列者と言葉を交わすたび懐かしい思い出がよみがえり、妹の死の実感が胸に重く落ちてくる
棺の窓は閉めている。
まだ28だったのだ。ただでさえあの快活な妹が死を迎えるなど信じがたいのに、あの”物体”が妹だとは到底信じてはもらえないと思ったからだった。
参列の波も落ち着いてみんなが家路についた頃、「おそくなってごめんね」と十数年連絡すら取っていなかった従弟がよれたシャツに汗がをにじませ姿をみせた。
「来てくれるだけでありがたいよ。わざわざありがとね」
涙ぐむ私の肩をポンポンとたたき、焼香へ向かう背中に頭を下げる。
頭を上げると祭壇いっぱいに咲く花の中、ふっくらとした頬をあげ八重歯をのぞかせて笑う妹が目に入り涙がこぼれた。
フゥゥと呼吸を整えて、冷たいお茶と菓子を並べ、振り返った従弟をお茶に誘った。
「なにがあったか聞いていい?棺の窓閉めてるってよっぽどなの?」
わたしの表情を伺うように従弟が上目遣いで聞いてきた
「ごめん。まだ話せないんだ。警察がね捜査が終わるまでダメだって。」
「捜査って………うんまぁ…そっか……終わったら話せるの?」
「うん。でもわたしも混乱しててよくわかってないけどね。整理する時間ができたと思えば警察の対応もありがたいよ」
「そっか。もしなんかあったらいつでもいいから連絡してよ。」
従弟の気遣いに小さな笑顔でうなずいた。
そこからは、あんないたずらしてたよね、あの池でザリガニ一緒に釣ったっけなどと楽しかった思い出を引っ張り出しては懐かしんだ。
ふと従弟が「そういえば変なこと言ってた時期があったよね」と切り出した。
「なんかあったっけ?」眉間に寄せたしわを抑えつつ首をひねっていると
『ばあちゃんちにくるときに有る池の真ん中に女の人がいたんだよ』とか
『駅前の神社の裏に洞窟があったのにみつからない』とか
従弟のセリフに助けられ、そういえばさっきの遊び相手が変わった時期にそんなことを言っていたなと思い出す。
「あぁ、言ってたよね。私が6年生か中学上がるころだったと思うから、構ってくれる人が減ったみたいで寂しかったのかな。でもすぐ落ち着いたと思うけど……なんか気になった?」
「駅前の再開発で神社も移動しちゃったからもうわかんないと思うけど、その頃オカルトはやってて俺も肝試しでその池と洞窟見に行ってみたんだよ。結局何もなくてがっかりしたけどさ。」
祖母の家の近くに居を構えていた従弟の家族は母方の親戚で、従弟が一人っ子だったこともあってか毎週末に現れるわたし達姉妹をとても可愛がってくれていた。
オカルト云々と言っているけれどきっと心配になって見に行ってくれたのだろう。クスッとのどを鳴らしたわたしに照れた様子で苦笑いを向ける従弟のやさしさが心にしみる。
妹と過ごす最後の夜をそんな二人で乗り越えて、葬儀を終えた。
運ぶ人数が少ないわりに重量のない棺に不審感抱きつつも、何も聞かずに隣で寄り添う従弟の手を取り、空に消えゆく枯れ枝になっていた妹の煙を静かな涙で見送った。




