↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

31.約束したよね?

 わずかに動くのも憚れる気がして、私は息を殺した。

 涼しい顔をしているように見えても、シュトリさまのこめかみには青筋が浮かんでいて、目を逸らせなくなる。


「ねえ、ツムギ」


「はい!」


「僕の側からいなくならないって約束したよね?」


「……。し、したのです……」


 怒ってる。シュトリさまがものすごく……。


「それなのに、『どこへでも連れて行けばいい』なんておかしくないかい?」


「……あっ……」


「いなくなっていいわけ、ないよね?」


 ごくりと唾を飲み込んでいると、ノイルが一歩動いた。


「お待ちなさい! お姉様はそうやって洗脳されているのです!」


「……洗脳なんて君たちに言われたくないな」


「なんですって?」


 シュトリさまは私の髪に指を通し、ゆっくりと何度も撫でる。


「天界の規則からはみ出るような思想を持てば、出来損ないとして扱われる。それのほうが、よっぽど洗脳だと思うけどね?」


 そうなのかな。

 天使は何よりも正しい存在だって思っていた。

 人間だって、天使は素晴らしいと言うのに、天界も全て正しい訳じゃないのかもしれない。


「まだ僕と一対一でやり合う気はあるの?」


「当たり前です!」


「やめておきなよ。ツムギを悲しませるのは、僕も本意じゃないんだ」


 喉の奥から声を絞り出す。


「本当にもうやめてください。大切な二人が傷つけ合うのは、見たくありません……」


 小さな呟きになったけど、ノイルの眉が下がったのを確認できた。その瞳には悲しみが浮かんでいるのが伝わって、胸が苦しくなった。


「ごめんなさい。シュトリさまを残して、天界には行けないのです」


「お姉様……」


「会いに来てくれたこと、うれしかった」


「お別れみたいなことを言わないでください! 私たちは諦めません。お姉様が天界に戻ってこられるようにします」


 真摯に訴える姿に、目の奥が熱くなった。


「どうして、そこまでしてくれるの?」


「ツムギお姉様が大好きだからです!」


 飾ったような理由ではなく、ノイルの言葉は単純なものだった。


「優しくて、いつも一生懸命で、愛らしい。そんなお姉様がいないと私たちは楽しくないんです」


「それは評価が大きすぎるのです」


「いいえ! 妹分である私たちみんなの総意です」


 ノイルは胸の前で手を組み合わせた。

 まるで祈りを捧げているようだった。


「お姉様は何も変わっていません。小鳥を助け、とても優しい天使のままでした」


「……そうかな?」


「悪魔だというのが不思議なくらいです!」


 私は首を傾げた。


「でも、悪魔なのです」


「そういうことではないんですが……。とにかく、お姉様はその男のものだけではありませんので!」


 シュトリさまの腕に力がこもった。


「僕はツムギだけのものだけどね?」


「シュトリさま!?」


「ずっとそう言っているじゃないか。よそ見したら悲しむよ?」


 どうしたのだろう。

 シュトリさまが子どもみたいになっちゃった……。


「近すぎます! 離れなさい!」


「これが僕たちのいつもの距離だから」


「あなたって人は……!」


 まだ揉めるのだろうか。

 おろおろと二人の顔を見比べていると、ノイルが咳払いをした。


「分が悪いので今日は帰ります。次はお姉様をお迎えに来ますから」


 白い羽根が広げられ、ノイルは窓の外に飛び出した。

 天へと昇っていくのをぼんやりと眺めていると、シュトリさまが私の身体を持ち上げた。


「帰ろう? 二人の家に」


「……はい」


「もう勝手に出ていっちゃ駄目だよ」


 釘を刺されて、ちゃんと謝らないといけないと思った。

 謝るといえば……。


「トーマスさんにも謝らないといけません」


「鳥が大暴れしたせいだって言わないとね」


 この部屋の惨状に信じてくれるとは思えなかった。……シュトリさまの冗談は笑えないのです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。