第七話 張り紙
授業の終わった午後。
エリナリーゼは周りと喋ろうともせず、そそくさと教室を出ていた。
廊下を歩く。
すると、掲示板の前に人だかりができているのがわかった。
(何かしら)
思わず歩み寄る。
「お、おい」
振り返る生徒たち。
掲示板の前の人だかりが、さーっと割れていく。
嫌な予感がする。
おずおずと前に進むエリナリーゼ。
ゆっくりと掲示板を見る。
右上。書類の空間に、一際目立つような文字で大きく書かれている書類がある。
エリナリーゼの目が大きく開く。
唾を飲み込む。
「証言募集 エリナリーゼ様の冷酷な言動を知る方へ」
♦︎
あれは、とある日の夕方。
学院から用意されていた王立慈善監理委員会のための部屋にて。
机が並び、帳簿、書類棚、インク壺などが所狭しと置かれている。
そんな中、中央の机で統括としてエリナリーゼは書類をチェックしていた。
「これで、王宮財務府に提出する書類のチェック、終わりました!」
副統括であるクラリッサが、書類のチェックを終え顔を上げた。
その顔には、やり切ったという微笑が浮かべられている。
「ありがとうございます……」
エリナリーゼは手元の書類から顔を上げにっこりとする。
「もう少しで今年の分は全て終わりです。皆さん、頑張りましょう」
「「はい!」」
(良い空気だ。あと少し、頑張ろう)
エリナリーゼは手元の書類に目を落とした。
その時、エリナリーゼは気がついた。
「……ミリア様」
「はい! なんでしょうか?」
エリナリーゼはできるだけ感情が出ないようにした。
「この書類にミスがあります。あなたの記載ミスのようです」
ミリアの体が強張る。
他の委員たちも手を止めたのがわかった。
エリナリーゼはそれに気がつかないふりをして続けた。
「このようなミスをする人に仕事は任せられません。今日のところは退出してください。このことは他言無用です」
「なっ」
「黙りなさい。ゆっくりと反省して、再度記載ミスが起こらないように対策を考えてきてください。委員会に復帰するのはその後とします」
「エリナリーゼ様……」
「くどいですわよ!」
静まる委員たち。
ミリアが口を開いて、閉じる。唇を噛むのがわかった。
「……分かりました」
そう言ってミリアは立ち上がると荷物を乱暴にまとめ、部屋から出ていった。
それを見送る委員会のメンバーたち。
「さあ、続きをやりますよ」
クラリッサの淡々とした声が響く。
ペンが書類の上を走る音で部屋がいっぱいになったのは、少ししてからだった。
♦︎
(あの日、他の委員もミリア様を退出させるところを見ていました。証言者を集めることは難しくないでしょうね)
エリナリーゼは掲示板に張り出された「証言募集」の張り紙を見て、唇を噛んだ。
おそらくアルフレッド派の誰かが、査問のために貼ったのだろうその張り紙にみんな集中している。
(あのことなら、言い返せる。でも言い返せばあの子が終わる……)
エリナリーゼは思わず俯く。
くるりと後ろを振り向き、そのまま歩き出す。
生徒たちの視線が痛い。
逃げるように、廊下を歩く。
「ひっ」
顔を上げると、ミリアがいた。
悲鳴をあげ、一歩後ろに下がるミリア。
周りの生徒たちが、ミリアを庇うように、ミリアの前に出てくる。
敵意。
エリナリーゼはいつの間にか、学院で自分が悪役になっていることに気がついた。




