第96話 そんなのぜったい
麦の脱穀、藁の手入れ、体験をした事はなかったけどこれ程の疲労をさせられる事になるとは思っても見なかった。フォニアが作り出したギザギザの機械に麦を通して引っ張る、他にも足で踏んでトゲトゲのついたローラーを回転させてそこに麦の穂を当てて落とすなど様々なやり方を体験させてもらったがそれで分かったのは自分の不器用さ。
やはり一日の長というか、踏んできた場数が違うオーク達は手際が良い。こちらが悪戦苦闘していても手を貸してあっさりと終わらせてくれたりと、頼もしい彼らとは対照的に情けない自分が恥ずかしい。頗る邪魔になっているという悲しい現実に、後は任せてしまおうと俺は匙を投げた。
彼らの作業がいつ終わるかはわからない、あの手付きをもってしても流石に文字通り山の様にある麦をやっつけるまでに時間かかるだろうなぁ。
ペイトン達に一言告げて抜け出しつつ、何かスープでも作って彼らを労おう。
拠点に戻って既にアレコレやっているスライム君と二人、疲れた時に良さそうな物を色々と入れた栄養のあるスープを作っていると、ケンタウロスの一人がこちらへ走ってきた。
彼の血相を変えた様子から察するに急ぎの要件のようだし、どうしたのだろう?
「ホリ様! ぽ、ポッド様がお呼びです! 何でも急ぎの要件なのだとか! き、来ていただけますか!」
「うん? ポッドが? わかった、はいお水。それ飲んで落ち着いてね。それじゃあスライム君、行ってくるよ」
ポンポンと跳ねる彼を一度撫でて、水を呷った事で落ち着きを取り戻したケンタウロスと一緒にポッドの元へと急ぐ。このように呼び出された事なんて今まであったかな……。
思い出す間に目的地に到着すると各種族の代表者達やそれについてきた面々が顔を揃えている。ペイトンもどうやら脱穀作業を抜けてこちらへとやってきたようだ。俺が来た事が分かったポッドにまず感じたのは困惑というか、困ったなといった表情と纏っている空気。
一度ぐるりと回りのトレント達を見てみれば、彼らも少し落ち着きがないような。
「おう、ホリ。すまんのわざわざ呼びつけて。早めにお前さん達に教えておいてやろうと思ってな」
「うん、それは気にしないでいいよ。それで? 一体どうしたのさ?」
目を瞑れば、砂浜に立っていると勘違いしてしまいそうな程揺れるトレント達の葉の音、どうやらあまりいい話ではなさそうだというのはここに来た事でわかっているが、何を言われるのかと少し心臓が高鳴る。
「モンスターの大発生、また来るぞ。それも今度はゴブリンじゃない」
彼がそう言った瞬間に騒がしかった波の音も遠ざかり、この場が静寂に包まれた。
「またかぁ……。相手の種類と規模は現時点で分かる?」
「確かな事は言えん。種族も規模もわからんが、瘴気の大きさから今度はゴブリンじゃないのう。その瘴気はお前さんがよく行くあの人族の里、そこへ向かう時にある森の中じゃな」
「ま、またあの森にッ!?」
レイが驚いているっていう事は彼女達が以前に俺と会った野営をしていた場所の近くという事か。つい最近もレイ達が大発生に巻き込まれたって言っていたな。どうやら、何か別の原因が有って瘴気が起きやすくなっているのか?
「ポッド殿、前回レイ達が被害を受けた大発生からそれ程期間が開いていないのにこの頻度での事、あり得るのですか?」
「うぅむ……、あまり聞いた事はないのう。ただのう、ホリが助けた連中が遭遇したモンスターの群れはここらで生まれた奴らじゃあないぞい。瘴気は確かにその時には溜まってはいたがモンスターを生み出す程の物ではなかったからの、そいつらは多分流れ者じゃ」
「そんな……、どれだけツイてなかったの私達……。モォ嫌になっちゃう……」
ポッドの出した推測を聞いて肩を落とし、俯いてしょげているレイをイェルムが慰めながらポッドへと視線を移した。
「まぁまぁこうして生きているんですもの、気を病んでも仕方ないわよ。それで、ポッドさん。私達を呼んだという事は何か理由があるのよね?」
「うむ、実はその近くに馴染みの幻獣が居るんじゃがの……。同じ森の住人として、助けてやりたいんじゃ。何とかしてやれんかのう?」
幻獣……、幻獣!? そちらも気になるが、今はそれどころではないか。
ポッドはいつかのトレント達の時と同じように頼み込んできているが、彼がこういった頼みをすることは稀だ。むしろ普段からこちらがお世話になっている分、こういう時に報いてあげたいのが人情という物だろう。
「相手の種族もわからないんじゃ、対抗手段の取りようがないね。ポッド、その大発生はすぐ起きそうなの?」
俺の質問に巨体を揺らすようにして少し唸って考え込んでいるポッド。周囲のトレント達が葉擦れ一つさせない程静まり返っている為、みしりという鈍い音が響いている。
「そうじゃのう……、早くとも太陽が数回昇った頃合じゃ。それと、森の中がかなり物騒でな。出来れば集まってきているモンスターを間引いて欲しいんじゃよ」
「レイ達が相当数やったのに、まだそれなりの数がいるって事?」
「うむ」
そうなると、最悪戦闘が連続するな……。俺とポッドの話を聞いて、口元に手を当てて何かを考え込んでいたアナスタシアが顔を上げ、視線を向けて口を開いた。
「おいラヴィーニア、レイ。お前達が森で遭遇した時や、夜にモンスターを倒している時にトロルはいたか?」
アナスタシアの問いに、聞いた途端に眉を顰めて嫌な顔をするラヴィーニア。彼女はそのまま目を瞑って首を捻っている。
「んー、そうねェ。……ああァ、確かいたわァ。洞窟に潜んでてェ、数は五くらいだったかしらねェ。糸で首を飛ばしたけどォ、その糸は汚くて燃やしたしィ」
「そういえば、私が潰したモンスターにもトロルがいたわ。数はちょっと覚えてないけど、武器も防具もダメにされたわよ」
同じように嫌な顔をしたレイがその問いに答えると、アナスタシアはまるで痛む頭を抑えるように軽く手で押さえて一つ大きく息を吐いた後に俺の方へ視線を移してきた。
「ホリ、確かな事は言えないが恐らくその大発生はトロルが出てくる。奴らは自分達より弱い瘴気生まれのモンスターを大量に従え、群れになる。オレグが以前にトロルの大発生前に奴等と奴等が配下にしたモンスターが集まって群れていた事があったと話をしていた事があってな、その群れが複数発見されたのなら可能性は高い。他のモンスターならばトロルがこれほど見られるという事もないしな」
敵となるモンスターの名前が出た途端に、俺以外の面々にどよめきが。そして特に女性陣の顔が印象的で隠すつもりもない嫌悪感のような物がありありと滲み出ている。
その中でまず一番最初に声をあげたのはフォニア。彼女に至っては顔をくしゃりと歪めてその事実に不快感を露わにしていた。
「うぇえ……、よりにもよって嫌なのが出てくるなぁ……」
「トロル、ってどんなモンスターなの? 教えてもらえる?」
俺が悪感情渦巻く彼女達にそう問い質すと、ウタノハが隣にやってきた。
「トロルは力が強く大柄で……、知性はありません。とある欲求の為だけに動いていると言われる種族です。瘴気から発生したトロルはそれに加えて普通のトロルより戦闘力が高く、その欲求が強いと言われています」
「とある欲求って何?」
俺がそう続けると、ウタノハは布で覆われている部分以外の肌が真っ赤になって俯いてしまった。
「あの、その、そのですね……」
「うん? 何?」
しどろもどろというか、あたふたとしている彼女。その様に少し悪戯心が沸いてしまったので、もう少し深く聞いてみると、ウタノハは自分の服を力強く握り締めて小さく呟いた。
「性的……、欲求です……っ!」
「そりゃまた……。随分とやばいね」
「フフ、ホリさん。知らないようだから教えておきますけどね?」
呑気な感想をつけた俺を見てイェルムが少し苦笑しながらウタノハの説明に補足をつけてきた。
「トロルはオスよりもメスの方が狂暴です。ホリさん、捕まったらアレらに滅茶苦茶にされて廃人になりますよ? 何度か人間が捕まって無残な姿で殺されているのを見た事がありますし」
「えっっ!? メスいるの!!? うそでしょ!?」
勝手なイメージでオスだけだと思っていた! 廃人ておいおいマジか……。
困ったように口元を押さえて笑っているイェルム、彼女が慰めていたレイもそのおかげで気を持ち直したようだ。
「本当よ? 私が相手したのもメスが多かった覚えがあるもの。あいつら潰した後にアマラにしこたま水魔法で洗われたわ……」
「そりゃあね、ばっちぃもん」
わかるわかる、と何度も頷いているフォニア。アマラ……とは、あぁリザードマンのあの子か。というか、ほぼ全員が嫌な顔をしていることに加えて言葉の端々から感じられる印象が酷くアレだな。
「ペイトン、お前や他のオークなんかガタイの良さで狙われやすいだろう? いざという時はパメラやペトラには黙っておいてやるからな」
「やめてください縁起でもない……。それこそ、ゼルシュももしもがあったら他のメスのリザードマン達には黙っておきますよ」
大きな体を小さくして身を寄せ合い軽く身震いさせているように見える二人、ひそひそと密談を交わしている両名がこの態度となると……。
「もしかしなくても、相当ヤバイんだね相手」
「ヒッヒッヒ、ホリ様。若い娘達に言わせるんは可哀想ですからあたしから色々と教えますよ。奴等はね、オスはイチモツをおっ勃てた状態、メスも色々溢れさせ興奮そのままに突っ込んでくるんです。しかも、そこに種族の垣根なんてなく動物だろうが人間だろうが魔族だろうが穴がありゃ突っ込む、棒がありゃ入れる。線引きは『オス』か『メス』というだけ。なのにトロル同士にはピクリとも反応しないっちゅうタチの悪さですわ」
どこか楽し気にいつも見せる仕草をして教えてくれるト・ルース。
その説明の中のとある単語を聞いてウタノハがまた顔を赤くして下を向いてしまっているが……。ちょっと耳元で今の説明を彼女に囁いてもらおうと思ったが、セクハラでオラトリに怒られるかラルバに殴られそうだな。やめておこう。
「兎角そんな状態ですから、若い子らには精神的に厳しい程に汁塗れで汚いんですわ。しかも奴等の一部の体液には催淫効果がありますからねえ……。戦闘力は高くても、生娘や若造の多いこの拠点の者達じゃ苦戦するかもしれませんよ」
「ええ……? それだともしかして、直接戦闘は避けたい感じか。参ったね」
「難しいかのう……? もし言った通りアレらが大量に出てくるとなったら、森の動植物関係なく危険に晒される。それは少々不憫なんじゃが……」
普段だとポッドの頼みには出来る限り応えようと乗り気な面々も、腕を組んで考え込んだり、苦悶の表情を浮かべて唸っていたり。
彼等にも弱点というか、苦手な部類はあるだろう。無理をさせたくはないよな。
「ポッド、少し聞きたいんだけどさ。今肥料というか……、前にゴブリンキングとか纏めておいた場所の土ってどれだけ改善した?」
「うむ? どうして今そんな事……。そうじゃのう、元々の土の良さもあるがあの辺りは特に良いぞ。ドーリーが良くあの辺の土を見てぶつくさ言って褒めておるしな」
それなら使い道はあるな、これからも広がり続ける畑の養分になってもらうとするか。丁度麦の栽培を終えた周辺の土の為に、新たに肥料を用意したいとは思っていたし。
「よし、それじゃあ全種族に聞いて決を取るとしようかな。俺一人でやるにも少し規模が大きくなっちゃうし、協力もしてもらいたいし」
「ホリィ? 何か考えでもあるのォ? おじいちゃんには悪いけどォ私もあんなのと戦うなんて嫌よォ?」
頭の上に顎を乗せてきたラヴィーニア、後頭部に素晴らしい感触を感じられるのでこのまま少し堪能しておこう。
「うーん、うまくいけばね? それに、皆に協力してもらってどうにか出来るかもしれないっていう漠然とした物だから、戦う準備だけはしておこうね?」
「むゥ……、わかったわァ。もしあいつらにホリが捕まって穢されたらァ、私が穢れを落としてェ、癒してあげるからねェ」
「おい、ラヴィーニア何を言っている! それはお前の役目ではないだろう!」
ラヴィーニアの言葉に端を発し俺の頭の上で口論が始まってしまったり、ウタノハとレイが手を掴んできて何かぼそぼそと言っていたりするが、とりあえず落ち着いてもらおう。
「癒しはいつでもしてもらいたいな! それよりみんな悪いんだけど、一度全員に集まってもらえるように言ってきてくれるかな? ポッドとト・ルース、あとイェルムに少し聞きたい事があるから残って欲しいんだ」
熱が入りそうだった頭の上の口喧嘩や周囲の者達もすぐさまに頭を切り替えて種族がいる場所へと向かってくれた。ラヴィーニアは体勢を変えず、動く素振りを一切見せていないが多分他の二名は寝ている時間なのだろう。
それから、残った者達に作戦を説明する。
少々大掛かりな上に成功するかもわからないが、先程のウタノハの説明を聞いてもしかしたらうまくいくかもしれないという望みは少しだけ持っていた。そして俺の考えを聞いた彼らからも悪い印象は受けない、うまくいけば楽に戦闘を回避できるのは明白だったからだろう。
「ファッファ、そりゃうまくいけば面白いのう。ホリ、出来る事は何ぞあるか? 戦闘じゃ役に立たないからの、ワシ」
「そうだなぁ、何かあればいいけど……。それよりその幻獣っていうのに一度この話をしておいた方がいいんじゃないの? 危ないですよって教えてあげるだけでも大分違うでしょ? 相手が言葉を話せるのか知らないけど」
「ヒッヒ、この大木が言っとる幻獣はあたしも知ってますよ。大丈夫です、大多数のオーガやそれこそトロルなんぞよりよっぽど知性と品性があります。言葉も交わせますよ」
それなら安心だな、一度会っておいて損はないだろう。菓子折りの一つでも持って挨拶へ行っておくとしよう。
どういうメンバー構成にしようかな……。ウタノハがいれば見つけやすいだろうし、森の中だからハーピー、ケンタウロス、アラクネといった機動力と探知能力の高い人達に手伝ってもらうとするか。
その後集まってきた者達に改めて説明をしていくと、あちらこちらに頭を抱えたり顔に手を当てていたりといった悲壮感が包まれた。
俺が彼らに提案したのは三つ。一つ目は普通に戦闘を行う、二つ目が俺が考えた作戦をやってみる、そして三つ目が今回ポッドの頼みを無視するか、である。
三つ目は最初から彼らの考えから除かれていたのだが、その手もある事を告げてみたところ誰一人それを良しとする者はいなかった。
最初にトロルが出るという話をアナスタシアから聞いて彼らが話し合っていたのはどうやってどれだけ戦闘を遠距離で済ませるかという議論をしているところに俺の案を出してみたところ、ほぼ全員が参加と協力を申し出てくれた。
必要な手数は何とかなるだろう。そしてその後、森への探索とモンスター討伐にチームが組まれ、それ以外の者達が俺の作戦の前準備の為に手伝ってくれるとの事。
ただし、麦の脱穀作業を行うためにオーク、そして風魔法を使ってその作業の効率を飛躍的に向上させるハーピー達は引き続き麦の方をやってもらう事となっている。どうやらイェルム達の協力のおかげで、数日はかかると思われた作業も一日か二日で終えられるという話なので、そちらが終了したら俺達の方へ加勢してくれるようだ。
「それにしてもトロルかぁ、どんな見た目なの?」
ざくざくと地面を掘りながら、隣で同じように作業をしているレギィやイダルゴに聞いてみると彼らはやはり表情を歪め、拒否反応を強める。
「ぶよぶよだ」
「ぶよぶよ?」
レギィが土を運ぶために荷車を引きながら俺の質問に答えてくれた。他にも荷車はあるが、どれも荷台が土で満たされるのが早い。ミノタウロス達がいるとやはりこのような土木作業は捗るな。
「体格としてはかなり大柄だぞ、身の丈もイダルゴや他のオスのミノタウロスより頭三つ分はでかい。ただイダルゴのようなミノタウロス達と大きく違うのは、とにかく脂肪の塊という感じだな」
「へえ……、それが襲い掛かってくるのは確かに怖いね」
「いや、真に恐ろしいのはそこじゃない」
レギィの説明に言葉を返したところへ、今度はイダルゴがスコップをざくりと地面に刺し込んだ後に大きく首を振ってきた。
「アイツラの恐ろしいところは生命力だ、他の種族に襲い掛かって凌辱をしているところを助けた者が手足を斬り飛ばしても、腰だけは動かし続けていたなんて話も聞いた事があるぞ。こちらが攻撃しても平然としている事もしばしばある。痛覚がないのではとすら言われているしな」
「そりゃまた凄いね……、戦闘力も高いの?」
「ええ、素早さは全くありませんが力は凄まじいですよ。ただ剣や槍は使っているヤツは居らず棍棒を振り回すだけですが、その生命力と力は途轍もないんですよ」
横で同じく土を掘っているリザードマンが補足してくれるが、それを聞いて後ろから同じように地面を掘っている茶髪のミノタウロスの女性が大量の土を荷車に載せていく。
「それよりもその……、殆どぜ、全裸であの……、だ、男性のあ、アレを向けてくるのがきびしいです……!」
「そうそう、匂いも、見た目も、とにかく酷いんです……! 森で会った時もボスがいなかったらどうなっていたか……!!」
言っている内に、最近出会ったトロルを思い出してしまったのか頭を抑えて地面に膝をついてしまった彼女達。一際大きなスコップを使って大きく土を掬い上げて荷車にそのまま流し込んでいたレイがそれを聞いて脱力してしまい、遠い目をしている。
「私だって……、私だってあんなの相手したくなかったわ……。でもとにかく何とかしなきゃって必死だったのに、殲滅して戻ってきたら皆に『臭すぎる』って言われて……」
目じりに涙を溜めて震えている不憫な彼女の頭を撫でて宥めつつ、とりあえずどんな相手かはよくわかった。今取り掛かっているこの作業以外にも、ラヴィーニア達やフォニアが普段と違って乗り気に手伝ってくれているのも頷けた。
「それなら、戦闘後にはちゃんと風呂に入らないといけないね。牛乳でもあれば風呂に入れられるけど街で買ってきたのはこの前使いきっちゃったしなぁ」
「う、……ん? ぎゅ、牛乳があれば何か変わるのか?」
イダルゴがちらりとレイや他のミノタウロス達を見ながら聞いてきた。おいおい、その視線の意味はなんだイダルゴ君……ッ!? 期待してもいいのかねッ!!?
「そ、そりゃあね。お湯に入れると香りが良いし、お肌にも良い。ちょっと後始末に掃除が大変だったり、お風呂から出る時に一度体を流す必要が出て来たりするけど、臭いを取るにはいいんじゃないかな?」
危ない危ない、レイを見ながらこんな話をしていたらつい声が上擦ってしまった。彼女は俺を見て首を傾げているが、まさかあの胸元にある二つの爆弾から……? イダルゴ君、期待してもいいのだねッ!?
「そ、そうか……。わかった……」
俺の言葉を聞いて頷いたイダルゴ、彼はそれきり喋る事もせずに黙々と地面に向かってスコップを振り下ろすその態度を不思議に思いながらも、俺達は一日中作業を続けていった。
その次の日、スライム君と一緒に食事を作っている事の多いティエリはまだわかるが、何故かレイやイダルゴ、ロサナまでもが珍しく朝食を共にしている。
そして食後にいつもならスライム君がお茶を用意してくれるタイミングで、俺やゴブリン達にカップを差し出してきた中には白い液体、香りから察するにこれは……。
ついついそれを生み出したであろう女性達の、たわわな爆弾に目が吸い寄せられてしまったが……。
「これ牛乳じゃないのスライム君、これ飲めって事?」
「オイシー!!」
「ナニコレウマー!」
早速と飲み込んでいるゴブリン達を横目にポンポンと跳ねるスライム君に色々と質問をしてみると、既に様々な処理を行った様子のこのカップの中身。
レイやイダルゴにもそれが振る舞われるようにカップが渡されて彼女達はそれを笑顔で受け取り、迷いを見せる事も躊躇する事もなく飲み込んで味わっている……!? じ、自分から出てきた物を飲み込むなんて、エコな人ってステキですね……?!
イダルゴに視線を移すと、彼は顔を伏せてサムズアップをしている。ありがとうイダルゴ、ありがとう……ッ!! 頑張って彼女達を説得してくれたんだな、OPI特別審査官としてこれは飲まない訳にはいかない!
そう、これは頑張ってくれた彼女達、ミノタウロス達を労う当然の行為。目の前の美人たちから出てきたとかそういう疚しい気持ちは一切ない、食べ物を大事にしましょうという自然への配慮!
「じゃあ頂きます……」
ただ本音を言えば、怖い。
知っている牛乳からかけ離れて酷く辛かったり酸味が強かったらどうしよう、目の前のたわわ爆弾達を眺めながらそう考えてしまうと手が震える。目の前の彼女達の美貌、たわわな爆弾、甘さ以外の味付けをされていたら、この牛乳の味付けをしたのは誰だと神様にクレームつけてやろう。
意を決して口をつけて飲み込んでみると、その恐怖で渦巻いていた心がまさにこの牛乳で白く浄化されていくほどの甘味。そして濃厚な風味を感じさせ、しかし濃厚なのに後味がすっきりとしていてとても飲みやすい。
「なんじゃこりゃ、美味すぎるだろ……」
「そ、そうか……、頑張ってよかったぞ」
彼女達相手に頑張ったのであろうイダルゴの肩を叩いて労う。俺の視線に首を傾げて笑顔を見せるレイ達を他所に、その後カップの中身を飲み干した俺達はそのまま昨日の作業の為に出発した。
一つ大人になる事が出来た朝の一杯だった。




