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魔王様、顔怖いです。  作者: ふかづめ
異世界の街にデビューとまだまだ集まる仲間達
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第25話 勝負の三日目

 街で三日目にもなると、少し慣れてきた。

 今日も元気な受付の子に挨拶を済ませ朝食を頂き宿を出る。可能ならば、今日中に殆どの要件を済ませたい。更に夕方頃にはゴダール商会に赴くことから、自由になる時間はそう多くはない。


 衣服や生地、布を買えるオススメの場所を宿屋の子に教えてもらい、かなりの量を購入しておいた。古着が中心になっているが、着衣できる物は多くても邪魔にはならないだろう。

 そしてその後、昨日行った鍛冶街の外側にある修行中の人達の溢れる場所で食器等の道具を購入していく。やはり安い。

 大量購入するからという理由で値段を抑えられたのがまた大きいだろう。


 大分急いだが、既に日が一番高い位置にあり食事や色々な事を済ませて向かったらちょうどいい時間か、少し早いくらいだろう。

 あまり先方さんを待たせるのもあれだしな。早めにいって、失礼になりそうなら少し時間を潰せばいいだけだ。


 そんなこんなでやってきたゴダール商会。

 日も傾いているが、まだ少し早かっただろうか? 一応中に入って挨拶だけしておこう。


 ドアを開け、中に入ると知った顔が出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 セバスと呼ばれていたあの執事然とした男性だ。今日も整然とした佇まい、うーん見事だ。

「どうも、セバスさん……でしたよね。少し早く来てしまいましたかね?」

 彼はそんなことはありませんよ、と言葉を添えて俺をこの前の応接のテーブルではなく、二階の奥の部屋にエスコートしてくれる。


 おっと、これは少し緊張感が高まってくる。明らかにこの部屋からは他の部屋よりも放たれている重圧が違う。


 セバスがコンコンと四回程扉を軽く叩き、中から女性の声がした。扉を開け、一礼した彼は俺が部屋に入るのを入り口で待っている。


 よし、と声には出さす気合を入れ、部屋に俺が入ると共にセバスはドアを閉めた。


「ようこそ、待っていましたよ」と既に眼鏡をかけ今日も美しい笑顔を向けてくる彼女。ホント幾つなんだろうか。

 書類を片付け、部屋の応接用のテーブルに彼女は座り直した。


「少し早く来すぎてしまったようですみません」と頭を下げて詫びておく。

 俺は彼女にどうぞ、と言われ同じく対面の椅子に座った。


 彼女はその言葉に軽く首を振り笑顔をこちらに向けてきた。

「いえ、こちらの方も少し早く話せればと思っていたので幸いでしたわ。さて、早速ですが商売の話を致しましょう」

 彼女は俺の目の前に、少し形の変わった嘆きの山の石をテーブルに置いた。

 少しだけ輝きが増したソレを彼女は少し見惚れるように目をやった後にこちらへ視線を戻す。

「こちらの品、貴方に頂いてから私の知り合いに預けてみたのです。ですが出来たのは少し形を変え、少しだけ輝きを取り戻しただけ」


 彼女は慈しむような表情と手つきで石の輝いている部分に指を這わせる。その仕草は少しエロさを感じさせる。


「ですがこの少しだけ見せてくれる輝きが私を魅了してくれる、私だけじゃなくこの石を見てくれた知り合いもこの石に夢中のようでした」


 俺を見据える淡い緑色の瞳には力が宿っている。

「不思議な石です、純粋な乙女のような無垢な輝き、意中の相手に冷たくしてしまうかのような硬さ。これで作られた物はどうなるのか……、興味が尽きませんわ」


 彼女は興奮冷めやらぬように、こちらに力強く決意を表明する。

「少し高くなっても構わないわ。貴方の持っている量全て頂きましょう」


 その言葉を待っていた!! 俺は彼女の決意に答えるように椅子から立ち上がり、鞄に手を入れた。

 大体だが元々一メートル四方の大きさの鉱石の塊を宿で少し細かくしたインゴットを纏めて取り出し、床に置く。


「やっぱり、まだ隠していたのね」とクスクスと笑っている彼女の様子はまるで少女のようだった。


「如何でしょう? この量なら少しは貴方の望む物の一部を作れると思いますが」

 その時である、部屋のドアがノックされ彼女が「どうぞ」というとセバスがお茶を持ってきてくれた。この紅茶に見えるお茶も、使われている茶器も相当高そうだ。


 彼女は紅茶を一口、自身の高まった感情を抑えるように飲み込んでいる。

 俺も一口頂くが、香りもよく飲みやすい。


 ふう、と一息つけた彼女は静かに茶器をテーブルに置き淡い緑の瞳をこちらに向け告げてきた。



「金貨百二十枚。私の目算になってしまうけれどこの金額でどうかしら?」



 ひゃ、百二十!? そんなにいくのこれ!!! 

 俺はその金額を聞き、震えるのを抑えるように紅茶を頂こうとするが。

 カタカタと茶器を鳴らしてしまうのは小市民故である!!


 ふう、紅茶がんまい。よし落ち着け、落ち着くんだ自分。

「こちらはそれで構いません、むしろ貰いすぎている気もします」


 彼女は俺の動揺を見透かすように笑みを浮かべ、口元を手で隠しているが楽しげである。そりゃモロバレですよね。


「ふふ、いいのよ。私の勘は外れたことがないの。これは逃してはいけないと」

 乙女の直感よ――と彼女はウィンクをする。見惚れてしまいそうなその仕草に俺は美人は得だな。と思う。俺がやったら多分その場で交渉相手に殴られる行為だ。

「ゾフィーア様、はしたのうございます」と苦言を呈するセバスも少しにこやかだ。


「ではそれでお願いします。ありがとうございます」

 俺がそういうと彼女は握手を求めてきたので、それに応じる。


 とても和やかに交渉を終えられたのは彼女の手腕のおかげだろう。もしかしたら意のままにされていたかもしれないが、こちらとしても助かる事の方が多かった。


「そうだ、頂きっぱなしっていうのは少し申し訳ないので、こちらを差し上げます。何時ぞやのサービスのお返しに受け取ってください」


 俺は鞄から魔王から貰った羽根ペンを彼女に渡した。

「それは……? 美しいペンね。とても」

 彼女にならこの価値も正確にわかるだろう。


 エジッスーンのインクもなくなったし、使い道のない俺が持っていても意味のない品だしな。この世界にはインクを内蔵するタイプのペンはまだないようだし、これも使い道はあるだろう。


「私はそこまで紙とペンに縁があるわけではありませんので、ペンもそちらの方が嬉しいでしょう」


 彼女は俺からペンを受け取り、羽細工から軸、金細工を手で撫でていく。そしてその視線と指がペン先に移ったタイミングで彼女の時間が止まる。どうやら察してくれたようだ。


「このペン先……! そう、やはり美しいわね。これを頂いても?」

「ええ、差し上げます。それに職人曰く、まだそれでも全ての美しさを引き出せていないらしいです。先日のお礼に是非」


 それを聞くと彼女の目にまた火が灯りだす。

「楽しみが増えすぎてどうしましょう。年甲斐もなく少し興奮してしまうわ」と彼女は手で口元を隠し笑っている。


 彼女は早速ペンを使い、紙に何かを記入していく。セバスがその紙を受け取り退室していった。使い勝手も良いというのは彼女の満足そうな顔で理解できた。


「このペン、大事にさせて頂きますわ。装飾も美しいし使い心地もとても気に入りました。ありがとうございます」

「いえ、こちらも満足いく取引でしたから。ありがとうございました」

 深々と礼をしておく。これだけの金貨があれば、ハゲの店で武器を買えるぞ!

 あと欲しかったものが他にある! 

 明日の昼までに魔王と合流しなければならないのだから、少し急がなきゃならないかな? この結果は予想以上だ。


 代金をセバスが持ってきてくれる。

 勿論中身を確認するようなことはしない。ここまで来ているのだ、お互いの信用というのもあるし、あちらにも面子があるだろう。


「では代金の方、確かに頂きました。改めて今回の話、ありがとうございました」

 俺は鞄に代金を入れ、再三頭を下げると彼女も椅子から立ち上がってくる。

「いいのです。確か明日この街を出ると言ってましたね。またこの街に来たら寄ってください。楽しみにしておりますよ」

 彼女は笑顔でそう言ってくれた。社交辞令かもしれないが、もし次があればまたお世話になるかもしれない。

 こちらもよろしくという旨を伝え、俺は商会を出た。


 店を出る際、少し後ろから叫ぶような声がしたが……きっと気のせいだろう。


 それより急がねば、かなり日が落ちてきている。

 今日中に欲しかった物の一つが手に入れられるかもしれない。


 俺は焦る気持ちそのままに武器・防具のエリアに走るように歩みを進めた。

 武器防具エリア、急いでしまったからか息が切れている。呼吸を整え、ハゲの店ではない別の店の入り口を開ける。

 その入り口には弓と矢の看板が置かれており、中に入ると大小様々な弓や弩が置かれている。

 店のカウンターには茶色の髪と髭を蓄えたおじさん。俺はそのおじさんの所へ脇目も振らず歩み寄った。

「弓と弩《ド》、それと矢が欲しい。それなりの数なんだが、頼めるかい?」


 あいよ。と彼は一言いうと、こちらに向き直った。

「どんな弓をお探しで?」

「扱いやすいものがいいな。数としては弩《ド》は三つ、弓はそうだな……十くらいで。矢は百くらいもらいたいんだが、幾らになるか教えてもらえる?」


 ほいよ、と彼は少し考えていくつかの弓と弩を見せてきた。

「これとかでどうだい? 弩《おおゆみ》は一つ金貨二枚、弓は短弓なら金貨一枚、長弓なら金一銀五十、コンポジットボウなら金三枚だ。鏃は鉄、弓用のなら百本で金貨一枚、弩《おおゆみ》用のは二十本で銀五十枚だ」

 コンポジット……複合弓か。欲しいな、使える奴いるのか知らんけど。

 弩はこれでいい、問題は弓だな。狩り用に短弓、戦闘用に長弓って感じかな?


「それじゃあ短弓を三つ、長弓を七つ、弩《ド》を三つと矢をそれでいいので頂きたい。幾らだろう?」


 ほいほい、と彼は少し計算をしている。コンポジットボウは手が出せない、この時点で金額もそこそこいくなー。


「金貨二十一枚だね、サービスで二十枚でいいよ。いっぱい買ってくれてるからね」

「ホントに? 助かるよ、ありがとう」


 お礼を言いながら代金を出す。

 それを聞くと彼は「ほっほ」と笑っている。不思議な空気の人だ。


 その時、彼の後ろの弩に目がいった。少し不思議な雰囲気のボウガンだな、なんだろうか?

「おじさん、その弩は?」

「これかい? あまり手に入らない樹で作った弩《おおゆみ》なんだけどね。素材が高かったから値段も高くて、質はいいんだけど売れないんだよね」


 少し手に取らせてもらった。

 初めて触ったのに馴染むように落ち着くそれは、とてもいい物だとわかる。

「これいくら?」

「金貨十五枚」

 た、たけえ……! 悩んでいる俺を見て、彼はえ? 買うの? と言わんばかりの表情だ。


 でも、この弩は凄くいい出来だというのはわかる。先程の弩もいい物だけど、これに比べるとかなり落ちる。重さもかなり軽い、威力はどうだろうか?


「これ威力としてはどうなの?」

「さっきの弩の倍は出るよ、それに使われてる樹は風の精霊の寵愛を受けたと言われる樹で出来ているからね。矢に風の魔法が乗るんだ。それに手入れも殆どいらない」


 欲しい。その手の特殊武器は欲しい! 

 うぐぐ、と唸るように手の中のボウガンを見る。でもこれだけで金貨十五枚……十五枚! 歯を食いしばり、唸り続ける俺におじさんが決定的な一言を付け加えた。



「そんなに悩むなら、今買ったら鋼鉄の矢もつけるよ。十本な」

「買ったァア!」


 代金の金貨三十五枚を出し、袋に全ての弓と弩、矢を入れていく。

 いい買い物はできた! 高かったけど! これで残す金貨は八十五枚くらいと。


「ありがとうございました!」と言うと店主のおじさんは「またきてくれよ」と笑顔で手を振ってきた。


 コンポジットボウも欲しかったけど、弓力の問題や技術の問題もある。

 普通の長弓だったらリザードマン達が持っていたからなんとかなるとは思う。


 よし、これで次は……。

 俺は勢いそのままに昨日も立ち寄ったバーニーの店に来た。


「バーニーさんいますか!?」

「お、昨日の。どうしたそんな急いで」


 彼はちょうど店の入り口付近にいた。どうやら部下に何か指示を出していた途中だったらしい。


「酒を下さい! できれば樽で!」


 目的は酒である。彼は急に来た俺に嫌な顔せずに応対してくれる。

 酒は店の近くに樽で保管しているのがあるらしく、そこへ案内してくれた。

「でもいいのか? 昨日で結構金使っちまったんだろ?」

「ええ、ゴダール商会との取引がうまくいったので、なんとかなりそうです」


 そうか。と軽く笑いながら答える彼に連れられてやってきた場所にずらりと並んでいる樽の数々。

「この中の樽は赤、白、ピンクのワインとエールがある。俺が選ぶか? 自分で選ぶか?」

 正直自分じゃわからないが、「少し見てみます」と言いぐるりと樽を見回る。

 ううーん、やっぱりどれもこれも同じ樽にしか見えない。


 その時である。とある樽の前に行くと、ほのかに右手が温かくなった気がした。


「ん?」

 違和感を感じた俺は右手に注視する。なんか腕輪が……? なんだろう?


 一度離れ、もう一度その樽に近づく。

 すると再度、腕輪が少し暖かくなる。気のせいではないようだ。


 腕輪が選んでくれたのかな? しかしまたどういう事なんだ?

 まぁ自分じゃどれがいいかなんてわからないし、こいつにしよう!


「バーニーさん、この樽にします!」

「お、いい選択するな。そいつは結構評判のいい酒だぞ。相当出来がいい赤ワインらしい」

「それだとお高いんですかね……?」


 俺が恐る恐るそう聞くと、バーニーは笑い声を上げた。

「ハッハッハ! 大丈夫だ、昨日はこっちが高値で売らせてもらったからな。酒は半額の金貨五枚でいいぞ!」

「え、いいんですか? 相当いい酒って仰ってましたが」


 バーニーは楽し気に続けた。

「いいんだ、昨日の麦を買ってくれたサービスだよ」


 俺はお礼を言い、樽を購入してバーニーと一緒に店に戻っている。

 この街に来て数日間、少し不思議だった事を聞いてみる。


「この街の商人達はあまり足元を見るようなことがないんですね。商人の街というから騙し騙されの街だと思っていました」

「ん? ああ、この街は国と各商売の協会が取り纏めているから不正な取引はご法度なんだ。バレると舌を切られ街から追い出されたりしたりするんだぞ」


 うげ、結構リスクあるんだな。

「じゃあ公正な取引をしやすいって事ですか? 出し抜きとかありそうですし、街の中央に店を並べる商会の方が有利になったりしません?」


 彼は顎に手をやり「なんと説明すればいいか」と呟いている。

 そして続け様にこう口を開いてきた。

「この国のルールや、各商業協会のルールに反して汚い金稼ぎをしているとな? この国の場合その店に監査が入るんだよ。そして黒だと即全財産没収と国外追放、さっき言った舌を切られたり腕を切られたりした後でな」


 そうか、入国の時の水晶があれば嘘つけないしな。

 あれがどういう物かちゃんと調べてはいないけども……。

「それだけじゃなく、黒とは言えないグレーなラインだったり評判の悪い商会は街の外側に追いやられる。足元を見て巻き上げたりしたら街の外に追いやられてまともに商売なんてできないさ」


 つまり街の外側にある商会の中には危ない店もある可能性が……。危ない、次があっても街の外側には寄らないようにしておこう。


 彼は「それにな」と続ける。

「その評判も例えばお前みたいな行商で来た田舎者に国の人間が話を聞きに来たりして判断されたりもする。街の中央で商売をするっていうのは信頼できる店であるのは当然ながら、その条件で結果を出し続けてきた優れた商売人の証なのさ」


 確かにこの街で寄った店はどれもいい店ばかりだった。

 各商売エリアにそんな意味があったなんて。偶然ではあったが、街の中心に程近い店ばかりで商談してたしなあ。


 街のシステムで助けられてたんだな。

「そうそう、数年に一度、街の移転祭ってのがあるんだ。売上や評判、腕、色々な指標で各エリアの名店の場所が変わる祭りがあってな? 開催される時に来てみるといい。面白いぞ」


 その祭りは例えば一番腕のいい鍛冶師が誰なのかを出品された物で決める品評会が行われたり、一番の料理人を決めたり等を行い、各商売の一番を決める祭りなんだとか。


 因みに一番驚いたのは利《き》き勝負を行い一番を決める商業エリア。

 その優勝者ゴダール商会の会長ゾフィーア・ぜル・ゴダール氏は連覇中らしい。あの御婦人がドエライ人だった事を知って背中に汗を掻いてきた。


 そしてそこで一位に輝くと国指定の場所で商売が行えるようになるか、各協会の会長になれるのだとか。面白そうだな。機会があれば来てみたい。


 彼の店に戻り、早々に退散して宿に戻る。

 今日でこの街の夜ともお別れか。最後なんだから少しウフーンでアハーンのあるエリアへ……!


 いや、やめとこう……! 俺だけの金じゃないし……。

 くそー! 次はもっと鉱石持ってきてやるぞ!!


 俺は虚しい気持ちを抑え込み、街最後の夜を過ごした。


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