第24話 武器の工房とかドキドキする
「もう、お兄さん! 朝は自分で起きてきてよね!」
「ごめんごめん。ここのベッドの寝心地がよくて、疲れもあったのかな? ぐっすり寝ちゃったんだ」
プリプリといった具合に怒りを露わにしている宿の娘は、宿を褒めるようにそう言うと許してくれた。いい子だ。
受付であと二日程滞在させてほしいと申し込み、費用も払っておく。
朝食の時間は終わってしまったようで、食べることは叶わなかった。なので道中で軽く済ませつつ、目的地に向かっている。昨日一度下見に来ているので特に迷うといったこともなく、目的の店の前までこれた。中からは少し大きな声がする。
接客中だろうか? 少し気になるが、入ってみるか。
「お、来たぜバーニーあいつだあいつ!」
「おいやめろ、客に対して失礼だろう」
ん、何だろう。聞き覚えのある重低音な響きが聞こえたので、そちらを向くと。
「おう、朝からご苦労さん。少し遅かったな!」
そう声を掛けてきた昨日の武器屋の店長のハゲと、もう一人彼の隣にいるのは男性。こちらは少し体の線は細いが背が高く、目が切れ長で少し威圧感のある眼光をしており、金髪を後ろで纏め上げている男性が立っていた。
「いらっしゃい、俺の名はバーニー。ここで店を構えてる者だ。話はセバートから聞いているよ。大量に食料が欲しいんだって?」
彼は表情を崩すことなく、こちらに話を始めた。
どうやら昨日のハゲはセバートというらしい。頭頂部の輝きが激しい人は頭を一撫でして笑って話をしてくる。
「いやあ、無事来れたか気になってな。どうみても田舎者だったしよ!」
「どうもありがとうございます。心配してくださったようで」
「まぁ気にするなよ! じゃあ後は任せたわ! 頑張って安く仕入れて俺の所で高く買ってくれよな!」
そういうとハゲは手をひらひらと振りながら店を後にしていった。
いいハゲだ。頭頂部の輝きが今日も眩しい。彼を見送っていると後ろからバーニーが話を振ってきた。
「すまんな、気は回るんだが配慮が足りない奴なもんで。気を悪くしたら謝ろう」
「いえ、こちらを案じてくれたのですから。むしろありがたいです」
軽く鼻で笑うように「そうか」と彼は俺を店の奥に誘導してくれる。
さてと、頑張り時だ。二人で、応接のテーブルにつく。
ゴダール商会の時のような物ではないが、よく使いこまれ、またよく手入れのされたソファーだ。座り心地もいい。
「それで、どういった物をどれだけの量欲しいんだ?」
「そうですね、人口百人程が一つ、欲を言えば二つ季節を越せる食料が欲しいです」
思ったけど、この世界に季節とか暦とかあるのか? なかったら少しこの発言はまずかったかもしれないけど、バーニーと呼ばれる男性は特に気にしている素振りを見せていない。大丈夫そうだ。
「それならやはり麦、それか豆になるな。すぐに用意できるのはそれくらいだな」
「ええ、構いません。金額はお幾らになりますか?」
彼は少しこめかみに手を当てて考えている。何か不都合があるのだろうか?
「何か問題がありますか?」
「実はな、先の戦争で兵站となる麦等は結構高騰している。値段が少し高くなってしまうんだ。量を買うとなると金額もかなりの物になる」
そりゃまずい。当然といえば当然か、戦争してたんだし。
「いくらくらいになります?」
「お前の要求する量だと麦なら大体グスタール金貨二十五枚ってところだ。いつもに比べるとかなり高くなっているんでな」
少し量を減らすか? いや、これからまだ増えることも想定したらこれくらいの量は必要最低限だ。そこは譲れない。
武器や防具を買い直すのはまた今度にしておこう。仕方ないけど……。
「わかりました。それでいいですよ」
「いいのか? こちらとしてはありがたい話だが、それほど自由になる金額もないのだろう。セバートとも約束しているらしいじゃないか」
ハゲとどんな話をしていたのかは知らないが、武器よりは食料だ。
「それなら、バーニーさんがこれで少しでも儲けて、セバートさんにお酒でもご馳走してあげてください。お酒好きそうですし」
それを聞くと、何か面白かったのかバーニーは少し笑いを堪えている。
「あいつはアレで酒が飲めないんだよ。甘い物が好きなんだ」
衝撃の事実に理解が追い付かなかったが、それができると彼が笑っている理由も納得がいった。
「あの見た目でお酒がダメなんですか?」
俺は少し笑みを零してしまっているが、彼も笑っているんだ構わないだろう。
「ああ、エールどころか果実酒の一滴でも口にしたら裸になって街中で寝るぞ。迷惑だろう?」楽し気に語るバーニー。
ていうかセバート酒に弱すぎだろ。樽で飲みそうな感じなのに……。
「意外ですね、お酒好きそうでしたが」
「ああ、それで失敗もかなりしてるしな。おっと、話が逸れたな。では食料はそれでいいのか? 他に豆も金貨十五枚ってところになるが。どうする?」
「いや、こちらはもう麦だけにしておきます。次回にしておきますよ」
トントン拍子に話も纏まり、他に何かあるかなと考える。
「そうだ、野菜とかも大量に欲しいんですがどうですかね?」
「野菜? それなりに数は用意できるな。幾ら分欲しいんだ?」
うーん、他にも使いたいから……。
「金貨二枚分か、三枚分欲しいです。それが現状での精一杯なので」
「よしわかった。二枚分で揃えておいてやろう。種類はこっちが選んでいいか?」
そうだな、何が欲しいという訳でもないし。お任せしよう。
「ええ、こちらは問題ないです。長持ちする物をお願いします。今欲しいものはそれくらいです」
「そうだ、馬車はどうする? かなりの量になるが、こちらで手配しておこうか?」
ん、そういえばそうだった。この鞄の事は秘密にしたかったけど、仕方ないか。
「大丈夫です、収納魔法のついた鞄があるので。多分持って帰れると思います」
「ほう、随分と珍しい物を持ってるな。それがそうなのか?」
彼は指を差し、魔王から貰った鞄に注目している。
「ええ、まあ。ですので、多分持っていけると思うんです。」
「そうか、まぁもし持っていけなくても言ってくれれば馬車の手配はするからいつでも言ってくれ。じゃあ代金の方はこの紙をカウンターに持って行ってくれ」
彼は紙にいくつか文字を書き、内容を確認している。
「品はいつ渡せばいい? 一番早くて今日の夕方には渡せるようになるぞ」
「あ、なら今日の夕方に取りに来ます。場所はここで大丈夫ですか?」
大丈夫だ、と頷き彼が答えてくれたのでこちらも了承しておく。よし、これで最低限はなんとかなるな。
バーニーはソファーから腰を上げ、こちらに手を出してくる。
「こんな時じゃなきゃもう少し融通も利くんだけどな。もし次があるならまた来てくれ。サービスしよう」
こちらとしても、馴染みになっておいて損はないかもしれない。次があれば、だけど。
俺はペンダコが出来ている、まさに商人の手をとりがっちりと握手をしておいた。
「こちらこそ、無茶をいってすみません。ありがとうございました」
紙を受け取り、そのままバーニーに一礼をしてカウンターへ向かう。カウンターの女性に紙と代金を渡し、そのまま店を出た。
これで金貨は……細かい硬貨も入れて大体金五枚分ってところか。
これで次に欲しい物が手に入ればいいけど、難しいかな。この鉱石三つをそろそろ使うか。
大きい物はまだ使い時じゃないと思う。というより、あのゴダール商会のゾフィーアと呼ばれていた女性に売るのが一番いいというのを直感的に感じていた。
まぁ売れればだけどな、うまくいってくれればいいけど。
頭を掻きながら、俺は次の目的地の看板にハンマーやノコギリが描かれている鍛冶・建築エリアに歩みを進める。まだ日も高い時間帯だ、出来る限りエリアの外側に行ってみよう。
どうやら鍛冶建築のエリアの外側は修行中の人が中心のようだ。
一心不乱に木を削ったり、刃を研いだりしているがここ周辺で売られている物はどれも一級品と呼ぶには程遠い物だと思う。
ただどれもこれもが値段がリーズナブルなのがたまらない。
椅子やテーブルといった木工家具や陶器や石で出来た調度品、ショートソードなどを中心とした武器の数々、交渉の声に耳を傾けるとどれもかなり安いのだ。
そして、確かに一級品とは言えないがこの値段とその中でもいい物を選ぼうという、商品を一つ一つ殺気すら感じる空気を出しながら、手に取っている商人達の熱気もありかなり繁盛しているように見える。
食器の類や家具で必要な物はここで揃えた方がいいな。
数が必要だから値段を少しでも抑えておきたい。
ここには求めている物はないようだ。少し街の中央に近い大きい工房にいってみよう。何人かの職人が大きい馬車のような物の前で設計図面のようなものを手に話し合っている。ここで少し話をさせてもらおう。
「あの、少しいいですか? 欲しい物があるんですが」
一人は顎髭が特徴的な白髪の男性。他には茶髪の比較的若く見える男性と黒髪の坊主頭の男性がこちらに視線を送ってきた。
顎髭の男性は髭を弄びながらこちらに言葉を返してきた。
「なんか用か?」
「はい、実は車軸と車輪が欲しいのですが、出来れば鉄で。どこに行けばあるのか判らずこちらに伺った次第です」
茶髪と黒髪の二人の男性達は自分達には関係ないと言わんばかりに作業へ戻ってしまった。この髭の男性が話を聞いてくれるのだろうか。
「鉄でそれ一組欲しいなら大きさにもよるが金二枚だ。木製ならもちっと安いぞ」
「いえ、重量の負担が大きいと思うので鉄でいいです。長く使いたいので」
わかった、と彼は一つ頷き先程の黒髪短髪の青年を呼びこちらの注文を伝えている。少し先程の馬車を見ると、遠目に見えるから正確にはわからないが技術自体はやっぱりすごいな。
ただ車輪に不思議な色をした皮のような物を巻き付けていたり、日本では見る事のない素材があちらこちらに使われており見ていて少し楽しい。
そういえば、こちらの世界でも馬車なのだろうか? 馬以外に輸送や乗り物として適した動物がいるかもしれないな。
そうしていると、白髪の男性がこちらに声をかけてくる。
「おう、ちょうど少しデカい奴が余ってるからそれもってけ。金二枚で軸も一本オマケにつけといてやる」
おお、ありがたい。
「いいんですか? こちらは助かりますが」
男性は再度自身の髭を指で摘まむようにしている。
「おう、依頼の途中でご破算になっちまった部品だからな。溶かしちまうかって話だったんだがちょうどいいからもってけ!」
ありがとうございます! と頭を下げ、代金を支払う。
さて……、問題はここからだ。
商品の車輪と車軸、かなりの大きさだし重さも相当だろう。
鞄に入るかな? ダメだとこれキャンセルになっちゃうんだけど。
車輪の近くに鞄を広げ、その上にスライドするように車輪を動かす。鞄の口に車輪が乗るや否や、吸い込まれ消えていった車輪。
おお、明らかに容量以上の大きさなのに普通に入った、これやっぱり超便利だな。
車軸は普通に持てる重さだったが、俺も少しは筋力ついてきたかな? 成長しているのが感じられるのは少し嬉しいが。
車軸も二本鞄に入れることができたし、ここに用はもうない。
白髪の男性に再度お礼を言い、工房を出た。
この工房が集まっている場所の中でも一際打たれる鉄の音の騒々しい場所にやってきた。ここならよさそうだ。
「おう、兄ちゃん。なんか用か!? 商人が来るような場所じゃねえぞ!」
周りの音の嵐に負けないように声を張り上げる小さな背丈のおじさん。伸びた髭と丸みのある体。薄着から見せる筋肉は、熟練の鍛冶師の証明だろうか。
彼の容貌はまさに様々なファンタジーの世界で著名な種族の一つだった。
「ど、ドワーフ……?」
「おう、ドワーフが鍛冶やってんのが珍しいのか!? ここらで鍛冶やってねえドワーフの方が珍しいと思うがな!!」
この工房の大多数はドワーフで、彼らによってこの音の荒波は起こされているようだ。
ここがいい。交渉の遣り甲斐がある。
ただこれで失敗したらもう頼みの綱がゴダール商会しかなくなってしまうが、当たって砕けよう。俺、この街に来てから当たって砕けろばっかりだなあ。
この工房の音に負けないよう、大きく叫ぶために肺に空気を送り込む。
「この工房の全員に話がある! 腕に自信がある鍛冶師は全員聞け!!」
さぁ、交渉を始めないとな。
少しすると、手が止められる者が集まってきた。
荒々しいという言葉が似あう連中はなんだなんだと言いながら、俺の近くに寄ってきた。それに伴って、騒々しい音も少し静まる。
俺は鞄から嘆きの山の拳大の大きさの鉱石を取り出した。そして彼ら全員に見せるように前に出す。
「俺はこの鉱石をここに売りに来た」と言うと、彼らは少し不思議そうに石を眺めていた。
「この石は、貴方達の知っている鉱石と少し違う。だが秘めている物はかなりの物だと思ってくれていい。これを買ってもらいたい」
そういうと、流石にこの道のプロ達からは非難される。見た目通りの野次をありがとう、そう思っていたら最初に声をかけてきたドワーフから話を切り出してきた。
「おい兄さん、そんな話を信じろと? 何かもわからない物に金を出すほどドワーフはバカじゃねえし、もしバカにしてんだったら袋叩きにして炉にいれちまうぞ?」
殺人予告やないか。
少し腰が引けてしまうが、お金の為だ。腹を括れ自分と気合を入れる。
「なら貴方達の内、誰でもいい。この石を少し弄ってみろ。なんだったら炉にいれたりしても構わないよ」
ガヤガヤと騒ぎ出しついには酒を持ち出してくる奴もいる中、先のドワーフが代表して俺から石を奪うように持っていく。
「うん……? なんだこりゃ見た事ねえ色してんな。少し削ってみるか。おい! 誰か道具持ってこい!!」
鉱石に相対するように先程のドワーフが道具で削ろうとしており、もう一人がやっとこのような物で固定している。
そして、彼がハンマーを振り下ろし金属の奏でる高い音が何度か木霊する。
何度かその金属音を聞いていると、彼が不思議な物を見るような目でこちらに視線を送ってきた。結果はわかっている。壊せる訳がないと。
「おいお前、こりゃなんだ! まるで歯が立たねえぞ!」と血相を変えているドワーフ。そして「お前の力が足んねえからだ!」と次々に現れる挑戦者達。
一頻り挑戦者達が敗北したところで、さらに鞄から粉を入れた袋を出す。
「なんだ、削る事もできないのか? ほら、砕いた物だったらここにあるぞ」
彼らは一気にこちらに近寄ってきて、袋から少しずつ粉を摘まんで手に取っていく。おいこれも商品なんだ持っていきすぎ!
彼らは感嘆の息を漏らし、一人一人が感触を確かめている。中には舐めている奴もいるくらいだ。
「この石の価値、軽くわかってもらえたかな? なんだったら少し熱してもらってもいい。好きにやってくれて構わない」
俺のその発言で、ドワーフ側にも少し楽し気になってきている者も見えてくる。大概は酒を飲んでゴキゲンになっているだけのようにも見えるが……。
「おい! 一番炉使ってないよな! 使うぞ!」と何人かのドワーフが石を持って工房の奥に行ってしまった。小さい子供が遊び道具を手に入れた様にも見えるその光景はどこか面白い。
今のうちに少し話をしておくか。
「あの鉱石は貴方達のような職人じゃないと加工する事は難しいだろう。だができる品は一流だと思ってくれていいぞ」
俺はまた鞄の中に手をやり、念のために入れておいたとある物を出した。
それは以前に魔王から貰った羽根ペン。そのペン先を彼らに見せるように一番近くのドワーフに渡す。
「そのペン先に使われているのは先程の鉱石からできた物だ、どうだ?」
数人のドワーフが食い入るように見て、何かを確かめるように触れている。
いい感触だ。
「ああ、こりゃ確かに美しい。それにこの強度。簡単に折れそうな先端なのに、力を入れてみてもまるで弾かれるような強さを感じる。しかも、多分だがこれでもまだこの鉱石の美しさを引き出しきれてないぞ……」
おっと、嬉しい誤算だ。でもそうなるとこの鉱石ってどれだけのポテンシャルを秘めているんだろう?
「どうだ? 欲しくならないか? この石を使って、自分の好きな物を作ってみたくならないか?」
彼らはごくり、生唾を飲むように静まっている。
いつの間にか酒を飲む手を止め、こちらの話を静かに聞いている。
ここしかない! そう確信した俺は再度、袋に手を入れ拳大の鉱石を二つ取り出し彼らの前に並べた。
「この鉱石、幾らで買う?」
まあ、ここで売れなくてもゴダール商会に持っていこうと思ってるから別にいいのだが。石塊もある事だし、俺自身がこういうところに顔を出してみたかったという好奇心でしかない。
そして鉱石から視線を外す事のないドワーフ達を眺めていると最高に楽しい。
そうしていると、後ろから叫ぶようにこちらに告げてきた奴がいた。
「全部買おう! 粉はサービスでつけろよな!」
後ろからやってきたのもドワーフ。だが彼は他のドワーフと違い、顎髭を結わえて纏めている。
リーダー機か!?
「貴方は?」
「儂はここの工房長をやっとるドゴ・モスキン。おいお前、この石ここ以外にも売っただろう」
おや、どうやらゴダール商会の貴婦人はフットワークの軽い人物のようだ。
俺は軽く頷き彼の言葉を肯定した。
「ああ、ゴダール商会のゾフィーア様に売ったな。それがどうかしたか?」
モスキンは俺のすぐ近くにやってきて、地面に腰を下ろした。
俺も釣られて腰をすぐ近くに下ろしてしまったが……。
「実は、俺は今の今まで鍛冶連盟の会長のところにいたんだ。そこでこの石と同じものを見せられた。何故だかわかるか?」
何故と言われても……? 首を傾げてモスキンの次の言葉を待った。
彼は腕を組み、こちらを睨むようにして口を開いた。
「この石、強度が強すぎて殆ど形が変わらねえらしい。火も生半可なもんじゃ弾かれるようにきかねえ。相当なげえ時間をかけて溶かした鉱石を少しだけ鍛錬したものを見せつけられたのよ!!」
最初に精錬する作業をする奴かな。それにしたって何故そこまで興奮しているのか?
「あの野郎、その鉱石を自慢するかのように見せてこう言った!! 『この美しい鉱石はやっぱり街一番の名工の手で加工してやらないとな』なんてニヤケ面でな!!」
モスキンの言葉を聞いた途端に、周りのドワーフ達が少し怒りを露わにし始めた。
なんだなんだ? どういうことなんだ? 事の経緯を続ける程に、モスキンは怒りのボルテージを上げていく。
「人間の癖に舐めやがって! ドワーフの意地を見せてやりてえが素材がねえ! 怒りで頭がどうにかなりそうなところにお前さんの話よ! そりゃどうするかなんて目に見えてんだろ!!」
つまり鍛冶連盟の会長の人間に、ドワーフがバカにされたと。
そして、素材がないところに俺が持ってきたのがその鉱石と。
あれ、流れきてるじゃん! 乗るしかねえ!!
俺は勝利を確信し、浮かんでくる笑みを堪えるのに必死だった。
「じゃあ買うってことでいいんだな?」
「当たり前だ!! ……と言いたいところだが、問題がある」
モスキンは目を瞑り、腕を組みながら少し自制するように呼吸を落ち着かせそう言ってきた。
そして目をくわっと開き、こちらに力強く言葉を放ってきた。
「金がねえ!!」
「はい?」
「金がねえんだ!! 殆ど酒になっちまってな!!」
彼は力強く再度こちらを見据えてそう言った。俺は心底落胆して、大きく息を吐いてしまった。
「じゃあ、今回は縁がなかったということで……」
俺は撤収しようと鞄に鉱石と袋を入れようとしたところで、モスキンは慌ててそれを制止してきた。
「待て待て待て! 出せる金貨は五枚しかねえが武器を一本タダでくれてやる! 金貨十枚以上の価値のある武器を選ばしてやるからそれで折半にしねえか!?」
お、それはいいな。
金貨五枚と武器一本ならむしろ大儲けじゃないか? ドワーフの武器だし!
それを快諾するとドワーフ達は三振りの剣と二本の槍をこちらに持ってきた。俺はとある一本に目を奪われ、つい手に取ってしまった。
その剣は不思議な魅力に満ち溢れ、工房の炎の揺らめきに合わせるようにその木目の刃を輝かせていた。
「これにします」
「お? それでいいのか? まあどれも俺達の自慢の一品だからな。値打ちもかなりのもんだぞ。そのダマスカス鋼の剣も金貨二十枚くらいは優に超えるしな」
ダマスカスの剣を貰い、代金の一部の金貨五枚も手に入れた。
モスキンはありがとよと言うが、こちらとしてもかなりいい物を手に入れることができた、礼を言うのはこちらも同じことだ。
鉱石を受け取り、鍛冶連盟の会長とやらに叩きつけられた挑戦状に火がついたドワーフ達が鉱石をどうするか既に酒を片手に話を進めている。
長居は無用だ。早々に退散しよう。
「じゃあこれで失礼しますよ、モスキンさんまたよろしくね」
モスキンはこちらを見ることなく既に鉱石から目を離さない。そして言葉は聞こえたのか「ああ」という言葉と手だけで反応した。
俺は工房を出て、暫く散歩をした後バーニーの店に行き見上げるような食料と「サービスしといたぞ」という言葉を袋に詰め込み、街での二日目を終えた。




