第18話 HCパッサンG
魔王が久々にやってきて、あまりこちらの手伝いを出来ていない事を謝罪された。確かにゴブリン殺したり、森の賢者と邂逅したりと色々あったが僕らは元気ですという小学生の書いた手紙ばりの返答をすると、彼は安心したようだ。
今は彼がいない間に起きた事を掻い摘んで説明している。
「ふむふむ。それではホリ殿、今朝リザードマン達は旅立ってしまったのですか。それは残念、彼らの状況も確認しておきたかったのですが……」
「そうですね、それに彼らも村の者を説得してから更に人数の多い移動ですしね。無事に来ることもそうですが、時間がかかるのも心配です。体力のない者や怪我をしている者もいるかもしれないですから」
ペイトン一家もここに来た当初は割とボロボロだったな。彼らが来たのも割と最近の筈だが、ずっと前からいたような気がするくらい馴染み、打ち解けてると思う。
いい事だ。
「リザードマンは近接戦闘も強く、大多数が魔法も使用します。戦闘力はかなりありますから、心配はいりませんよ。大丈夫だと信じましょう」
とペイトンが教えてくれた。
食後だった事もあり、久々にやってきた魔王と他のみんなで報告も兼ねた雑談をスライム君の紅茶を頂きながらしていた。
スライム君と魔王がこの後二人でポッドのところへ行くようなのだが、出来る事なら土を掘り返しておいてくれると助かる。その事を話すと心よく了承してくれたので、お任せしておこう。
こちらは割と急ぎでリザードマン用に洞穴の整備をしないといけないのだ。時間的余裕はあまりないと思う。
という訳で別行動が開始となり、俺の横にはいつものようにシーが並んでいる。
「さてと、外部を行き来する為には階段だよな……、でもどうやって作ろうか?」とシーに聞いてみる。彼は首を傾げて少し考え込んでいるが、思い浮かばないようだ。
ああ、そうだ。
「螺旋階段にしようかな。正確な図面も道具もないけど、最後壊してしまうかもしれないものだし、緊急措置としてはいいだろう、多分……」
問題はどうやって作るか……。
ええい、わからない! もういい! スコップで掘りながら考えよう!
一定距離坂道を作り進んだところから螺旋スタートだ。
大体四歩から六歩の歩測で半円を回るようにスコップで階段を掘り進める。
大体ではあるが四歩目で大きく曲がり始め、五歩目のカーブ、六歩目で終わるという形になってきた。後は歩きながらバランスを取りつつ掘っている。
強度確保の為に、少し進んではハンマーで地均しという工程もしていたが、少し角度が急だっただろうか。いっそ滑り台のようになってしまいそうだ。
「あ」とソレに気付いた時に不意に口から出てしまった言葉にシーが反応した。
「地上のラインがわからん……! どこまで行けばいいんだこれ」我ながらアホだなあ。
一度上まで戻り、下からでも場所が分かるよう確認と目印をつけながら、地上から緩やかな坂道を作り少しでも高さも稼いでみた。失敗したらもう今日は不貞寝でもして過ごそうと心に誓っているが、ダメだった時のショックが大きそうだなあ。
地上から山頂を何度か行き来して大体の歩測も同じくらい。地上からの坂道を余裕を持って作ってあるし、これでいいだろう。
その時、横から服を引っ張られた。服を引っ張っているシーが、鉱石をこちらに見せていた。
そして、今掘削をしている鉱石と手の中の鉱石を交互に指さしている。
「んー? 何か言いたいことあるのか。わからんな、どうしよう……」
持っている鉱石と掘削したばかりの鉱石……? そして彼は行動で表現をしてきた。
最初はスコップで採掘をしているアクション、そして石を指差す。
またスコップを使う仕草をし、再度指を差す。そして手を使い、大きさが違うというアクション……? 最後に俺のスコップを指差している。
「……ん? もしかして、これって最初の頃にスコップで掘った鉱石?」
シーは強く頷いている。
「もしかしてだけど、最初の頃に比べて一回で掘れる量が増えてたり……とか?」
シーは何度も首肯する。
「つまり、シーは腕輪の道具がレベルアップしてるって言いたいのか」
コクコクと頷き、ふうと息を吐いている彼。安堵しているようだ。
「そういえば、あまり意識はしていなかったけど、一度にスコップで掘れる量が多くなっているような……、というか意識したら大きさとか変えれたりしないかな?」
とシーに尋ねてみると首を傾げている。
ちょっとやってみるねと告げ、できる限り大きく掘れろと念じながらスコップを振るう。ぼごりという音が出ていそうな具合に抉り採れる。
スコップの剣先から大きくはみ出して採れているので気持ちがいい。
今度はスコップの勢いはそのままに頭の中では小さく小さくと念じながら突き刺す。スコップをそのまま戻すと、剣先の上には拳大の大きさの鉱石が。
「お! シーすごいよこれ! ホントに大きさ変わったよ!」
新事実にシーと二人で喜びを分かち合った。さすが神様の腕輪だ!!
――だからなんだ! とは軽く思ったが。
「あのイケメンが……!」
「?」という具合に首を傾げるシーに「なんでもない」と返しておく。
些細な事にも気づいてくれる彼に感謝を伝え、改めて作業に戻る。
かなりの時間を費やしたが一定の深さまで掘り下げたところで地面に空洞が生まれた。どうやらたどり着いたようだ!
一度上に戻り、運搬を続けてくれているシーとリザードマン移住予定のところで冷やしておいた水を飲む。集中していたからだろうか? 喉がカラカラだ。
時間もかなり日が陰っており、もうすぐ夕方といったところだ。
「ごめんね、昼めし食べそこなっちゃったね」と、ずっと作業を付き合ってくれた彼に撫でながら謝罪をしておく。階段の上り下り、しかもかなりの重量の鉱石を運びながらだ。
それでもシーはずっとこちらに合わせて付き合ってくれるのだから、彼のおかげでこんな短時間で終わったという事実に違いないだろう。
「そういえば、以前に比べてシーが力強く感じるなぁ。俺も結構体力ついてきたのか、前みたいに夜になったら気絶するみたいに寝るってことも最近少ないし」
剣の稽古や魔法の稽古も、以前だったら疲れて出来ていなかったのが、割と長い時間稽古の時間を保てるようになった。運動不足の日本人から、少しは動ける日本人くらいには慣れただろうか? 比べようがないからわからないが。
シーも軽々と運んでいるけど、あの鉱石もハンマーで圧縮してるから割と重量あるんだよなぁ。
「成長してるってこと……、レベルアップ的なことかな? シー達はよく戦闘もしてるし、もしかしたら近い将来進化したりしてな」
笑いながら言うと、彼は拳をグッと握りしめてポーズをしている。
でもゴブリンの進化ってあれだよな。ホブゴブリンとかいう……、結構大きくなるんだっけ? 俺よりでかいマッチョのゴブリン三人に囲まれてるところを想像したら……、ちょっと嫌だな。
休憩も少しできたし、今日の締めくくりにと地上から階段部へのルートを確立させて終わった。地上からは建築用ブロックと化した鉱石を積み上げ、道とした。
スコップも成長しているのなら、ハンマーやツルハシも成長していくのだろうか?
つるはしで地割れが起きたり、ハンマーで大きな風穴が開いてくれたら掘削が楽になっていいのにな……。
洞窟から作業を終え、外に出ると夕刻になっている。
「完全に暗くなる前に急いで帰ろう」とシーに言って、家路を急ぐ。
そういえば、魔王は何をしにきたのだろう? いつも何かしらあるから、今回も何かあるのかもしれない。まだいれば聞いてみよう。彼にもソマの実を食べてみてもらいたいが、魔王に食わせるモノでもないかな?
ただいま、というとおかえりと一同が返してくれる。
スライム君とパメラの料理班は、今日はほぼ一日中新食材の実験をしていたようだ。その結果出てきたものが、トマトスープに実が煮込まれいる雑炊のようなものと、そばがきを焼いたもの。
そばがきを焼いたものは味付けを変えてあるようで、色とりどりだ。
魔王も、スライム君達から新食材の話を聞いたのか少し楽しみにしているように見える。顔が不敵に笑っているようにしか見えないから怖い。
「イタダキマス」とほぼ全員が言い、手を合わせる。
今日もスライム君に感謝だ。
楽しみにしていた雑炊は意外な味付けで、舌をピリリと痺れさせる。ちょっぴり辛味のあるスープだが、実の味とよく合っていてとてもおいしい。
焼き物も頂いてみよう。緑色の物やオレンジ、赤といった具合に様々だがどれからにしようとスライム君に聞いてみると緑は野草、オレンジは少し酸味のあるもの、赤は辛いものといったバリエーションだった。
彼のおすすめは緑だったので、緑を頂く。
マイルドな苦みと野草の香り、あとは何かの油の香りだろうか? お酒が欲しくなる味付けだ。オレンジは柑橘系の酸味が香る味付けのようだ、お口直しにちょうどいいかもしれない。
そして赤いのは以前に使った油の分量を調整し、少し手を加えたもの。これが一番人気があった。
少し夜風が冷たく感じたが、辛い物が多かったか為、みんな食事を食べ終わる頃にはポカポカとしていただろう。
「魔王様、どうでした? 新食材。結構受け入れられてるんですが……」
「うむ、そうですな。私はあの辛い焼いた物が最高でした! あれと緑の奴があればうまい酒が飲めそうですな! 今日は持ってきていませんが……」
酒、酒なぁ……!
まだまだ嗜好品なんて楽しめる環境じゃないが、たまに飲みたくなっちゃうんだよな……。特にこういう辛い物があると欲しくなってしまう。
「わかります、スライム君の料理はおいしいですしね。彼の貯蔵庫がどれだけ広いのかわかりませんがかなりお世話になってますよ」
「彼はあれでかなりのツワモノですからね。収納魔法も相当な物だと思いますよ。まあ教えてくれませんが」ハハハと笑っている。
「そういえば、魔王様は今日どうしてこちらに? 様子を見にきてくれただけですか?」
彼は手をポンと叩き、要件を思い出したようだ。
「おおそうでしたそうでした。色々あって忘れていましたよ。渡しておきたいものが数点あるのです」
そういい、彼の右手が光り出す。
食休み中だが、スライム君とパメラは食器を全自動食器洗い機で洗っているので席を外している。残りのメンバーはゆっくりとしていたが、魔王が何か始めたのでこちらを注視している。
「まずはこれです」と取り出されたのは一足の革製の靴……。
靴というよりブーツに近い、エンジニアブーツと呼ばれる奴に酷似してる。
次に出されたのは新緑の色をした……マント? マントなら以前に貰った奴があるけど、主な使用目的は枕になっているが。
「最後にこれです。これはかなり凄いシロモノですよ!」と取り出されたのは、三本の瓶。中に液体が入っている。
「一つ一つ説明しますね」というと、魔王は何かが書かれた紙を出し、読み始めた。
「この靴はホリ殿から貰った素材を使い、爪先から足首までを保護するように作られています。装備者の体から出る微弱な魔力で重さが軽量化するという優れもの! さらに魔力を使うと一定時間壁や天井を歩けるようになるという逸品です!」
そりゃすごい、安全靴に魔法の力で壁に貼り付けるとは……!
「ブーツの名前は『ミズムシンX』です」
「えっ」
「『ミズムシンX』です」
ブーツだもんな。仕方ないよな。いやこの世界のミズムシが日本の水虫とは限らない。ミズムシンさん作の物かもしれない。
「次にこのマントですな。これは大気中の魔力を取り込み、水を弾いてくれる物です。洗濯が難しいですね。このマントの何よりも凄いところが、魔力をかなり消費しますが周囲の色に擬態できるところです。いざという時に隠れられるでしょうな」
すごい、ステルスマント? かなりの優れものじゃないか。
「このマントの名は『ファッサァマント』です」
「……ん?」
「『ファッサァマント』です」
マントを靡かせれば作成者は満足なのかな? それにしても他になかったのか。
「魔王様、最後のこれは? 装備品のようではないみたいですし。回復のアイテムとかでしょうか?」
俺の質問に、魔王が不敵に笑っている――
「これまでの物は魔王軍開発部の努力の結晶でしたが、コレは開発部局長であり、魔界の開発王エジッスーンの新作です! その名も……」
その名も……? 気づけば皆が魔王に視線を向けている。
「『ハイパークリエイターパッサングレート』です」
「はい?」
「『ハイパークリエイターパッサングレート』です」
少し頭が真っ白になってしまった。
なんじゃそりゃ! と言いたいが、エジッスーンの凄さはあのインクで分かっている。相当な品なのは間違いない。
魔王がその液体の説明に入る。
「これはおよそ数十秒で家を一件建てる魔界の武闘家パッサンの溢れ出るエキスの成分を抽出、熟成と培養を繰り返し出来上がったポーションですね」
なんだその正拳突きが得意そうな奴は。全く口にしたくないなその薬。
「使用すると、限界を超えた動きを出来るようになり残像が見える速度で作業ができるとの事。少し意識がなくなりやすくなると注意書きがありますね。これを飲んで掘削作業をすればグンと作業効率が上がりますよ!」
す、すげえ……! 限界を超えてみたいけど、どう考えてもヤバい薬だ……!
「使う前にお腹いっぱいご飯を食べましょうと追記されてますね。よく意味がわかりませんが……、まあ明日使ってみてください! そして使用した感じを報告していただければ次回に生かせます!」
モルモットは俺なの……? 魔界側で実験してくれよ。
「ちょっと怖いですが……、明朝のご飯を頂いたら試してみます。その前にこのブーツとマントを使ってみていいですか?」
「ええ、どうぞどうぞ。以前に比べて、ホリ殿も少し魔力が感じられます、大丈夫でしょう」
訓練の賜物だろうか、魔力が無いということにはならないようだ。ブーツとマントを装着し、使い心地を確かめておく。
履いてみて、履き慣れたもののように足に馴染んでいる。サイズは大きそうに見えたのだが、そんなこともなかった。
マントも少し光沢を感じる質感で、手で触れてもレインコートのような感じではなく、普通のマントのように思えるほど柔らかい。
ブーツに魔力を集中させるようにしてみる。これでいいのだろうか? ちょっと壁を上ってみようと拠点を出る。
壁に右足をかけると、吸いつくように足がつく。
勢いそのまま、左足を上げそのまま壁を歩く。そして歩いてみたり、走ってみたりとやってみる。
「おぉ、すごい! 普通に歩けるぞ! 重力に引っ張られるような感覚もない! これめちゃくちゃ便利じゃないか!」
壁に立つようにしてる俺を見て、魔王以外の面々が感嘆の声を上げる。
「アリヤ、少し手を引っ張ってくれる?」と頼み、踏ん張る。
彼に軽く手を引っ張ってもらったが、落ちることもなく踏ん張りもきく。
これかなり優秀なアイテムじゃないだろうか? 何かの間違いで作業中落ちても、足さえつけばなんとかなる……かな? 後はどれだけの時間効果が維持するかだな。
靴を壁に貼り付けるようにして、離れないのでそのまま放置しておく。落ちるまでの時間が見たいからだ。
後はマントか。
マントに魔力を集めるように集中するが、何か変わった様子は見られない。魔力不足かな? もう少し頑張って集中してみようと目を瞑る。
「カワッタ! カワッタ!」
という声が聞こえたので目を開けると、成功しているようだ。
自分では確認が難しいので、シーにマントを装着して試してもらった。
彼が魔力を込めると、消えるように周囲の景色に溶け込んでいる。
「すごいね、夜にこれを着て隠れたらそうそう見つかることもなさそうだ。逃げる時とかにかなり有利になるね」
ゴブリン達はマントで遊んでいる。シーくらいになると普通に使いこなせているようなので、魔法技術も精進させていかなければ。
使い勝手の良さそうなこの二つの品の仕様を具体的に魔王から聞き、わかったことは靴の方は一日一回、魔力を込めれば大丈夫だが、マントの方は俺の力ではまだ使いこなすのは難しいかもしれないという事だ。
「試してみると、かなりいい感じですねアレ。作業も捗ると思います」と言うと、魔王も満足そうにしている。
あと魔王に話しておきたいことが一点あるのを思い出した。
「そういえば魔王様、一度人のいる街か何かに行ってみたいのですが」と言うと、周りから「えっ?」という声が聞こえてきた。
「ふむ、いきなりどうしたのですかな? 人が恋しくなったという訳……でもなさそうですね。理由をお聞きしても?」と魔王は少し驚いたのか目を見開いている。
防御力が低下しそうな眼差しを堪え、考えを伝える。
「いやあ、今度リザードマンがくるとなると、本格的に食料が厳しいラインだと思うんですよね。物資もなく、ゴブリン達やペイトンの武器もかなりボロボロですから、色々と補給したいんです。お金は……、食料に消えていったモンスターとかの魔石や素材を売ったらなんとかならないかなと」
魔王は合点がいったように何度か頷いている。
だが、ペイトンやゴブリン達は少し納得がいかないようだ。即座に反応してきた。
「ホリ様、我々の事は気にしないで下さい。人族の里に向かうなど危険です! どうかお考え直しを!」とペイトンが声を荒げるが……。
「いや現状でもかなりギリギリで、もし仮にリザードマン達が想像よりも悲惨な状態だったとしたら、現在の状態じゃ支えきれなくなるのは明白だからね。これを譲るつもりはないんだよ。勿論問題はあるんだけどね」
人族の、それも割と大きい街に行き、食料をある程度確保する。金銭の問題もあるけど、出来れば武器もそれなりの数は用意したい。
そうすれば、短い間でも食い繋いでいけると思ったのだ。
「それに、これは俺だからできるんだよ。魔族側にいる『人間』だからね。何かをやらかしたりしない限り、いきなり殺されるようなこともまぁ……ないんじゃないかな?」
魔王以外は否定的だ。その魔王も腕を組み、唸るように考えている。
「ほら、うまくいかなかったらすぐに戻ってこれるしさ。成功したら儲けものってくらいの気持ちだよ。あとは色々試したいこともあるしね」
魔王がこちらを見やり、ついに口を開いた。
「わかりました。人族の街の近くまでは私が護衛しましょう。それと行く日程ですが、暫くは待っていただけますかな? こちらも用意をしておきますので」
「はい、言っておいてなんですがそんなにすぐにとは思っていません。できればリザードマンを迎えた後くらいが一番タイミング的にもいいでしょう。彼らも近くに人間がいたら嫌だと思います。少し落ち着いてもらいたいですしね」
ゴブリン達は何故か泣きそうだ。え、人族そんなやばいの? 少し行くのを止めたくなってきたぞ。
「そうですか、ではこちらもそのように。私は今日から三回ほど太陽が昇ったらまたこちらに来ます。出発は早朝にして、それに合わせてこちらに来ますね」
と魔王が決めてくれた。三日後の朝に旅立ちか。
「ええ、できればそれまでに今日山に造り上げたルートを使い勝手良くしておきたいのでちょうどいいです。明日早速コレを使わせてもらいますよ」
コツンとテーブルの上のポーションを指で小突いた。
「わかりました、では私はこれから戻り、急ぎその準備を整えておきましょう。皆の者も不安なのはわかるが、これはホリ殿にお任せしよう。よいな?」
魔王は周りを見渡し、反論がないことを確かめた後立ち上がった。
「では約束の日の早朝また参ります。それまでこちらの方でも色々と準備をしておいてください」といい帰っていった。
魔王もかなり言いたい事はあるんだろうが、こちらを尊重して堪えてくれたんだろう。感謝だ。
「さて、みんな今日はもう休もう。話は後日聞くからさ」と今日は解散の流れにしておいた。
その日は寝るまで、ゴブリン達は何も言わなかった。
次の日の早朝も若干空気が重たいような……。
あまり気にせず、何かあれば言ってくるだろうと食事をたらふく食べ、例のポーションを使う為に階段を上がっている。
この階段も少し狭いか……? かなり余裕を持って作ったと思うんだけどもう少し余裕を持たせた方がいいかもしれないなー。
そして頂上付近で、HCパッサンGを取り出し改めて眺めている。試験管のようなものの中にはキラキラと揺らめく液体……。
蓋を開け、恐怖心を抑え込むように深呼吸。
シーに「何かあったら頼んだ」と伝え、一気に飲み干した。
――飲み干したと同時にその日、俺の意識が戻る事はなかった――




