第130話 プレゼントにボックス
商売が盛んという都合上、様々な物が流通しているこの街ではまだまだ俺の知らない未知の物、そしてもしかしたら俺の知っている何かがあるのでは、と道すがらにある露店などにも絶えず気は配っている。
ただこうして美しい白い街並みをブラブラ歩き、威勢の良い大きな声が聞こえてくる度に心惹かれて視線を移し、扱われている物を見る、とやっていると時間が過ぎ去るのも当然早い。
どうしても並べられた商品に興味が沸いてしまって、どういう物かと話を聞いている内に興味が突き抜けて購入してしまっているのもよくある事。
この街の商人には絶好のカモとなっているだろうな、俺は。
何度来ても本当に、何とも怖い街だ。
今、目にする商品の多くは次の目的地がバーニーの店という事もあり、食料品かそれに関連する物が多い。
露店に並ぶ色味の激しい野菜や果物や、地味な色合いの食料品、その食品の横にはついでに買っていけと言わんばかりに並べられている食器など、とにかくそれらのおかげで散財してしまっている。
どれも種がある物を優先して買っているし、もし拠点の皆が気に入る物があれば栽培できるかペイトン達に聞いて後は丸投げしよう。
今思えば、ポッドとドーリーの存在も大きいよなぁ。気合を入れるように種に向かって一喝すれば芽が出るなんてズルい。
そうして、ありとあらゆる物をコンプリートしてしまうような勢いで片っ端から露店を覗き、あれこれと質問をしてはその店の商品の大部分を買って次へ、とやっている内にバーニーの店へ到着する頃には昼食時。
ちょっと会うには失礼な時間かな? と思いつつも店の中へ入り受付の人に声をかけようとしたら、後ろから肩を叩かれた。
「ホリさん、お待ちしてましたよ」
声のした方へと振り向くとそこに居たのはバーニーの奥さん。微笑む彼女の手元にはこれでもか、と野菜や果物のような物が入っている籠がある。
「すみません、もう少し早く伺うつもりが道中にある露店が面白くて、つい寄り道をしてしまいました」
「フフ、この辺りの威勢の良さは楽しいですよね。さぁ、主人が待ってます。こちらの方へどうぞ」
バーニーの店の奥へと案内され奥にある一室の扉を開けると、そこでまず目にしたのは一口サイズにカットされている野菜や果物の数々。それが大きなテーブルに所狭しと並べられていた。
それを用意していたのであろうバーニーの姿も見え、彼は何かに気付くと素早い動きで奥さんの元へとやってきた。
「お、来たな。待ってたぞ、おいカリス、身重なんだから無理するな」
「これくらい大丈夫よ、もう」
奥さんが持っていた籠を奪うように取り上げ、すぐ横にある棚へとそれを移した。
その彼の行動が可笑しかったのか、くすくすと小さく笑っている奥さんと恥ずかしそうにしているバーニー。
そういえば、彼の奥さんは昨日の食事の時もその前も、お酒は飲んでいなかったような……?
しかし何だこの甘ったるい空気。薬草汁をバーニーにぶっかけて懐妊祝いでもしてあげようかな?
二人は少しいちゃつくと俺の存在を思い出したようにこちらへ視線を戻し、バーニーが一つ咳払いをして恥ずかしそうに頭を掻いている。
「奥さん想いなんですね、バーニーさん。奥さん、お体ご自愛して下さいね」
「フフ、ありがとうございます。予定もまだまだ先なのに、こう見えて心配性なんですよこの人」
「あー、っとだな!? これ、うちで取り扱ってる商品でな! 前に兄さんが来てから俺にも何か出来るかと、栽培が出来そうな物を色々揃えてみたんだ」
俺と彼の奥さん、カリスとの会話を遮るように顔を赤らめて大きな声を出したバーニー。彼は奥さんから半ば強引に奪った籠の中にある食べ物であろう実を、近くに置いていたナイフで切り分けていく。
「ほれっ! これはシュナの実だ、一つ食べてみろ」
「フフ、頂きます」
珍しく焦りを見せているバーニー、その少しだけ取り乱した姿に祝福の薬草汁シャワーは勘弁しておいてやるとしよう。
手渡された短い串に突き刺された食物、見るからに瑞々しい白い色合いをしたそれに鼻を近づけて一度香りを確かめるとどうやら果物のようだ。スッと抜けるような爽やかな香りが鼻を抜ける。
バーニー夫妻が見つめる中、それを頬張り咀嚼してみたが味は柑橘類のように酸味が強く、しゃくしゃくとした食感は梨のよう。
「おいしいですね、この酸味は好き嫌いが分かれそうですが香りも良いですし、幅広い用途に使えそう……」
「ああ、これは木になる果実だから収穫までの期間が開いてしまうが、兄さんが言ってたように幅広く栽培をするなら、そういう物も欲しいだろう?」
「お腹に子供がいる身としては、この酸味がクセになっちゃいます」
そう言いながら一切れを摘まみ、口へと運び味を楽しんでいる彼の奥さんとこの果物の調理法などを話していると、その横では籠に入っている物をバーニーが取り出し、ナイフで一口サイズに切り分け次々にテーブルにそれらを並べながら説明をしていく。
食事をしてこなくて良かった。
一口サイズにカットされているとはいっても、大きなテーブルに並べられた食材を全て味見させられるとは……。
彼らの並べたこれらの食材はどれもバーニーの店が取り扱っている物、尚且つ拠点やこの辺りの気候でも充分に成長する物ばかりらしい。
中には寒さに弱い物があったりとするのでそれは個別に注意が必要という事だが、これら全てが拠点で栽培出来れば食材に関してはもう十分と行ってもいい程だ。
「そうそう、最初に食わせたシュナの実な? 不思議な逸話があるんだよ。これを栽培しているヤツから聞いたんだがな……」
彼は粗方の食材の説明を終えて一息つくようにお茶を飲みこむと、思い出したようにそう口にした。
「この実を成す木が近くにあると、他の作物の成長が良いらしい。野菜なら大きく育ったり、果実なら甘い実をつけたり、コレの栽培が盛んなところは確かに他の作物も良く育っててな。もしそれが本当なら、兄さんのところにあったら助かるんじゃないか?」
「それは確かに大助かりですが、不思議な話ですね。何でそんな効果があるんだろう……」
俺の小さな疑問にバーニー夫妻も首を傾げ、その理由までは知らないよう。一度ポッドとドーリーに話を聞いてみようかな? あの二人なら何かわかるかも……。
「でも、もしそれが本当なら助かりますし、そうじゃなかったとしてもこの果物が手に入るのは充分に魅力的ですよ。これも頂きますね」
「おう、実はこのテーブルにあった物で丁度半分なんだ。もう半分持ってくるから少し休んでてくれ」
「アナタ、私も手伝います」
その後もバーニー夫妻の仲睦まじい様を見せられながらの品評会のような物は続き、俺はというと、イチャイチャする二人を見て鞄の中の水筒に手を伸ばしながらも、最後の一線のところでぐっと堪える、という行動を繰り返していた。
彼らはそんな俺の行動に不思議そうな視線を送ってきてはいたが、それ程気にすることもなく次々と持ちこんできた食材を一口サイズにカットして俺の前へと並べていく。
どの食材にも二人の懇切丁寧な説明があり、甘味から苦味、優しい味わいの物から少しクセの強い物までありとあらゆる物を網羅させられた。
「よし、何とか全部いけたな。お疲れさん」
「うっぷ……、流石にもうこれ以上は食べられません……。でも、おかげでこれから先この中の物を仕入れさせてもらう時の参考に出来るので、お二人には感謝しないと」
バーニーの奥さんが淹れてくれた温かいお茶を啜りつつ、今回仕入れる食料品の商談を纏め上げた。
この店では常に大量に食料を購入するが、今回はいつにも増して量が増えている。
「そうだ、バーニーさん。宜しければまたお酒も頂きたいのですが」
「おう、そりゃいいが……。いや、何でもない。色々とうまくいってるようで安心したよ、この街の重鎮を酒場に連れてくる程だしな」
彼は怪訝な顔を最初浮かべていたが、何かを思い至ったように一つ鼻で笑って首を振ってそう呟いた。
最初にセバートに紹介されてお世話になった時からずっとそうだったように、今回もこちらの懐具合を心配してくれていたようだ。
それを今回は言ってこなかったという事は恐らく、彼には今この街を賑わせている鉱石や、それに関連する物を俺がゴダール商会に卸しているという事もバレているのだろう。
「大丈夫ですよ、おかげさまでお金はちゃんとありますので。いつも急な頼み事ばかりですみません」
「フッ、いいんだよ。こちらとしては大助かりさ。酒ならまた移動する事になるが自分で選ぶか? こちらが用意しておいて、後で取りに来るのでも構わないぞ」
ありがたい申し出だ、それならまた自分で選ばさせてもらうとするかな? この後行かないといけない場所は魔道具店やその他、細々とした物が中心でそして夕方頃に店に顔を出せ、と指定をされたセバートの店は最後に行けば問題は無いし……。
「ええ、お願いします。それなら腹ごなしに早速行きましょうか。それではカリスさん、今日は色々とありがとうございました。お腹の子共々、お体大事になさって下さい」
「ええ、ありがとうございますホリさん。またお会いできるのを楽しみにしておりますわ」
彼女に見送られながら、バーニーと二人で酒を保管してあるという場所まで歩き、その道すがらで目についた物を質問したりとしているとあっという間に目的地へと辿り着いてしまった。
彼はやはり食料品のプロで、俺が興味を惹かれる様々な品を一目見てどういった物かという疑問にすぐさまに答えてくれる。これは無知な人間からすればとてもありがたい事だ。
いつも開けてびっくり食べてびっくり、スライム君に後は丸投げ! という無責任極まりない行動をしているしなぁ……。スライム君は俺のそういった無茶な行動によって齎された食材すら楽しむようにして美味しく調理してくれているが……。
そうだ、スライム君にもお土産を買っていこう。どういう物が良いかな? やっぱり料理に関連する物がいいよな、何にしよう……。
「おい兄さん、ついたぞ? どうしたボーっとして」
「ああ、すみません。ちょっと考え事をしていました」
気を取り直し、バーニーに連れられて酒樽がこれでもか、と並べられている場所までやってくると、いつもと違う違和感に気付いた。
「んん……?」
いつもなら、こうして酒樽の近くを歩いているとたまに熱を帯びたりする神様から貰った腕輪が今回は樽全ての前を歩いていても、全くと言って良い位に熱くならない。
腕輪の輝きもどこか……、鈍いような気がするがどうしたのだろう?。故障したかな?
俺が樽を眺めながら首を傾げていると、それを見ていたバーニーが苦笑していた。
「やっぱり気付いたか、本当に酒選びがうまいな? 実のところを言ってしまうと、今ここにある在庫の酒はどれもそれ程上質、という訳ではなくてな」
「そうなんですか? いや、素人なのでよくわかってはいませんが」
彼は表情を崩し、すぐ傍に有った酒樽の一つをポンと軽く叩いた。
「実はな? さっきゴダール商会のところのセバスさんが、『酒を樽で欲しい』と血相を変えてうちに来てなぁ……。ここへ案内するや否や、上質な物を殆ど買っていっちまったんだ」
その時の事を思い出すように口元に手を当てて笑いを噛み殺している彼だったが、それが治まると今度は不敵に笑いながら俺に鋭い視線を向けてきた。
「なんかな? 『今から少しずつこの街にある最高の酒を揃えて、次に備えねば』って呟いてたんだよ。その後も、あれの味がどうとか風味がどうとか、ぶつぶつ言いながら頭を捻ってたんだ。どうしてだろうなぁ?」
「フフ、どうしてでしょうね? それにしてもあのセバスさんのそんな姿、是非見てみたかったなぁ」
そんなに楽しみにしてくれたのか、魚の燻製。
これは次来る時に多めに渡してあげるとしよう。バーニーの方も色々と察しているのだろうが、彼はそれ以上何も追及をしてくる事もなくその時の事を楽し気に話してくれた。
「クック、あのいつも冷静で紳士然としてるアノ人がまるで、子供がどの菓子を買うか悩んでるように唸ってるんだ。ありゃ相当、その『何か』を楽しみにしてるみたいだったな」
彼はそう言い終わると自身を落ち着かせるように大きく息を吐き、並べられた樽を一瞥した。
「良い物を見せて貰えたお礼だ、ここにある酒纏めて買ってくれるならこちらも値段の方に色をつけるぞ。どうせこのままだとこの街の酒場をやってる連中に『質が悪い』って強引に買い叩かれるしな」
「いいんですか? こちらとしては大助かりです。それなら全部頂きますね」
拠点の皆には悪いが、お酒はがぶがぶという言葉がぴったりとハマるくらい飲んでしまうからとにかく量を優先して揃えたい。パメラ辺りが本気を出すとこの並んでいる樽の数々も一晩で空となってしまうだろう。そう考えると恐ろしいな、彼女は。
まぁ先程購入した食材が採れるようになったり、作物がもっと取れるようになればお酒も造れるだろうし、って、あれ? 何か大事な事を忘れているような……? 日常的に口にしているような物で何か作れたような……。
「おい、どうした? 何かあったか?」
「あ、ああいえ、何でもありません。すいません」
何だったっけな? うーん……。まぁ、今はこの樽を片付けるとしよう。
その後、バーニーの手助けもあって樽を鞄に収納し終えるとその場でお会計となった。金額の方も白金貨四枚ほど。
量、質が伴った結果途轍もない金額となったが、今の自分の懐事情には大した痛手ではない!
「フフ、毎度あり。そうそう、もし兄さんのところで食材が余り始めたら是非うちに持ってきてくれよ? 楽しみにしてるからよ」
「まだまだ先の話ですよそれは。でもそうですね、その時が来れるように頑張ります。では、今回もありがとうございました」
バーニーは樽などが無くなった倉庫の掃除をしていくというのでその場で別れを済ませてそのまま次の目的地へと向かおうと思ったのだが、たっぷりと食料品を買った直後だというのにやはり寄り道をしてしまった。
少し時間が経ってしまったが、目的地の黒猫が描かれている看板が見えそのまま扉を開けて中へ入ると、以前の色白な茶髪の男性がカウンターに座って何かを弄っていた。
「い、いらっしゃい。お久し、ぶり」
「覚えててくれたんですか、嬉しいです。お久しぶりです」
彼の言葉にそう返すと、少しはにかむようにして数回頷いた彼はそのまま、手元の何かを弄り始めてしまった。
何を作っているのか気になるし、その作業に集中させてあげたいところだが、こちらも時間に余裕がある訳でもない。
とりあえず大事な事は先に言ってしまうとしよう。
「すみません、今日はちょっとご相談があるんですが」
「は、はい。何だろう……」
カウンターにいる彼に見えないように鉱石の板を取り出して欲しい物をとにかく告げていく。
何せ、オークを始め嗅覚に優れた者が多い魔族達。
今回一番要望の多かった魔道具である空気清浄機能付きの布から始まる、以前この店で買った品の数々を大量に欲しいと言うと、色白な彼の顔が更に真っ青な物に変わっていってしまった。
「ちょ、ちょっと……、それだけ買うとなると、かなり高くなっちゃうけど、いいの……?」
「ええ、大丈夫です。以前こちらで買わせて貰った物も凄く役立ちまして、今回はいっその事纏まった数を揃えてしまいたいので。それで、代金はどれくらいになりそうですか?」
彼はあたふたとしつつも、手元にあった紙などを見てあれこれと計算している。
どうやらあの紙に商品の在庫が記入されているのだろう、その後彼はカウンターから出て俺の横に次々と魔道具の入った箱を置いていった。
「いくらくらいになりそうですかね?」
「だ、大体だけど、はっ、白金貨十枚分だよ……!? 本当にはっ、払えるの……?」
彼自身、あまり肉体労働をするように見えないのだが、一度お金を見せるとやる気を出すように後ろ髪を縛り、気合を入れるようにして荷物を出し始めたが早々に息を切らしてじわりと汗をかいている。
彼の作業を手伝いながら問いかけてみると、一度息を整えるように深呼吸した彼が出してきた金額はこの街で過去最高の購入額となってしまった。それでもお金の入っている小箱の中にはまだまだ白金貨が列を成しているとは……。
この後はまた様々な職人達がいる工房エリアに行って細かい物を買うつもりだが、ゾフィーアの望むように使い切れるか不安になってきた。
このお金は次回に来た際に何かがあって手間取るような事がないように少しは残しておこうとは思っているが、それでもこうしてまだまだ輝きを放っている残金、恐ろしい。
ずらりと並べられた魔道具の数々、今日何度目になるだろう大量収納も流石に手馴れてきたので効率良くポンポンと入れていると、流石は魔道具職人、目の付け所は鞄に向かって一直線だった。
「そ、それ……。かなりの魔法鞄だね、ちょっ、ちょっとだけ見せてもらえないかな?」
「え、えっと……」
見せるのは構わないんだけど、これ魔王から貰った品だからなぁ……。
何か、俺の知らない見られたらまずい物があっても嫌だし、断っておくかな? 彼には申し訳ないけど。
「すみません、これをくれた魔道具の職人さんが他人には見せないで欲しいと言っていたので、それは勘弁してください」
「そ、そっか……。ここ、こちらこそごめんなさい。それだけ淀み無く魔力を施行する術式に興味が出ちゃって……」
詳しい事は分からないが、魔道具職人にしかわからない何かがあるんだろうな。この鞄には。
彼は俺の言葉を聞いてがっくりと肩を落とすようにして、ちらちらと鞄へと視線を向けているが流石にこのまま見られているのも気になってしまうから話題を変えてしまおう。
「それよりもお聞きしたいのですが、こちらには例えば、火の魔石から出る火力が調整できる調理器具のような魔道具はありませんか? 料理を作る時に使いたいのですが」
「あ、うん。え、えっと……。しょ、商品っていう訳じゃないけど、あるにはあるよ。僕の作った試作品でえっと、あ、あれ? どこ置いたっけな……」
彼は小さく呟きながらカウンターまで戻ると、そのまま見えないところでガチャガチャと音を立てて目的の物を探して悪戦苦闘している。
そしてそれを見守っていると僅かな時間で四角い箱のような物を俺に見えるようにカウンターの上に置いた。
「あ、こ、これなんだけど……」
彼は俺の方へカウンターの上を滑らせるように角ばった白い箱を差し出してきた。
サイズとしてはかなり大型なソレにはレバーのような物がついていたり、火の吹き出し口のような部分や取手がついていて蓋のようになっている部分が目立つ。
持ち運びの出来るコンロのような物に近い形をしているな、と眺めていると、作った本人による説明が始まった。
彼はまず最初に箱の取手を引っ張り、パカッと音がしそうな勢いで蓋を開けると中には二つの小さな空間が広がっている。
「こ、ここ、の部分に火と風の魔石をい、入れるんだ。だ、大体、だけど屋外できょ、強風が吹いててもき、消える事なくちゃんと火が鍋に当たるように調整してあるよ」
「素晴らしいですねそれは。これ頂きたいんですが、おいくらですか?」
彼はそれを聞いて小さく震えるように首を振ってきた。
「い、いらないよ。これは、さ、最初、幼馴染に無理矢理頼まれて作った奴で、こっちのはか、火力がちょっと強いからって、突き返された物だからあ、あげる。どうせぼ、僕は使わないし、捨てるのは可哀想だし……」
「えっ、いいんですか!? こんな便利な物なのに!?」
思いがけない言葉につい声が大きくなってしまい、それに驚きながらも彼は何度も頷いて応えてくれた。
「う、うん。使い勝手も悪くない、と思うよ。りょ、『料理を勉強中の私にこんな火力の強い物を渡すなんて喧嘩売ってるの?』って突き返された以外は問題無かったし」
「それは……、ご苦労様です……」
色々と苦労しているんだろうなぁ。
彼はその時の事を思い出しているのか、唇を噛みしめて何かの弾みで泣いてしまいそうな悲痛な表情を浮かべている。
「見ていると、その時を思い出してか、悲しくなるから……。使ってもらえるなら嬉しい、よ」
「ありがとうございます! こんな良い物を貰えるなんて、今度また来た時に感想をお伝えしますね!」
彼ははにかみながら頷き、その後魔石コンロの使用方法や注意点などを詳細に教えてくれた。これでスライム君へのお土産を手に入れられたぞ! 彼が喜んでくれればいいんだけど、渡した時にどんな反応を示すのか今から緊張してきた……。
「それにしても、色々作っていらっしゃるのにそれらは商品にしないのですか? この火力が調整できる箱も欲しがる人はいそうなものですが……?」
「う、うん。コレらはあくまで僕の思いつきで作った物が中心で、そ、その箱も、それの延長みたいな物、だから。お金、儲けがしたいと言うよりす、好きで作ってるだけだし。それに、しょ、商品にするなら、も、もっと突き詰めてしっかりと作りこみたいんだ」
常におどおどとした物腰の彼ではあったが、そう言っている時の目はとても力強い輝きを見せていた。
そんな彼の瞳に感化された俺は、魔道具という存在に対して以前から考えていたある事を彼に話そうと鞄の中から小箱を取り出し、一枚の白銀に輝く硬貨を俺と彼の間にあるカウンターの上に置いた。
「不躾な話ですみません。俺と契約して、魔道具を作って下さい」
「うぇっ?」
今日この店に来てから初めて彼としっかりと目が合った気がする。
しっかりと彼の眼を見つめ返し、俺は考えていた案を彼に説明し始めた。




