第102話 拠点一武闘会
ここ最近、特に老犬拉致事件からの日々はもしかしなくてもこの世界にやってきてから一番あれこれと忙しかったかもしれない。肉体的にはいつも辛いが、精神的な物が特に。
極めつけに使ったブーストポーションのおかげで身体も限界だし、流石に当分はのんびりするぞ! と心に決めているが、どうなる事やら。
薬を飲んでから、二日間動き続けて丸一日眠り続けていたという話だがその間に、忙しかった日々に手にした物が一つの形になった。
ふらふらとした足取りをゴブリン達に支えてもらいながら、俺の視線の先にあるのはプランター、そこでは俺に気付いた猫人族の少女がはしゃぐように跳ねてこちらに見せるようにしている掲げた砂糖モドキ。ポッドやドーリーのおかげで急成長させた調味料の中で、一番成長の経過が良かったのだとか。
マリエンが黒い尻尾と髪を揺らして腕の中に大量にあるそれをこちらに持ってきて披露するように見せてくる。
「ホリ様! 見て下さい、とうとうここまで大きくなりましたよ! これからポッド様のところへ持って行って、経過を見てもらうんです!」
「凄いねマリエン、お疲れ様。シュレンも他の皆もお疲れ様。植えた物はどれも良い感じみたいだね」
「はい、ぷらんたーの数を増やして頂きましたが、この様子ならまだまだ増やしてもいいかもしれません」
プランターの大多数からは芽が出ているし、ペイトン達や彼らの頑張りが伺える。あれこれと眺めているゴブリン達も楽しそうだ。
彼らに挨拶をしてその場を離れ、アリヤ達に支えられて次に向かった先は魚の養殖場。どうやらここはあの薬の影響を受けて拡張を続けているようで、大きさが以前の物より伸びている。
元々、ウタノハから貰った首飾りから溢れる水の量は多く、ただ垂れ流すのがもったいないと感じていたのもう少し拡げる余地もありそうだ。
その養殖池の近くでウタノハとオラトリや、リューシィ達リザードマンがぽちゃぽちゃと餌を投げ込んでいる。
「おはようございます、ホリ様。御身体の具合は大丈夫でしょうか?」
「おはようウタノハ、皆も。うん、まだ少し苦戦しているけど、大分いいよ。餌やりお疲れ様、リューシィ魚の数はどうなの?」
「そうね、稚魚が大分増えているわ。ただ私達の想定以上に数が増え始めてて困っているの、この分だと魚の隠れる場所が無くなるかもしれないからホリがこの前広げた分、色々と拡張しないといけないわね。その事でおばあちゃんとアギラールがホリに相談したいって言ってたわよ」
水槽の中を見れば、透明感のある水の中を優雅に泳ぐ肥えた魚に混じっている小さな魚。数も多いし順調そうだな、元々どんな環境でも耐えられる逞しい魚をリクエストしたからというのもあるだろうが、やはりリザードマンの手腕もあるのだろう。水槽が汚れているようにも見えないし、流れている水も綺麗だからこの分ならあまり臭いの問題も起きそうにない。
「ホリ様! ハネタハネタ!」
「冷タッ! アイツ、今日ノゴハンニシマショウ!」
「うん、それはリザードマン達の許可を得たらね。それじゃあ、俺は色々確認しにまた行くよ。皆よろしくね」
俺があれこれとやっているリザードマン達に頭を下げると、ポンと手を叩いたリューシィが何かを思い出したようにハッと息を飲んだ。
「そうそうホリ、ゼルシュ見かけたらここに来るように言っておいてくれない? アイツ今日の水槽掃除サボッてまたペイトンを連れ回してるわよ! ホリからも注意しておいてよ!」
怒りを見せた彼女はピンと立った尻尾で地面を叩いている。どうやら常習犯のようだが……。
「了解、って言ってもゼルシュは聞かないからなぁ。最初リューシィ達と来た時はあんなにクールな感じだったのに、なんであんな事になってるんだろうね」
「そうよ! ホリ達と会う前はあんなにかっこよかったのに最近酷いんだから! ホリも責任取ってちゃんと躾けてよね!」
それはト・ルースの役割でしょ……? と思いながらも、これ以上は何言っても藪蛇だな逃げよう。怒りを込めて餌を投入するリューシィはウタノハに任せて俺達はまた次の施設へ、とは言っても次に向かおうとしている場所、新たに拡張を始めた農業地帯用の場所はただ広がっていただけとゴブリン達が言っていたし、当初の目的地にいってみようかな。
あちこちに歩き回ってまだ本調子じゃないと認識させられるな、足が重いし少し息が苦しい。シーが不安気にこちらを見ているので、撫でておこう。もしかしたらここ最近の疲れもあるのかもしれないなぁ。
「ホリ様、大丈夫デスカ? 汗結構カイテマス!」
「マダ体、調子悪インジャ……」
「大丈夫大丈夫、ちょっと歩いて疲れただけだよ。心配してくれてありがとう。……ん? 何だろうアレ?」
向かう先に人だかり。
俺やゴブリン達がそこへ辿り着くとどうやらその新しい建造物についてあれやこれやと皆で話をしていたようだ。
「ホリ、目覚めていたのか。すまんな顔を出せなくて、今狩猟を終えたところでここへ来たものでな」
「アナスタシア、お疲れ様。ちょっとごめんね、俺もどうなっているか確認に来たんだよ」
ふらふらとしている俺に手を貸してくれる彼女、その彼女やゴブリン達のおかげで見えてきたのは鉱石を使った石畳の四角い舞台が広がっていて、そして周りには階段状になっている観客席や通路、奥には大きな建物が立っていて石畳に続く道が舗装されている。
「おお、まさかこれ程の物が出来るとは……。流石パッサン、いい仕事してるなぁ。これなら問題なくやれそう」
あちこちを見て確認してみたがいい出来だな! 舞台の角にはよくわからないが、美人の像や顔の迫力が凄まじい像、小さな女の子の像やモヒカンマッチョの像があるのは目を瞑っておくとして、何故一番目立つあの建物の屋根の頂点に巨大なスライム君の像があるのだろう。被っている王冠も気になる。
「ホリ、これが建てたかった物なのか?」
「うん! よし、こうしてはいられないな。皆悪いんだけど、手が離せない人以外呼んできてくれる? 話をしたい事があるんだ」
頷いてくれたアナスタシア達を見送り、奥に見えていた建物の内部へ入ってみるとそこには控室、更に食事が出て来そうな食堂に、汗を流す為だろうか? 浴室まで完備! 二階には寝室まで!? 俺ここに住もうかな……?
設備がいいとはいえ流石に場所が不便すぎるか? だだっ広い居住区の隅に住んだりしたら何かの時に面倒で仕方ないだろう。自転車が欲しくなるほどに距離あるし。
二階から一望できるこの眺めもいいな、まだぽつぽつとしか建っていない家が寂しいがそれでも白銀の世界に生まれ始めている施設が彩る色、それがじんわりとした気持ちにさせてくれる。
「ホリ様、ドウシマシタ?」
「ワッ、アリヤ、ココイイ眺メ!」
俺が出窓のようになっている窓枠から外を眺めていたら、やってきたゴブリン達も息を漏らすようにして身を乗り出している。
「いやさ、スライム君がいないけど最初は俺達だけで始めてここまでやってこれたんだねえ。そう思ったら少し感慨深い気持ちになっちゃったよ、良い眺めだね」
俺の気持ちに笑顔で頷いている三人、がしりと握り拳を作っているシーが強い眼差しを向けてきている。
「フフ、そうだね。まだまだこれから頑張らないといけないね、頼りにしてるよ三人共?」
「ハイッ!」
「俺達ノ冒険ハココカラダ!」
最終回のようなアリヤの台詞に爆笑していると、ベルが遠くから走って来ている住人達に気付いて手を振っている。あれはラヴィーニアかな? 起きていたのか。
うーん、それにしてもやっぱりいいな普通の家……。何かあった時用にここへ食料を隠して、避難できるようにしてみよう。いざという時の為に……。場所がなぁー、悪すぎるんだよなぁ。
ラヴィーニアも加わったところで、一通り家を見回るのも終えて、その頃には住人全員集合。相も変わらず反応の良さによって集まった人達は石畳の傍に集まりがやがやと話をしている。
「よし、それじゃあ発表しよう」
皆より一段高い石畳の舞台上に立ち、全員の顔が見えるような高さから全員に聞こえるようにと大きく息を吸い込むようにして深呼吸をしていると、話声が無くなり少し空気が張り詰める。
「ええっと、皆さん! 今日来てもらったのは他でもなく、この設備! これが何かとあれこれ話をしていたようですが! そう、これは舞台! 今度ここで、異種族武闘会を開きたいと思います!」
ざわり、といった具合に静まっていた空気が途端に賑やかになりガヤガヤと声が聞こえるが、手で抑えるようにすると再度静まり返ってくれる彼らはいい人達だ。
「異種族、とは言ったけど、勿論同種族で固まってもいいです! 出場の条件は三人揃えてエントリーするだけ! あれこれと用意はするけど、武器も真剣ではなくて木を使った物など、色々と用意してやろうと思います!」
「はいはーい! しつもーん!!」
黒い肌をした腕が集まった人達の中から伸びている。フォニアに手で促すと、全員の視線が彼女に向いた。
「優勝したりしたら何かもらえますかー!?」
「いい質問だね、ありがとう。勿論優勝賞品があります。数や順位とかは決めていないけど、優勝者には不肖ながら俺から武器を作らさせて貰います! 他にも、魔王様達に頼んで色々と用意してもらったり、それ以外にももちろん副賞もあるよ!」
一際大きなどよめきと緊張が走った一同の中で鬼の教官が手を上げた。優勝候補の筆頭と思われる彼女が手を上げた事で、何を言うのかとまたどよめきが静まっていく中でアナスタシアが口を開いた。
「武器は普段使っている物でいいだろう。その方がより良い訓練になる。何、以前にホリが作った防具があるだろう? それを着用しておけば致命傷になる事は少ないし、普段の戦闘により近い物にした方が実りがあると思うのだが」
「ええ……? 怪我とか重傷を負われても主催した側からすると困っちゃうんだけど……。一応そういう意見もあるから、それなら参加をしようとしている人達で今多数決を取ろうか」
見回しながらそう問うと、頷いている彼ら。どちらに転ぶんだこれは……。
「ええと、武器は真剣じゃなくていい! 遊びの延長でやろうぜウェーイ! っていう人は手を挙げてー?」
シーン、というまさにこの音が示すような空間。静かに誰も動かず、手を挙げた者は一人もいない。
「ええ……? それじゃあ、武器は勿論愛用の物で! 命のやり取りを教えてやるぜヒャッハー! って人は手を挙げおわっ」
食い気味に挙げられた手、ソレが示すのは全員、満場一致である。どちらにも手を挙げていない者もいるのは、参加をする気がないという事だろうし。
戦いにおける心構えが俺とは根本的に違うのだろう。それでも怖いなあ大怪我でもされたらどうしよう。
ゼルシュに背負われているト・ルースや、老犬の背に乗るラルバと乗せているリーンメイラが俺の前へとやってきた。
「ホリ様、怪我人はあたしらやあの大木に任せてくだされ。ヒッヒ、目を潰したりしなけりゃ、ペトラ嬢ちゃんの薬草汁もあります。参加しない者は運営側を手伝いますよ」
「娘達は出たがるだろうが、私は一戦持てばいいくらいの体力しかないからねえ。ホリさんを手伝うよ、なぁラルバ?」
「ええ、出場を希望する者以外はホリ様をお手伝いするとしましょう」
薬草汁、その単語が出た時に何割かの者達が「あっ」という声を出して頭を抱えたが、横で後悔をしている者達を尻目にペトラが気合を入れて拳を作っている。
「ホリ様お任せ下さい! 例え目が潰れてもまた生えてきてしまうような、最高に効き目のある物を煎じてみせます!! シュレン、トレニィア手伝って!!」
「わかった、やろう」
「え、えっと……、うん……?」
彼女が力強く宣言すると、同調するシュレンに周りの絶望を察して困惑しているトレニィア。その影響力は絶大で、気合を見せていた者達は顔を強張らせていたり痛む頭を押さえる素振りを見せたり。カーリンに至っては先程まで母の横で息巻いていたのに、今はその母犬の体に顔を埋めていたりと。
戸惑いの色を強めている一同の中で、その空気と薬草汁の重圧に負けじと小さく手を挙げたオラトリ。
「ホリ様、宜しいでしょうか?」
「うん? 何だろう?」
「武闘会でのルールはどのような物がありますか? それと、先程仰ってました副賞というのは一体何が頂けるのでしょう? 武器や防具、それらはある程度充実していますからそれとは別の物なのでしょうか?」
ルールか……、ちゃんと考えてなかったけど危険な目潰しとかの攻撃は無しにしよう。後でアナスタシアとかに相談してもいいかもしれない、大会当日に発表するとしよう。
「ルールはまた追々、最初は真剣でやると思ってなかったから少し考えさせてね。副賞は皆の協力で砂糖とかの栽培が出来始めてきたから出来る事なんだけど、コレ!」
鞄に手を突っ込んで取り出したのはいくつかのブローチ、動物の形を模した物や武器を模した物、木や花を模した物を以前にポッドから貰った香木の大きな物を使ってゴブリン達に作ってもらった。
「それは……?」
「これをつけた者、所持している人にはオレグが先日物議を醸した『味見係』の名誉職を担ってもらうよ。スライム君や俺、他にも料理班が作り出したお菓子などの料理を優先して味を見てもらうという役割についてもらいます!」
女性陣だけでなく、男性陣からもちらほらと視線が強まったのを感じる。意外と男性の甘党も多いこの拠点、先日罰として糸素振りをさせられているオレグがどうして責められているのかと話題になって、味見係を一人でしていたという原因が発覚した際に、フラフラになった彼に追い打ちのように風呂場で股間に蒸気を当てていた者が多かった。
味見係という物が発覚してからというもの、立候補者は後を絶たないのでいっそこちらから選んでしまおうという意図があるこのブローチ、欲しがる人は多いだろう。
「このブローチは、これから定期的に開催するかもしれないこの大会で成績優秀者に受け継いでいこうとは思っているんだけど、それにこれ人によっては貴重な品だよ? ポッドから貰った木を使っているから種族によっては名誉にもなるんじゃない? どうかなオラトリ?」
「お答え頂きありがとうございます、味見係に任命されるためにどうやら本気でいかねばならないようで精神が引き締まりました」
「味見係の任、譲る気は毛頭ありません……。どうやら覚悟を決めて行かねばならないようですな……!」
質問をしてきたオラトリやそれに続いたオレグ、そして甘党から視線を集めるブローチ。ざわつきが強まる一同に、柏手を打って意識を戻してもらい最後に告げておく。
「三人一組、仲良しで集まってもいいし戦力を考えて強い人と組んでもいい。個人戦も考えているけど、団体戦に参加した人は個人戦には参加できないというルールにしようか? それなら人数的な問題も解決だし、チャンスも広がるしね」
「ヒッヒッヒ、それだと腹の探り合いも楽しめそうですねえ。己の実力を確かめる場にもなりますし、賞品を勝ち取る事を優先してもいい。楽しめそうですわい」
顎を爪で掻いて楽し気に笑っているト・ルースがそういってちらりと見た先にいるゼルシュは既にペイトンに声をかけている。
「おいペイトン、俺と組もう。オレグもどうだ?」
「いいですよ、色々と訓練した成果、ホリ様に見て頂きましょう」
「甘い物の為に負けられませんぞお二方、今日から大会の日まで訓練の時間を増やしましょう!」
その近くでも、イダルゴやレギィがプルネスに声をかけていたり、ティエリがロサナやトレニィアに声をかけていたり……。既にチームを作りに動きを見せている者達がいる。
「チーム作りが原因の喧嘩とかはご法度ね! 大会は一度魔王様が来てから開催日時を決めるよ、すぐという訳じゃないから参加者はじっくりと考えてみてね。チームが出来たら俺のところや、ト・ルース達に話して予め教えてくれればいいから!」
静かになって頷いている彼らに最後に注意しておかねばならない事がある、仕事を放置して訓練しようという声がちらほらと聞こえたのでそれに釘を刺しておかねばならない。
「あと、各種族に任せてる仕事はちゃんとする事! じゃないと出場権利を剥奪するからね? それじゃあ、一同解散!」
先程サボっていたというタレコミがあったゼルシュに指を差して叫ぶと、リューシィからパシンと肩を叩かれている彼が口を開けてこちらを見ているが気にしてはいけない。
解散と共にチーム勧誘の声が上がり、熱を帯びてあれこれと声が飛び交っている。やはり腕の立つ者達への声が大きく、囲まれている。
だがそれ以外にも、自分の弱点や長所を活かす為にメンバーを考えたり仮想敵を想定してあれこれと考えていたり、ライバルがどうするのか次第で団体戦か個人戦かを決めようという声もあってどうなるのかが楽しみではある。
その後アナスタシアやト・ルースといった代表者達に話を聞いてルールが決まる。
大まかにいえば髪を掴んだり目潰しや金的などの卑怯な攻撃はなし、気絶やギブアップ宣告で敗北。そして石畳の舞台から落とされても敗北。魔法も致命傷になりやすい物は使用しないなど様々なルールが決まっていく。
それから数日、あちこちでチームが決まり出し、一日の仕事を早々に終えて訓練に勤しんでいる者達が熱気を放つ中で魔王がひょっこりと洞穴に顔を覗かせた。
「やっとりますなー? ホリ殿、こちらの方もツマやムスメの予定を空けておきました。二人共楽しみにしておりますからな、私達の方からも色々と賞品を用意しておきましたぞ!」
「お疲れ様です魔王様、それはありがたいです。一体どんな物を……?」
久々に見たコワイ顔、俺もいつ来てもいいように叫ばない努力をしていたのが実を結んだのか、彼の顔を見ても鼓動が高鳴り速まるだけで済んで良かった。
「フフフ、内緒ですぞ! それにツマもムスメも何やら秘密と言っておりましたから、楽しみにしていてくだされ!」
「それなら、予定を決めちゃいましょうか? こちらはいつでもやれると思いますよ。毎日あちらこちらで訓練していますし、目標が定まった方がいいでしょうしね」
不敵に笑って頷いた魔王、やはりこの笑顔には慣れない。怖い物は怖いなぁ。
彼と日取りを決めてそのまま全員に声をかけていく。ついでにあれこれと設備を見てもらったり、魔王兼業農家の彼の助言でプランターを色々してみたり。
その日の最後に一緒に武闘会会場を見て回っている。
「ふむ! ここが会場ですか! なるほど、いい出来ですな。これは気合も入るでしょう……、ん? このイイオトコの像は一体誰でしょうな……?」
「誰でしょうね……。一体どこの魔王なのやらさっぱりで……」
会場にあしらわれている怖い顔の像を見て呟いた彼、どうやらご満悦な様子で最後に同じ物を用意してくれと言われたが、俺には技術的に同じ物は出来ないと断った。
一通り施設を見てもらい、最後に彼が帰還する際にもしかしたら魔王一家とあと一人余計に呼ぶかもしれないと断ってきたので、了承しておいた。
それから数日、開催日が決まった事で一層熱を帯びる訓練風景。連日あちこちで怪我人が薬草汁に悲鳴を上げる中でメキメキと進化を遂げていくペトラの手腕。
味付けの方も途轍もない事になっているようだが、彼女が出来上がった薬草汁を試すようにカップ一杯分ポッドの根にかけるだけで彼が途轍もない叫びと地鳴りのように地面を揺らしているのを最初に見た時は恐ろしくて体が震えてしまった。
それは大会をやると宣言したその日から連日のように行われていて、今日もポッドは叫び声を上げている。
「まだまだ、まだまだですよねポッド様! 待っていてください次の物は今の物よりもっと上手く出来た物なので!!」
「ま、待つんじゃペトラ。ワシ、もう枯れちゃう……んほぉぉぉぉっ!!」
彼女は夢中になってしまっているのか、ポッドの声を聞かずにまた新作をお見舞いしていく。そして轟く森の賢者の咆哮にも似た悲鳴。我らが薬草のファンタジスタの飽くなき追求は留まる事を知らない。
その結果なのかは不明だが、開催日前日にもなるとあちこちで切り傷擦り傷が頻発していても傷口に一滴垂らすだけで神経が焼き切れるのではという程の痛みと共に立ちどころに回復するようになるまでソレを昇華させたペトラ。
「なぁ、ホリ。ペトラはもしかして爺を殺す気なんじゃないのか?」
ドーリーは絶望に瀕しているような表情でペトラとポッドを眺め、その光景から視線を逸らさずに横にいる俺に小声でそう聞いてきた。
「大丈夫大丈夫、最近ポッドも葉っぱの青さが強くなってきたからね。案外若返ってきているかもしれない。それにアレ、体には良い筈だよ? 見た感じは拷問しているようにしか見えないけど」
熱を帯びてあちこちから訓練の声が混じる拠点、たまに聞こえる賢者の叫び。
大会は明日始められるという事で全ての準備は整った。更に以前グスタールであれこれと衝動買いしてしまった品の数々、鞄に隠してそのままにしてある物などを使って関口が宏するフレンドのパーク的なゲームを用意したりと、ここ最近で一番のんびりとしていたかもしれない。
そして明日に気力体力を充実させて参加する為にまず必要な事、それは……。
「楽しみで眠れないこの子達をどう寝かしつけるかなんだよなぁ……」
そわそわとしながら黙っても数分も経たない内に話を始めたり、体を揺らしていたり、寝返り一回転を決め込んだり……。
いつものように二人を俺が、一人をスライム君が抑えつけるようにして眠りについた。藁の寝心地はとても良いのだが、スライム君に包まれて寝るウォーターベッド、あれを体験させてほしいなぁ。
ぐっすりと休んでいるゴブリン達とは対照的に、目が覚めてしまった俺。
また俺だけ寝坊するよこれ……。




