1 出会い
とあるショッピングセンターのバックヤード、休憩室で光雄は目を覚ました。
あれ?僕は車に轢かれて?
周りを見回すと、従業員が休憩をとっており、その中にポツンと150センチ位の可愛らしい女の子が一人で座っていた。
「やっと起きたか?」
親友の義男が声をかけた。
「疲れたって言って、いきなり爆睡するんだもんな。」
今ひとつ状況がつかめなかった光雄だが、頭の中を整理していくと、自分は大学2年生のアルバイト店員、義男は同い年の社員。
となると、あそこに見える女の子は渡会智花さんか。ボーっとした頭で無意識に聞いた。
「義男?あれ?今日って何月何日だったっけ?」
「お前頭大丈夫か?勉強のし過ぎだろ。朝礼の時必ず確認するだろうよ。」
義男は大きく溜め息をつき
「8月26日だよ」
と答えた。
あ、と小さく呟くと、光雄はいてもたっても居られなくなり、智花の方に歩いていた。その時右脚と右肩に電気の様なモノが走った。
しかしうつ伏せで寝ていたせいだろうと気にせず歩んで行った。
「いつも一人でいるよね。」
文庫本を読んでいた智花に光雄は声を掛けた。
「もし良ければ、今度の休みにドライブにでも如何かな。」
驚いた様子で智花は光雄の方を見る。
「同じ建物だけと、会社が違うから、いつもポツンと一人でいるよね。ずっと気になっていたんだ。」
そう、彼女はショッピングセンターの中でも数少ないテナントの従業員だったのだ。
後ろでみていた義男がギョッとしながら光雄の襟を後ろから引っ張る。
「おい、光雄、唐突過ぎるだろ?渡会さんも困ってるじゃないか。それになんだよ、その口説き文句。お前のキャラじゃないだろうよ。」
そう、光雄はマジメキャラで通していたのだ。
しかし光雄は止まらない。
「この人は僕の奥さんになる人だ。だから、他の誰かに誘われる位なら、ここで渡会さんを自分のモノにする!」
光雄は思った。なんだろう、こんな事が昔あったような…
僕の奥さんになる人?
僕は一体何を口走っているのか?
自分自身でもわからなかった。
慌てて義男が止めに入る。
「おいおい光雄、いきなり過ぎだってーの」
言い終わる前に智花が口を開いた。
「イイですよ。私も中林さんの事が気になっていましたし。いきなり過ぎてびっくりしましたけどね。」
「そうだよ。お前にそんな一面があるなんてな。……で、渡会さん、コイツでいいの?」
「いいんですよ。それと瀬谷さん、中林さんと遊びに行く時は私も誘って下さいね。」
「それは光雄の役目だろ?」
おーーーい、僕の件じゃないんですかーーー?
光雄はそう思いつつも、彼女ができた幸せと、重圧感を感じていた。
何故重圧感なのだろう?
これから起きる事の予感?
これから起きる事の不安?
本当にいいのか?
やり直せるのではないか?今なら?やり直せる?一体何故?
しかし光雄はその意識の中でも、この人だけは大切にしなければならないという想いが勝ち、出た言葉を撤回する事はなかった。
光雄はバイトのシフトが終わった後、家電コーナーへと急いだ。
彼女と自分をつなぎとめるモノ、その当時流行り始めたポケベルを2台購入した。
もしかしたら彼女は既に持っているかもしれないなどとは、全く考えが及ばない位に舞い上がっていた。
光雄は自宅に帰り、大きく深呼吸をした。
あれ?なんかおかしい。自宅に帰ってきたのだが、何故か落ち着かない。
僕は中林光雄、21歳。大学2年生。うん、1浪したから間違いない。でもなんだろう?
今の自分が感じている違和感の整理をしようとした。
軽く目をつぶってみる。
前から気になっていたとは言え、なんで彼女を生涯の伴侶にすると思ったのだろう?
それ以前に昨日なにしてたんだっけ?
これからデートに使う車はプレマ…いや、プレリュードだ。弟と共同で購入したものた。
しかし、このシチュエーションは何処かで覚えている。
それは夢だったのか?妄想癖か?悪い癖だ。
光雄がそこまで考えた時、猛烈な眠気が襲ってきた。
意識が朦朧とし始めた時、休憩室で最初に感じた『車に轢かれた』という違和感が頭をよぎる。
えーと、えーと、何だっけ、考えているうちに、光雄は深い眠りについてしまった。
2013年10月24日
PHSは、1995年からのサービスだったため、当該表記をポケベルに変更しました。




